第5話 昔話

「、、、同志を撃つっていうのは、やっぱり気持ちの良いものではないね」

フラッシュさんはそう言って、銃口の煙を吹き消す。

相変わらず、顔を包帯でぐるぐるに巻いていて表情は掴めない。

「しかし、"遺産"を守る義務が我々にはありますから」

私はそう言って、自分の顔についた血を拭いた。

私の名はリアム・フリーマン、ホワイト家で用心棒をしている。

でもまぁ、用心棒と言ってもやってることは殺し屋とほぼ変わらない。

今回は、この遺産の管理者フラッシュさんと遺産を奪おうと計画していた、“元"仲間を始末しにきたのだ。

「いや、それにしても気のいい奴だったのになぁ」

フラッシュさんは残念そうな目で死体を見つめる。

私と彼が殺したこの男とはよく仕事で一緒だった。少し抜けているところはあるが、憎めないそんな奴だったのに、、、

しかし、この仕事をやっている以上いちいち殺した相手に対して、同情することは無意味であると分かっている。

「仕方ありません。当主様に背いたら始末されることぐらい、屋敷の馬さへ知っています」

「冷てぇのな、お前さんは」

彼はそう言って苦しそうに目を開ききった死体の目をゆっくり閉じさせた。

そして彼は十字を切る。すると、「ぉぎゃっ」

「リアム、、、今何か聞こえなかった?」彼が反応する。

「、、、えぇ」

私は耳を澄ます。

微かにだが、確かに何か聞こえてくる。

動物の鳴き声、、、いや、人間の赤ん坊だ。

「おいおい、まさか!」

フラッシュさんは慌てて部屋を飛び出すと、しばらくして1歳くらいの赤ん坊を抱いてきた。

どうやら、クローゼットの中に隠されていたようだ。

死んだこの子の父親はなんとか、助かったら逃げるつもりだったのだろう。

何も知らないその無垢なる存在はフラッシュさんにあやされて、笑っている。

私はすぐさま、銃のハンマーを下ろしその赤ん坊へ向けた。

「待て待て待て!リアム!何する気だ!」

フラッシュさんは慌てて赤ん坊を銃口から、離した。

「何って、、、撃つんですよ。当主様の御命令通り、家の中の者は皆殺しにせねば」

すると、彼は赤子に銃が向かぬように覆いかぶさった。

そして私の方を見ながら、「この狂った忠犬が!いいか!この子は何も知らないし、関係ないんだだから殺す必要はねぇ!」と言う。

、、、、私は間違っていることをしているのか?

「いいからフラッシュさんその子を貸してください」

彼の確固たる意思は変わらない。赤子を決して渡そうとしない。

この人はなぜかこういうところで甘い。

「よく考えろ。お前は、よく考えれば正しい判断をできるそんな男だ!

赤子を殺すことに意味があるのか?

この子を殺してみろ今度は俺がお前を殺す」

確かに関係はない。でも、命令違反になってしまうが、、、

でも今ここで、彼に逆らって死ぬのは正直ごめんだ。

「、、、分かりましたよ、フラッシュさん」

ここは彼に従うことにしよう。

私は銃をホルスターに納めた。

「はぁ、、、全くお前は、寿命が縮むかと思ったぜ、、、なぁ?」

彼がそう話しかけると、赤子はにこにこ笑っていた。

「さてと、さっさと家を処理して出るぞ」

私達は家から出ると火をつける、木造のその家はあっという間に燃え上がった。

それを見届けると、赤子を連れとりあえず私の家へ向かうことにした。

ここからさほど遠くもなかったし、屋敷に戻る前にこの赤子をどうするか決めなければならない。

家に着いて私はグラス2つにバーボンを注ぐと、フラッシュさんの前へ置いた。

そして、グラスをカランッとぶつけ合い一気に飲み干す。

「、、、この子ことだが、、、お前が育てろ」突拍子もなくそんなことを言うので、驚いてしまった。

「は?、、、またいつもの冗談ですか?」

彼は冗談が好きだ、くだらないものが多いが今回は少し笑えない。

彼は首を振る。

「なぁ、リアムお前にとって一番大切なものは何だ?」

私はしばらく考える、、、そして思いついたのは「ホワイト家への忠義です」それだけだった。

「そう言うと思ったよ、、、だがなそれじゃあお前さんはダメだ」

「何故です?」

「前から言おうとしてたが、お前さんはかなり無理をしている」

「無理?この私がですか?」

「あぁ、、、俺はよく見てるんだぜぇ。お前さんはよ、ひとを撃つ時、すごく悲しそうな目をするんだ。

今日なんか見てられなかった。

はっきり言おう、この仕事に向いていない、、、

お前さんは人を愛せる人間だ。

きっとこの子を育てれば、それに気が付けるさ」

正直、認めたくはなかった。彼のこの言葉は私の今までの人生を否定していることと同じだからだ。

私が人を愛せる、、、?

「しかし、、、」

「しかし、、、じゃねぇ!1回抱きしめてみろ」

「でも、、、」

「でも、、、じゃねぇ!ほらっ!」

半ば無理やり、その赤子を抱き抱えさせられる。

目を合わせると、可愛らしく笑い私の頬に触れようとした。

すると、フラッシュさんは私の前に手鏡を持ってきて見せた。

私はもっと殺人者の目をしているつもりだった。しかし自分で言うのもアレだが、その目はなんとも穏やかで優しいものだった。

「どうだ?リアム?」

私は赤子を見つめ、しばらく考える、、、

自分が、子育てをするなんて考えたこともなかった。

恋人はいたことがあるが、仕事柄結婚はできないだろうと思っていたからだ。

家族を持つ、体験ができるのか、、、

この子の親を殺し、勝手に私たちは助けてしまった。

責任を取る必要があるかもしれない、だけど私にできるだろうか?

でも、この笑顔を見るととても癒される。

枯れかけた心に潤いを与えてくれるのだ。

悪くないかもしれない。

そう思ったので、私は「わかりました。この子は私が育てます」と言った。

2.

それからも私は仕事は続けた、相変わらずの殺しの仕事だ。

"遺産"は常に狙われる。

私の仕事が尽きることはないのだ。

ただ、だんだんとミスが増えていった。ジェニーのことばかりを考えてしまい、注意力が散漫なのだ。

今日も油断してしまい、肩を撃たれてしまった。

だが、どんな傷を負っても帰ったら笑顔で娘が私を迎えてくれる。

それが最大の癒しだ。

そして、しばらくしてある程度の金を稼ぎ私は決心をした。この仕事を辞めて、ジェニーのためカタギになるということを。

貧乏でもまともな生活をしようと、、、

その決心まで、私は2年費やしていた。

ジェニーは少し話せるようになっている。

「ジェニー、今日は少し遅くなるかもしれない。今日はフラッシュさんのとこに行くぞ」

彼女はフラッシュさんにも懐いていたので、結構嬉しそうだ。

服を着替え彼女と手を繋ぎ馬小屋に行くと彼女を前に乗せ私も馬に乗り込む、そして彼の薬屋へ出発した。

「おしごと?」

ジェニーが私に尋ねる。

「あぁ、少し重要なのが入ってね。フラッシュおじさんに遊んでもらいな」

「うん!」

彼女は元気よく返事をした。なんと可愛らしい声なのだろうか、、、

そして、私たちはフラッシュの元へ着いた。

店に入ると「らっしゃい、、、リアムか」と言って持っていた薬を置いた。

ジェニーは彼に駆け寄ると、早速抱っこをしてもらう。

「、、、フラッシュさん、、、私は今日仕事から足を洗います」

彼は満足そうにうなずく。

「そうか、、、とうとう辞めるのか」

「はい」

「覚悟はできているのか?」

「はい、、、ジェニーを頼みます」

私はその後すぐに屋敷へと向かった。

かなり緊張する、、、当主はどんな顔をするだろうか、、

様々な思いが交差した。

そして着いてから、すぐさま当主様の部屋へ向かうと、彼は少し驚いた目で俺を見つめる。

「おぉ、リアムどうした?」

彼は3歳になるエマと遊んでいた。

いつもの威厳のある、態度とはだいぶ違う。

「実は折言って、話したいことがありまして」

私がそう言うと彼はエマを撫で、従者を呼ぶと2人きりの空間を作ってくれた。

「んで、話って?」

彼は高級そうな葉巻に火をつける。

「、、、この仕事を辞めたいのです」

葉巻を吸う手が止まる、、、そして、それをゆっくりと置いた。

微かに手が震えているのがわかる、、、怒らせてしまったのだろうか。

「、、、辞めたい、、、か」

しばらく沈黙が続く、まるで永遠のように感じられてとても息苦しい。

そして、やっと彼は口を開いた。

「あぁいいだろう」

意外とあっさりしていると思ったが、「だが条件がある」と言う。

やはり条件があった。沢山の情報を持つ私をそう易々とやめさせてくれるはずがない。

「お前は字は確か書けないよな?」

今、なぜ確認したのだろうか、、、

「えぇ、、、まぁ、、、」と答えると

「わかった、おい誰か!」と彼は呼んだ。

しばらくして、従者が入ってくる。

「急いでダニーを呼べ」

それだけ言うと彼は、従者を行かせた。それから引き出しを開けると私の方へナイフを投げた。

それは、ちょうど私の目の前に落ちる。

「それで、喉刺せ。それがけじめだ」

私はゆっくりと手を動かし、そのナイフを手にする。

なかなかハードな内容だ。

だけれど、きっとやらなければこの仕事から解放されない。

しかし、ダニーを呼ぶということは、死ねという意味ではないらしい。

私はナイフを持つとだいぶ躊躇したが、震える手を左手で抑えながら。首に刺そうとする。

嫌な汗が流れた。下手をすれば死ぬかもしれない、、、

そして、私は意を決して一気にナイフを刺した。

かなりの激痛が走り、意識が遠のいていく。

そして、倒れ込むと扉を開けてダニーが入ってきた。

「、、、リアム!?」

彼は、すぐさまギフトを使い治療してくれた。

すぐには傷は塞がらなかったが、なんとか一命は取り留めた。

だが当主は「ダニー完全には治すな」と言う。

「ですが、、、このままだと話せなくなりますよ、、、」

ダニーがそう言うと、彼はにうなずく。「それでいいんだ。もう下がっていいぞ」

少しダニーは不満そうだったが、そのまま部屋から出て行った。

彼は仲間思いのなかなかいい奴なのだ。

さて、当主は自らの椅子から立ち上がると私の前に立ち見下ろす。

「リアム、、、まさか本当に刺すとはな、、、引き止めるためにやったことだが、、、お前の意思に敬意を表する。

それでだが、お前はこれからも、字を書くな、手話も覚えるな。

そのままで生きていけ。これが条件だ」それだけ言うと彼は椅子に戻り、「帰っていいぞ」と言った。

私は立ち上がり、軽くお辞儀をすると部屋から出る。外にはダニーが腕組みして立っていた。

「、、、リアム。達者でな」

私は何もせずにそのまま立ち去った。

そして、すぐにフラッシュの元へ戻った。彼は全てを察する。

「、、、相変わらず、あの人はエグいことをするな」

彼は私の肩に手を乗せ、言った。「でもよく決心した。お前さんバーやりたいんだったよな?」

私はうなずく。

子供の頃からの夢だったんだ。だけど、環境が悪く、どんどん店を持つ仕事から遠ざかっていったのだ。

でも、やっと夢が叶うんだ。

「俺が手伝うよ」

金はたんまりあったので、店はすぐにできた。

それからはしばらくは、平穏な毎日が続いた。店はなかなか賑わい、繁盛していた。治安が悪いので、たまには客同士の喧嘩が起こったりしたが、なんとかうまくやっていった。

だけれど、ちゃんとジェニーを、しつけられていたかどうか問われると一概にイエスとは、言えない。

言葉遣いも悪くなってしまったし、素行も結構良くない。

それでも、彼女を愛していた。

昔のように可愛らしい笑顔を向けてくれなくても、、、

そして、ジェニーが14になった頃のことだ。

彼女を連れ出し、銃の練習をさせることにした。

何年後かには、彼女は独り立ちしなくてはならないその前に身の守り方を教えておきたかったからだ。

意外にも彼女は乗り気で応じてくれた。

「これが、、、銃か、、、」

彼女はまじまじと得物を見つめる。

とりあえず構え方を教えることにした。

自分が昔教えられた通りに。

「痛っ蹴るなよ親父!」

右足が前に出ていたので蹴って直させる。

そして、撃つように合図した。

ダンッダンッダンッ

思わず、目を見張った。

彼女の弾は全て同じ場所に命中したのだ。

もしかしたら偶然が起こったのかと思い、もう一度撃つように彼女に指示する。

だが、結果は同じだった。またもや銃弾は、全て同じところに当たったのだ。

今日初めて撃ったとは思えない。私は複雑な気持ちになった。自分の愛娘が銃の天性の才能を持っていることに、この世界の皮肉を感じた。

そしてこの事実は私を地獄に落とすこととなる。

ジェニーの才能が発覚してから10日ほど経った頃、すぐに運命の日はやってきた。

何かに引き寄せらせるように、ミカエル・ホワイトが店に部下を連れてきたのだ。

実に10年ぶりの再会だ。

用件は仕事の依頼だった。

「護衛は15人だ。お前にしかできない仕事だ。我々も精鋭で望みたい。頼む、報酬はかなり弾むぞ」

だが、私は首を振る。もう、殺すための銃は握りたくない。

計画は、ブランド家当主への襲撃だ。最近密造酒での利権をめぐって色々と揉めているらしい。

だけれどもう、血の滲んだ金には価値を見出せない。だから、断固として拒否した。

「、、、そうか、残念だよリアム」

すると、彼が連れてきた下っ端の用心棒達は私に銃を向ける。

10年経ってもこの人のこの強引なやり口は変わらないものだ。

私も護身用の銃に手を伸ばす。

だがちょうどその時、銃の練習から戻ってきたジェニーと鉢合わせた。

彼女は慌てて、銃を構える。

「親父に何の用だ!」

「、、、リアムの娘、、、か?」

「あぁ、そうだ」ジェニーが答える。

「、、、なるほど」

すると、ミカエルはカウンターに置いてあったグラスを持つと「このガラスが落ちる前に、撃ち抜いてみろ」と言った。

「、、、は?」

「いいから、やってみろ」

彼はそれを上に投げる。するとジェニーは簡単にそれを粉々にした。当てたのは一発どころではなく、何発も撃ちグラスを完全に粉々にして見せたのだ。

「、、、見事だ!娘よ、、、名前はなんと言う?」

彼は彼女の腕前に感服している。

「ジェニー、、、フリーマン」

「、、、この出会いは、運命だ。ジェニー・フリーマン、、、父親の代わりに仕事を請負え」

冗談じゃない!彼女はまだ14なんだぞ!

私はたまらずカウンターから飛び出そうとする。

だが部下たちに体を抑えられた。

声が出ないことが、悔やまれる。

「、、、親父の代わり?」

「あぁ、、、殺しだよ」

すると、ジェニーは堪え切れずに笑い出した。

「何かと思えば、あんたらの頭の良さはロバ以下だな。

親父が殺し?冗談も大概にしてくれよ。」

「冗談ねぇ、、、まぁ、そう思うなら私達について来てみろ。真実かどうかは、すぐにわかる」

彼女には、私が昔殺しをしていたことは教えていない。

彼女の両親を殺したことも、、、

ジェニーはしばらくの間考え込むと「わかった。でも、親父は殺さないでくれそれが条件」と言った。

彼女は後先考えずに行動してしまうところがある。

私はなんとか部下達から取り押さえられているのを振り払おうとしたが、イラついた1人に頭を打たれ気絶してしまう。

そして、目を覚ました頃には誰もいなかった。

2.

目を覚ましてから、私は準備を始める。隠していた銃、弾薬をかき集めその全てを装備する。

護身用に常にそばに置いていた銃はともかく、まともな整備をしてなかったのでかなりガタガタだ。

そして、準備を終えて店を出た時にとある男が待ち構えていた。

ジョージ・スミスだ。

「どうも、リアム」

彼の左手には、ライフルが握られていた。

「、、、当主は何を考えているのでしょうねぇ、あんな子供を前線に出すなんて。

少しおかしいとは思いましたが、俺は昔のあんたのように忠犬だ。

だから、今目の前に立ちはだかる」

私はゆっくりと手をホルスターに収まっている、銃の方へ動かす。

「だけれど、前線から退いたあんたと違い俺はあれからもずっと戦い続けた。

だから、あの時のような差はもうないでしょう」

昔、彼に戦い方についてよく注意したものだ。

戦う前に喋りすぎるな、、、と。

私は銃を引き抜き、銃弾を放つ。先手必勝だ。

だがやはり鈍っているのか、外れてしまった。

「腕が落ちましたね!カウボーイ!」

彼は自らのお得意のギフトを発動した。

昔から、こいつは自分の透明化に頼りきりなことが多かった。

ちなみに、私は戦いに向いているものは持っていない。

とりあえず私は店の中へ素早く戻る。

そして、カウンターの後ろから散弾銃を構えた。

全神経を自分の目と耳に向ける。微かな動き、音に集中する。

そして、微かに扉が動いた瞬間に銃をぶっ放した。

だが、それはただただ微かに動いたに過ぎず彼の存在はそこにはなかったようだ。

そして、冷たい銃口が私の頭につけられていることに気がついた。

昔より気配を殺すのが上手くなっている。

「リアム、、、いや、これからはマスターでしたか。10年前のあんたなら俺は殺されてただろうな」

彼は私の頭から銃口を離した。そして、カウンターの外に出ると椅子に座る。

そして、バーボンを注文した。

「、、、仕事が終わるまで大人しくしていてください。彼女のことは俺が守るしあんたの命はとりません。

それに今、あんたが単身でホワイト家に乗り込んでも犬死にするだけだ」

彼の言っている事は正しい。

これもバチなのだろうか、、、散々人を殺しておいて、自分だけがずっと幸せになれるはずがないんだ。

神は私に娘を愛せさせ、そして引き剥がした。

まるで、贖罪しろとでも言っているかのように。

「彼女仕事が終わり次第必ずここに返すよ」

私は、自らの不甲斐なさを呪った。

今、ジェニーを救えるほどの力を持っていない。

その出来事から3日後、抜け殻のようになりながらも仕事を続ける。

扉は壊れてしまったので、いったん取り外した。

そして、夕方になってから帰ってきた。

血だらけのジェニーが。

「、、、親父」

彼女の目が、もう澄んだ色をしていないように感じる。

もう私の知っている、ジェニーはそこにいない。

若かりし私と同じ運命を辿ってしまった。

もう、この血に塗られた運命から抜け出したい。

そう思っていつの間にか、私はジェニーを突き飛ばしてしまった。

怖かったのだ。

我に帰ると、彼女の目は怒りに満ちている。

涙も目に溜まっている。

そして、立ち上がるとそのまま店を飛び出していった。

しばらく呆然とした、何も考えられずただただ同じグラスを何十分も拭き続けた。

後から聞いた話だが、暗殺は失敗。ジェニーとジョージは生き残ったものの、他の仲間は全滅したらしい。

この失敗は彼女を深く傷つけた。

しかし、その中でもジェニーは初仕事で5人の命を奪ったのだ。

3.

それから4年の月日が流れたが、彼女は一向に帰ってくる気配がない。

だが、たまにジョージはたまにうちの店に顔を出した。

ホワイト家は気に入らないが、彼がジェニーを救ってくれた事には感謝していたし、だからこそ彼の部下を私はあの時救ったのだ。

とは言っても、もうブランド家とホワイト家の争いに巻き込まれるのはごめんだったので、彼の戦いを手伝うことはしなかった。

しかし、店は彼らのせいでボロボロだ。修理しなくては、、、

そうして、修理をしようとした時「ただいま」という、懐かしい声が聞こえてくる。

とても癒される声、、、

そう、、、ジェニーだ。

なんとも、美しく着飾っている。

実に4年ぶりだ。立派に成長したものだ。

声が出ないのがもどかしい、彼女に言いたい「ただいま」とそして、「すまなかった」とも。

だが、それは叶わぬ夢だ。

私は、ゆっくりと彼女に近づくと抱きしめようとするが「やめろ!」当然、その手を彼女に弾かれた。

彼女は「別にあんたに用があるわけじゃない、、、和解もするつもりはない、、、だけど

彼に、、、フラッシュの居場所を教えて欲しいんだ」と言った。

フラッシュはたまに私の元を訪れてくれる、場所は分かっているが、、、

例え、仲間だとしてもホワイトの遺産を守るため教えては行けないことになっているが、、、正直、そんなことよりもジェニーの頼みを優先したい。

関係性を戻すチャンスは、今しかないかもしれないからだ。

私は、迷いなくミカエル・ホワイトとの約束を破ることにした。

ジェニーの後に続き、外に出ると懐かしき友ダニーの姿があった。

「リアム、、、久しぶりだな。念願の店を持ったことは聞いていたが、あんたの娘がジェニーだったとはな」

私は右手を差し出し、彼と握手をする。

彼との再会は喉の治療以来だ。

だが、もう1人の金髪の青年は見覚えがない。

私が抜けた後に入ったのだろうか、、、

とりあえず、彼とも簡単な挨拶を交わすと私はさっそくフラッシュさんの元へと彼らを案内する。

ここからは歩いて行けるが、近いというわけではない。

そして歩くこと20分で店へと着く。

どこにでもありそうな薬屋だ。

しかし、フラッシュがいる様子がない。出掛けているのだろうか、、、

店の前に立つ。

すると、ジェニーが何かを感じ取り後ろに銃を構えた。

「どうしたんだ、ジェニー」

金髪がそう聞くと、「じゃじゃ馬がいる、しかも超めんどい奴」と言った。

すると、トマホークを2本持った赤髪の女が建物の物陰から出ててくる。

片方のトマホークはなぜか完全な木製だ。

「あら、誰かと思えば斧子じゃない!」

わざとらしく、ジェニーは言う。

「誰が!斧子だ!、、、でもまぁ、また会うなんてとんだ悪運ね」

良くとがれたトマホークは、美しく光っている。

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