第6話 スッキリした女

 パチンコ屋とは、耳が遠くなる場所だ。


 視力が低下する場所だ。


 お尻と腰が痛くなる場所だ。


 秘密的に所持金が増えていく場所で、それ以上に所持金が消えていく場所だ。


 所持金は消えていくが今の私はそれをあまり気にしてはいない。


 本来手にするはずもなかったお金だからだ。


 私は“誰か”の代わりに女性からお金を受け取った。


 渡す相手をろくに確認してもいない女性を納得させるには、それがいいと思ったからだ。


 “誰か”さんがゆすって手にしようとしてたお金だし、あまり悪い気もしなかった。


 あとで誤解が判明した際の事は考えないことにした。


 なんとなく誤魔化せるんじゃないかと思っている。


 とにかくこの金は何かと“悪い”金だからだ。


 だから消えては増えるパチンコで、私はマネーロンダリングじみた事をやってみようと思った。


 突然得たお金を、勝ち取ったお金に替えてみたかった。


 結果はそう上手くいかず、ただただお金が機械に吸い込まれるだけだった。


 今日は諦めて別の使い道を考えよう。


 代わりのアイデアはいくらでもある。


 出来ればあまりしたことのない今までしてこなかった事をしてみよう。


 店を出ようかと立ち上がった際に、私とよく似た女性を見つけた。


 同世代っぽい女性は何人か見たが、風貌が本当によく似ていて服のセンスもそっくりだった。


 やはりよく似た女だからか、こんな昼間にパチンコをやっているのも似てしまうのだろうか。


 ただその女性は私と違ってあまりに必死な形相でパチンコに熱中していたので私は少し引いてしまった。


 ああはなりたくないものだ、なんて今の私も誰かに言われそうな言葉が頭に過った。


 きっとドッペルゲンガーでもない限り、いくら似ていても完全な一致なんて出来ないんだろう。


 いや、ドッペルゲンガーだって怪しいものだ。


 大半のホラー作品のドッペルゲンガーは成り代わろうと本人以上の野心や嫉妬を抱いてたりするし。


 完全な代替、なんて不可能なんじゃないだろうか。


 と、一つ答えが出たところで私はパチンコ店をあとにした。


 仕事をサボってまで得たものは、結局ちょっとした決別だった気がする。


 さて、夕方になったばかりだけど呑みにでもいきますか。


 人の金で呑む酒は旨い、と先人はいい言葉を残したもんだ。






『まにあわせ』、完。


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「あとがき」と「まえおき」 清泪(せいな) @seina35

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