死霊将軍の前に魔女が現れた
もりくぼの小隊
死霊将軍の前に魔女が現れた
コカカカ、我は死霊将軍。血肉無き死霊将軍なり。我が魔王の忠実なる僕にして魔王軍七つの軍団がひとつ「アンデッド軍団」を束ねし者なり。敬愛する我が魔王より預かりし宝具「月影の卵」を狙いし存在を今宵も葬るとしよう。来るがよい愚かなる勇者共よこの「幻死の間」に来られるものなら、コカカカカカカカ!
そして、いま我の前で幻死の扉が開かれる。来たか勇者。我が死霊の一部としてくれよう。コカカカーー
ーーギギギ、バアァン!
「トリック・オア・トリ~ト~! お菓子くれなきゃイタズラするぞぅ~!」
――――カカ……カ?
我の前に現れたのは、勇者ではなく。幼き魔女の姿……カ?
「うわあぁっ、玄関ひろ~い。お金持ちだぁ」
幼き魔女は物珍しげに辺りを見回しておるが、なんだこやつは、魔女のくせに魔力の欠片も感じぬ。まるでただの人間の娘のようではないか。なんだ、魔女とはいえ子どもが魔力感知無効スキルでも持っておるのか? それになんだか後ろに見える景色がいつもと違うのだが……いや、それよりそもそもなぜ魔女がここにおる。勇者共はどうしたというのだ。
――――おい、貴様。
「ん? わっ、ガイコツマスクだぁ。カッコいいっ、頭ぜんぶ燃えてるうぅ。おじさんのコスプレすごうぅいいぃっ!」
我が近づくと幼き魔女はなにがスゴいのか我の顔を覆う「死の焔」にはしゃぎながら目をキラキラとさせて見上げておる……ところでこの娘の言う「こすぷれ」とはなんだ?……や、そんなことはどうでもよい、聞きたいのは魔女とはいえなぜこのような子どもが幻死の間に入ってきてしまったのかと言うことだ。
――――おい、だからきさーー
「ーーわわわっ! オジサンどっから声出してるの? 頭にグワングワン響くうぅ!すげえぇ!」
我には声帯なぞ無いのだから別に声は出しておらん。頭に直接念を飛ばしているだけだ。や、だからそんな事よりも
――――貴様は誰だ? なぜここにいるのだ。
「ほええ?」
幼き魔女はポカーンと我を見上げる。我はただ見下ろす。やがて幼き魔女は我の言う事を理解したか、片手で三角帽子を摘まんでニッと、小さな牙を見せて笑いその名を口にした。
「あたしは魔女っこドロシー!」
――――魔女ドロシー。それが貴様の名か?
「ううん、「
……え、なんなんのだ? ドロシーと言ったではないかマツモトアズキとやら。むっ、こやつまさか死霊将軍である我を謀ったのか?
「ドロシーはコスプレしてるキャラの名前だよう? え、オジサン魔女っこドロシー知らないの?」
魔女の名などいちいち知らぬわ。しかしまた「こすぷれ」か。なんなのだ、魔女の魔法であるか?
なぞと考えていると
「トリック・オア・トリ~ト~!」
マツモトアズキはまた謎の魔法らしき言葉を唱えて小さな籠を我の前に突きだした。
――――……なんだ?
「トリック・オア・トリ~ト~!」
――――だからなんなのだそれは
「トリーー」
――――ーーわかったから、それをやめろっ。
マツモトアズキはワクワクとした様子で籠を突きだすままだ。我がどうしたものかとジッと止まっているとマツモトアズキの眉尻が悲しげに下がってきた。
「もしかして、お菓子ないのう?」
――――菓子、だと?
そういえば少なからず菓子らしきものが籠に入っておるな。あまり見たことの無い菓子ばかりだが。なんだ「とりっくおあとりーと」とは精神操作の魔法であるのか? 我から菓子を貰おうと? コカカ、無駄よ。我に精神魔法は効かぬのでな。
「ねえ、お菓子ないのう?」
――――我は食わんからな。
そもそも食事をする臓器なぞ無いからな。我の動力源は人間の魔力と霊魂だ。
「そっかあ~、無いなら仕方ないよねぇ……」
――――待て、あからさまにシュンとするでない。我の心が痛む。心臓は無いがな。おのれ、ちょっと待っておれ。
我は後ろの部屋へといったん退出……したはいいものの実は我はいま無策に待っておれと言ってしまった。はて、どうしたものか……。
――――どうしましたか将軍? お顔の焔がすぐれませぬが?
なぞと考えていると配下のスケルトンが我に話しかけてきた。我、説明をする。
――――なんと、そんな不届きな子魔女は将軍の魔力で殺してしまえばーー
――――バカ者め。あんな敵意の無いものを殺せるものか。我のプライドが許さぬ。
――――し、失礼いたしました将軍。
スケルトンは頭を床に落として我に謝罪した。カカ、解ればよいのだ。あ、頭が転がっていっておるぞ、気をつけよ。
我がスケルトンの頭を拾って着けてやるとこやつはまた頭を下げようとする。やめい、まためんどくさくなる。まぁ、それよりもだ。
――――おぬしが先程から持っているものはなんだ?
――――ははっ、ゴミでございます。
――――ゴミとな?
――――たまに異界の門から漂着するのです。食べ物のようでありますが我々には食せぬもの。ゆえにこれはゴミであります。
――――ほう、ちょっと貸してみよ。
スケルトンから受け取った食べ物らしきゴミは紙に包まれ柔らかい。なにやら異界文字で書かれておるがよくわからん。が、これはなんとなく菓子のように思えた。確証は無いがな。
――――ふむ、これも食べ物であることには変わらんか? よし、これでひとつ手を打って貰おうか。
「うわあいっ!「月でひよった卵」じゃん! あたしこれ大好きなんだあ~っ! と、これなあにぃ~、ゼリー? うにょうにょだぁ」
――――それは「レイズサワースライム」だ。来客用の腹持ちのよい栄養モンスターである。ゴミーーではなくその「ツキデヒョタ卵」とやらだけではあれだったのでな。コカカカカ。
「わあっやった知らないお菓子だぁ~っ。さっちゃんに自慢しちゃおう。オジサン太っ腹だねっ!」
なんだか予想以上に喜んでくれたようだ。その卵とやらがなんか全くわからんが。まぁ、良かった。というか我に太るような腹は無いがな。我、もう5000年くらい骨だし。
「ありがとうねオジサンッ。そんじゃ、ハッピ~ハロウィ~ン」
お菓子を手に入れるとマツモトアズキは我に大きく手を振りながら満面の笑みで扉の奥へと消えていった。
――――「はっぴーはろういーん」とな? 待て、その言葉はなんだ。なんの魔法なのだマツモトアズキよ。
我、幻死の扉を開ける。
が、そこにはもはや魔女マツモトアズキはおらず、いつものだだっ広い空間があるのみだ。
――――いったい……なんだったのだ?
我は幻でも見ておったのか? コカカ、バカな事を精神魔法は我には効かぬはず……カカ。
我、今日はもうなんだか疲れたので寝る。アンデッドだけど疲れたから寝るのだ。勇者一行はまた後日相手する。魔王様だって許してくれるはずである。たぶん。
ーーーー終わり
死霊将軍の前に魔女が現れた もりくぼの小隊 @rasu-toru
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