セリカ 2
「アスティ様、式典への出席お疲れ様でした」
「ええ、貴方もお疲れ様。長ったらしい茶番で、さぞ退屈したのではないかしら?」
「いえ、そんなことは――」
「無理しなくていいわよ。私も退屈だったし。式典の内容にしたって、街で連続殺人が起きていて民衆が不安になっているから、皇室が直々に警備隊へと喝を入れるという喧伝目的のものだったし。ただの茶番だわ」
「無理などしていません」
「ホント、セリカは隠し事が下手ね。自分では取り繕えていると思っているようだけど、顔に全部出ているわよ?」
「……」
「以前にも言ったけど、私の前では素を出してもいいのよ?その代わり、私も貴方の前では素を出すことにするから」
「いえ、そういうわけには」
「もう!セリカはもっと柔らかく自然体で私に接する事を心がけるべきだわ!」
「ある意味、これが自然体です。私は近衛ですから」
「近衛だからって、謹直でいるのが自然ってことはないでしょう?それとも、未だに私相手では緊張するという意味かしら?」
「ええ、それもあります。アスティ様は皇女でいらっしゃいますから」
「第四皇女なんて肩書に、大した重みなんてないわよ。なんせ、私の上にまだ三人もいるのだから。私は皇室のお飾り、もしくは付録よ。優先度の低い祭事に顔を出すだけの、綺麗なお人形」
「そんなことは――」
「気遣いは不要よ。事実は事実でしょう?別に、自分の生まれの不幸を呪っているなんて事はないから安心しなさいな。ただ、窮屈で退屈なだけよ」
「は、はぁ」
「というわけで、お茶でも飲んで少しでもその退屈を紛らわせるとしましょう。セリカも、付き合ってくれるでしょう?」
「いつも申し上げていますが、私は近衛です。貴方を守る義務が――」
「いつも言っているけど、私程度の護衛にそんなに肩肘張らなくていいわよ。私の生死なんて大した問題ではないわ。次期皇帝とかならともかく、たかだか第四皇女が死んだところで、何程のことがあろうかしら」
「ご自身を軽んじてはなりません。それに、私が貴方を守りたいと思うのは、政治的な観点などから来る計算の結果ではありません」
「なら、どういう理由で私を守ると?」
「護衛としての義務と責任、それに私を登用してくださったことへの恩返しです」
「前者の理由はつまらないわね。後者はまあまあだけど、どうせなら親愛などを理由にして欲しいところね」
「それは、恐れ多い事です」
「どうして?近衛と皇女が友人同士となってはいけないという法はなくてよ?」
「主従の関係であるなら、従者は主人と対等に並ぶわけには参りませんでしょう」
「そんな法もないわね。もし不文律だと反論するのなら、明確に規定されていない以上、私を縛る理由とは成り得ませんと回答するわ」
「しかし――」
「いい加減、セリカが私との間に作っている見えない壁を取っ払って頂戴な。だいたい、セリカは頭が固すぎるわよ。公的な場ならともかく、こういった私的な場なら、少しは肩の力を抜いてもいいでしょうに」
「いえ、そうはいきません。近衛たる者、職務中は常在戦場の心構えでいるべきでしょう」
「やれやれ。いつもの事とは言え埒が明かないわね。今日のところは、一緒にお茶をするのは諦めるわ。その代わり、その間の話し相手くらいは務めてくれるでしょう?」
「否と言いたいところですが、そのあたりが妥協点でしょうね。これ以上問答に集中すると、本末転倒になりかねませんから」
「ありがとう。一人で黙々とお茶を楽しむのは、あまり好むところではないのよ」
ここまでの会話の中で初めて、アスティこと皇女アスタリテは心からの笑顔を見せた。
「そういえば、あの選考会場にいた候補の中で、貴方だけは周りと違った視線を私に向けていたわね。それに、身に纏う雰囲気も独特だし」
「不躾な視線で申し訳ありません」
「いえ、むしろ新鮮で心地よかったわよ?私を計るでもなく、尊敬や憧憬を抱くでもなく。言葉で表現するなら、冷たさのない淡々とした視線だったわね。その時はてっきり、私を対等の一人の人間として見てくれていると思ったのだけど」
「元の世界では、貴方の様な高貴な身分の方と直にあったことはありませんでしたので。物珍しかったと言いますか、これが本物の皇女様なのだと納得していたと言いますか。その時の内心を言い表すのは難しいのですが」
「あの時の様な態度で接してくれると、私としても嬉しいのだけれど」
「実際に仕える身となったのであれば、そうもいきません」
「はぁ。セリカって、本当に頑固ね」
「よく言われます」
「でも、きっといつの日か、私に心を開かせて見せるから。覚悟していてよね?」
皇女のウインク付きの宣戦布告に、セリカは困った顔を作って見せた。ただ、口元だけはわずかに緩んでいた。
プレイヤー二十人でお送りする、異世界デスゲーム PKT @pekathin
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