第27話
「違う……?なぜそう思うのですか……?」
平野さんはミサキに問いかける。
『そんなちっちゃな事で私達は惹かれたりしない。もっと心の底から憎んでいる奴がいるって事だ。あたしには分かるんだから。』
「そんなこと……。」
平野さんは俯いたまま黙り込んでしまった。そこへ考える素振りをしていたヘビが口を開く。
「つまり、平野さんを彼の恨みがあるうちに殺して怨霊にし、そして自分達の仲間に迎え入れて神格を取り戻そうと言う魂胆だったのか。」
『そうだ!私はまだ祟り神でいたい!人を恨んでいたい!呪っていたいんだ!だからその女をよこせ!』
最後に無理難題を押し付けてきたミサキはヘビを睨みつける。するとヘビはまた顎に手を当てて考え込む。
「どうしたんだヘビ?」
俺はすぐに返答をしないヘビの顔を疑問に思いながら覗く。
何を考え込む必要があるのだろうか?今の話から分かる通り殺されると分かっていて平野さんは渡せるわけがない。さっさと祓ってしまうべきであろう。
「……。」
「何かいつものように作戦でもあるのか?」
「……どうだろうな?ではまずクモ、平野さんを隣の部屋へ移してくないか?」
「あいよー!」
クモは元気よく答え、俺の仕事部屋へ向かうように平野さんを促した。そして平野さんが隣の部屋へ行くとヘビはじっとクモを見つめる。クモは首をかしげたが数秒後親指を立てて見せた。一体なんの合図だろうか?
「?」
俺が不思議に思っているとヘビはミサキの方を向いてこう話し始めた。
「ミサキ、お前の手伝いをしてやろう。」
『手伝い……?それはつまり……?』
「平野さんをお前達に引き渡してやる。」
『何!?本当か!しかし何故……?』
「まあ、化け物同士の「よしみ」って奴だ。言ってなかったが俺も人間ではない。それにそこまで人間に肩入れしている訳でもないしな。」
『そうなのか!それはありがたい!』
「そういう事だ。ではまず……。」
「え、ちょ、ちょっとまて!」
喜んでいるミサキとは裏腹に俺は驚きで目を見開きながらヘビの言葉を遮る。考えた結果がそれとはあまりにも酷すぎんじゃないだろうか。
「お前本気で言ってんのか!?平野さんが死ぬんだぞ!?」
「ああ、本気だ。お前は違うのか?」
「当たり前だろ!何言ってんだよ!人が死ぬって言うのにそんなこと許されるか!おいクモ、お前もなんか言ってやれよ!」
クモへ目を向けるとクモはニコッと笑いこう言った。
「えー?俺もそれでいいと思うよー?祟り神とはいえ神様なんだし助けたらなんかいい事あるかもよー?」
ダメだ、クモもイカれてやがる。こうなったら俺だけでもこの状況を平野さんに知らせて助けなければ。
俺は平野さんのいる俺の仕事部屋へ向かおうとする。するとヘビは俺の腕を掴み、仕事部屋へ行くことを阻止する。
「まて夏彦、何する気だ?」
「離せ!お前らに構っていられないんだよ!」
「そういうわけにはいかない。邪魔されては困る。」
「うるせえ離せ!ってうわ!」
ヘビの手を振りほどこうとすると強い力で引っ張られ、あっという間にミサキを縛っていたロープの余りで腕を縛り上げられてしまった。
「ちょ!お前、解けよ!」
「少し黙っててくれ。」
そう言うと今度は近くのテーブルに置いてあったのティッシュを口いっぱいに詰められ、ロープで猿ぐつわをされる。
「うぐっ……!?」
「さて、ではミサキ、これからどうするか話をするか。」
『そうだね。じゃあ本当に協力してくれるのであればまずはこのロープを解いてくれない?』
「ああ、分かった。」
ヘビは素直にロープを解いてやる。
『やっと体が楽になった。本当に協力してくれるんだね。じゃあ次はこの御札を取ってくれない?』
「残念だがその御札は1回貼ると取れないんだ。申し訳ない。だが神格化したらそんな安物の御札はすぐに剥せるようになるだろう。」
『そうなのか。じゃあ今だけ我慢しといてあげる。では早速あの女を殺したいところだけれど。私は今ただの浮遊霊だ。あんた達が代わりに殺してくれるの?』
「流石にそこまではしてやれない。他のミサキ達で何とかしてくれないか?それとこの部屋に死体が転がっていても困る。別な場所を用意しよう。人気のない神もいない神社ってのはどうだ?」
『神社か。あんまり好きな場所ではないけども神がまだ守っていないのだとしたら問題なさそう。そこに決めた。』
「では夜中にでも事を進めよう。」
『分かった。』
くそっ……。
残念ながら物騒な話はどんどん進んでいく。体の自由を奪われ声も発せられない俺はそんな2人のやり取りをただただ見ていることしか出来なかった。
*
深夜12時になり、俺達は家を出発した。正確にはいつぞやの夏の頃のように俺はクモに担ぎあげられて移動していた。しかし夏の頃とは違い、冷たい風がヒョウヒョウと吹き付ける。そんな中、平野さんも連れてとある神社へ向かっていた。
「あの、これから私のお祓いをしてくれるって話だったんですけど……。」
「うん、それがどうしたの?」
クモが平野さんの方を向いて答える。先程家で平野さんにはお祓いをするから神社へ来るようにとヘビから嘘の情報が伝えられていた。
「それは嬉しいんですけど……。何故夏彦さんは縛られているんでしょうか……?」
よくぞ聞いてくれた平野さん!早くこの縄を解いてくれ!
「ああ、これねー!これは新手の術具でね!緊縛することによってその人を悪霊なんかから守ってくれるだよ!ほら夏彦ってそういうのに絡まれやすいから!」
そんな嘘っぱち誰が信じるんだよ!平野さん早く助けを呼んでくるんだ!
「そうだっんですね!知りませんでした!」
ああ、平野さん……。そういうの信じちゃうなんてよほどピュアなんですね……。
俺は担がれながらガックリと頭を落とす。しかしこのままでは本当にまずい。平野さんが殺されてしまう。何とかしなくては……。
そう思い、脚をばたつかせてみたり声を発せようと頑張ってみるがどれも上手くいかない。深夜なので人通りもなく助けも求めることは不可能だ。どうしたら平野さんにこの場から逃げるように促せるだろうか。
そんなことを考えているうちに見知った場所に着いた。そこは今朝参拝に来たばかりの木間神社だった。
在宅ワーカーでも祓えます むらびっと @murabitto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。在宅ワーカーでも祓えますの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます