第6話 もうすぐ冬休みだ

 12月。もうすぐ冬休み。

僕の高校一年生の二学期が少ずつ終わろうとしている。


火曜日の昼休み、僕と優馬は花の当番のため校庭にいた。

高志と藤堂たちもついてきている。


「見た感じ元気そうだね。」


僕がそう言うと優馬もうなづいた。


「それな。特に変化なし。」


最近は花の水のやりすぎも良くないということで花の様子だけ見ている。

僕と優馬は教室へ戻ろうとするが藤堂たちが何やらじゃれている。

僕と優馬も藤堂たちのもとへ行く。


「なぁ、鬼ごしようぜ。」


「鬼ご?あぁ、鬼ごっこか。」


そう言って何やかんや鬼ごっこをする。じゃんけんで負けた新島が鬼になるが現役野球部はやはり体力があるので足が速い。僕は中学までサッカー部だったが最近は体育くらいしかまともに運動していないので体力の衰えを感じる。次々と新島に捕まる中、僕と高志は新島から何とか逃げきっていた。結局、授業が始まりそうだったので鬼ごっこはすぐに終わった。





―――――午後の授業はとにかく眠い。藤堂なんかはがっつり爆睡していた。

藤堂は寝ているわりには頭は良い。たぶん自分で勉強しているのだと思う。

新島は近くの女の子たちと会話していた。しかし、先生にバレて怒られていた。


箸橋や高志はわりと普通で僕と同じようにノートをとっている。

優馬は僕の列の前の方に座っているからよく見えないが、たぶん窓の外を見ている。

退屈が嫌いな優馬のことだから外を見て何か面白いことを考えているのかもしれない。


そんなこと考えていると、あっという間に授業が終わった。


今日は高志はバスケ部、新島は野球部がある。

藤堂と箸崎も軽音部がある。

そして、僕と優馬も園芸部があるため今日は集まれない日だった。


僕と優馬は今日はジャージに着替えず園芸部の部室がある文化塔へ向かった。

部室塔は文化部と運動部の2つに分かれている。

園芸部は言うまでもなく文化塔だ。


すでにそこには、くるみ先輩と梓先輩がいた。


「お、きたきたーやっほー!」


くるみ先輩が満面の笑みで僕らを見て挨拶してくれた。

僕と優馬も軽く挨拶をする。


「おぉ!君島君と森岡君じゃん!私の勝ちだわ。」


梓先輩が僕たちを見るなりガッツポーズをした。

どうやら二人は僕ら一年生で誰が最初に来るのか賭けをしていたらしい。


「先輩たち、いっつも楽しそうですね。俺も混ぜてくださいよ。」


優馬がそう言うと先輩たちは次は誰が来るか予想しようと言った。

しかし、その前に今野が来てしまった。


「失礼しまーす。え、なんでこっち見てるんですか」


今野はよく分からないという顔をし、とりあえず僕たちの写真を撮った。


「今野君って本当にいつもカメラもってるよねー将来はカメラマンとか?」


くるみ先輩がそう聞くと今野は「さぁ、わかりません」と答えた。


その後、松村さんと菊川さんも来た。

顧問である高間先生も少し顔を出したが期末テストが近いため忙しいのか少しすると職員室へ戻ってしまった。


「うん、今日も特にすることないけど、とりあえず花壇見に行こう!

 そんで、大丈夫そうだったら今日も解散で!」


結局、花壇に特に変化はなく園芸部は終わった。

くるみ先輩と梓先輩は、まだ学校に残るらしく友達のいるイラスト部へ出掛けていった。取り残された一年生の僕たちは何となく花壇の前で立ち尽くしている。

校庭では野球部とサッカー部と陸上部が走り回っている。

野球部には新島の姿が見えた。

マネージャーの女子と話しながらも練習に打ち込んでいる。


「···することないね。」


僕がそう言うとみんなうなづいた。


「なぁ、どっか行かない?」


優馬がそう言うと今野が「いいよ」と言った。もちろん僕も同意する。


「どっかって、どこに行くの?」


と松村さんが聞く。

優馬は考え込むが思いつかないらしい。


「別にどこでもいいけど。あ、今野と松村は徒歩通学じゃん。

 この辺りになんか良い店とかない?」


「そうね…あ、そういえば前に小春と行ったお洒落なカフェがある!

 結構落ち着ける場所だよ。ね、小春!」


松村さんがそう言うと菊川さんも小さな声で「うん」と言いうなづいた。

優馬は菊川さんにも聞いた。


「ごめん。勝手に話し進めちゃってたけど菊川さんも大丈夫?」


菊川さんは目をそらしながらも「うん」と小さな声でいった。

菊川さんは少しずつだが僕たち男子とも話してくれるようになってきた。


それから僕たち5人は松村さんの言うカフェへ行った。

学校からも思ったより近く、木で造られた洋風な感じで僕が好きな雰囲気だった。


席へ案内され、流れで僕は菊川さんの隣に座った。

目の前には優馬と松村さんと今野がいる。僕らはいつも通り話していたが、今野と松村さんは実は家が近所で幼馴染みということを今知った。僕と優馬はそのことを知らなかったので少し驚いてしまった。二人が同じ中学なのは知っていたが幼馴染みとは初耳だ。


「いや、まさか二人が幼馴染みだったなんて…

 そんなに仲良さそうにはしてなかったから…」


僕は二人を見てしみじみとそう思った。

僕らはそれぞれ紅茶やコーヒーを飲む。僕と優馬はデザートも頼んだ。


「まぁ言う必要はなかったからね。幼馴染みだけど今野…というか、いつもりつって呼んでるんだけど…何となく高校では苗字で呼んでるだけ」


松村さんはコーヒーを飲んでそう言った。

一方の今野は気にした様子もなく一眼カメラで紅茶を撮影していた。

店のおじいさんにも許可を取り、今野はパシャパシャと写真を撮り続ける。


「へー幼馴染みかぁーなんか憧れるな。俺も可愛い女の子の幼馴染みほしい。」


優馬はそう言いタルトを頬ばる。

僕もショートケーキを頼んでいて食べていた。なかなか美味しい。

菊川さんは紅茶をゆっくり飲んで僕たちの話に少し耳を傾けているようだった。


「ケーキ美味しそう…私も頼めばよかった。」


松村さんがそう言うので思わず僕は「一口食べる?」と言ってしまった。

しかし、よく考えれば女子にこんな事言っていいのだろうか。


「え、俺も食いたい。食っていい?てか、俺のも一口あげるから。」


優馬が僕に聞いてきたので「いいよ」と答えた。


松村さんも別段気にした様子もなく「私も食べたい」と言ってきたのでケーキを一口分けることにした。優馬は僕のケーキにフォークを刺し豪快に食べた。


「うまー」


優馬は満足げだ。今野は甘いものが苦手らしく僕たちの写真を撮る。

松村さんも「私も食べたいー」と言っているが肝心のフォークがなかったので、

どうするか迷った。


「どうする?あ、優馬が松村さんにフォーク貸してあげれば?」


「あ、じゃあ俺、松村にケーキあげる。」


そう言うと優馬は僕のケーキから松村さんの食べるぶんをとった。


「はい。」


優馬は松村さんの口の近くにケーキをもっていき、これにはさすがに松村さんも少し照れた様子だったが、そのままケーキを食べていた。そして、優馬が食べていたタルトも松村さんにあげていた。


「どう?うまくね?」


優馬は真顔でそう松村さんに聞く。


「美味しかった。ありがとう。」


松村さんは少し顔を赤くしていた。

それを目の前で見せられた僕も恥ずかしくなってしまった。

僕は菊川さんにも「ケーキ一口食べる?」と聞いた。

そしたらうなづいたので少し焦った。僕はフォークとケーキを菊川さんに渡した。

菊川さんは少しだけケーキをとり彼女の小さな口に自分でケーキを放り込んだ。


「おいしかった…ありがとう」


そう言って僕の方へケーキとフォークを返却した。

菊川さんが使ったフォークだ。これは俗に言うあれではないかとも思ったが僕は平常を装いケーキを食べ終えた。


その後、カフェから外へ出るとすっかり暗くなっていた。

冬は日が暮れるのが早い。マフラーを巻き首を温める。

今野と松村さんは帰る方向が一緒なので道の途中でバイバイした。

電車組の僕らはいつものように一緒に帰る。


もうすぐ冬休み。何となくだけど少しだけ楽しみになってきた。


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