第18話 この後滅茶苦茶セックスした。

 泣かないと決めていた。



「さあ、すぐに手錠を外してやるからな。

 もう君達は自由だ。怪我をしている娘はいないか。

 後で順番に全員診てあげるけど、急を要する人がいたらす ぐに名乗り出てくれ」


「こちらの服を着て下さい。

 脱出の前に、こちらの簡易食を召し上がって下さい。

 出来れば水も一杯。体力が落ちていることでしょうから」



 泣かないと決めていた。


 自分には、やらなきゃならないことがあるから。



「そう、列になってゆっくりと。

 焦らなくていいからな。もう安心だ。

 何も怖がることはない。まずは、あの領主に用意させた家に行こう」


「天候が酷いので、足元に気を付けて下さい。

 ああ、本当に土砂降りですね。

 待って下さい。人数分の外套を用意するので、順番に頭から被って下さい」



 泣かないと決めていた。


 自分には、守るべき者達がいるから。



「よし、ここが君達の家だ。

 色々と決めなきゃいけないことがあるけど、まずは食事にしようか。

 いや、その前に体を温めないと」


「はい皆さん。タオルを配るので体を拭いて下さい。

 今お風呂を沸かしてい るので、順番に入って下さいね」



 泣かないと決めていた。


 大切な人達を守れなかった自分に、そんな権利はないから。



「食料はここ。衣類はここ。

 これからちょくちょく様子を見に来るから、必要なものがあったら言ってくれ。

 行きたい所とか、やりたいこととか、食べたい物とか、全然遠慮せずに言うようにしてくれよ?」


「日常の身の廻りのことはこのゴブリンさん達に申し付けて下さい。

 顔はイカついですが、怖がることはないですからね」



 泣かないと決めていた。



 憧れのあの人は、きっと涙(よわさ)を見せたりしないから。



「ふー!

 とりあえず片付いたかな!

 ムゥもお疲れ様。よく手伝ってくれたよ」


「お疲れ様ですご主人様。

 少女達の心のケアなど、まだまだ問題は山積みですが、今できることはこんな所でしょう。

 剥製は明日にでも出来るだけ手厚く弔ってあげなくてはなりませんね。

 ともあれ今日はまずはお休みになられてはいかがでしょうか」


「うーん、でも今日はちょっと飲みに行ってくるよ。

 疲れた身体をリラックスさせなきゃな」


「今からですか?

 もう時間も遅いですし、外は土砂降りです。

 明日にした方がよいのでは」


「雨の中作業して疲れちまったからな。

 切り替えも大事大事。パッと行って パッと帰ってくるからさ。

 ムゥも自由にしてていいぜ。先に休んでてくれよ」


「だらしのないことですね。

 内臓脂肪をこれ以上溜め込まないで下さいよ。

 かしこまりました。お気を付けて。

 あまり遅くならないよう」


「はいはーい」



 ムゥのお節介を適当に聞き流して外に出る。

 まあ、ありがたいんだけどね

 あの少女達に対する配慮といい、あれで結構優しい奴なのかもしれない。



 うわ、本当に土砂降りだよ。

 外套を頭から被って、トテトテ小走りで道を行く。


 おっさんの小走りってみっともないのわかってるけど、ついやっちゃ うもんね。



 1ブロック離れ、2ブロック離れ、宿が完全に視界から消えた所で立ち止 まる。

 この辺りには店とかもないから、人気(ひとけ)がないのがありがたい。



 念の為、路地裏に入り込む。

 周囲を見回して、誰もいないことを確認して、 その場にうずくまった。



「ゥっ...ウ...。ウー...ん」



 出すつもりもない声が漏れ出てしまった。

 思った以上に限界は近かったみ たいだ。



「ん...、フッ...フゥゥ...ん」



 でも大丈夫。

 ここには誰もいない。だから、大丈夫。



「ヴァアァァっ!ヴァアァアアアアアアっ!」



 俺は、思い切り泣いた。

 人目につかない場所で、大声を上げて。


 土砂降り の雨音がそれをかき消してくれるのが、何よりもありがたかった。



 ーーー



 一体どれ程そうしていただろうか。


 2時間か、3時間か。



 身体はとうに冷え切っている。

 しかし立ち上がる気力はない。

 いっそこのまま朝までこうしていようか。


 しかし首が凝ってしまった。

 おっさんはすぐにあちこち痛くなるんだ。

 ストレッチがてら顔を上げてみると。



「お身体に障りますよ」



 傘を差したムゥが、そこにいた。



「......ずっとそこにいたのか」


「はい。私はご主人様の超越的美少女ですから」



 言葉の意味はわからないがとにかくすごい自信だ。



「ご主人様は間違っていないと思います」



 唐突に、ムゥはそう切り出した。



「確かにあの領主のした事は許されるものではありません。

 万死に値するとさえ思います。


 しかし、それを裁くのはご主人様の責務ではありません。

 それをやってしまうと、国家の誇る全ての司法権力がご主人様の敵に回ります。


 それだけではありません。

 あの少女達を救うためには、これが唯一の方法でした。

 司法権力が介入した場合、あの少女達は国家の威信を汚す犯罪行為の生きた証拠。

 領主共々人知れず処分されて全ては無かったこととされたでしょう」


「......ふん」


 なんだ。随分饒舌じゃないか。

 長文は日間民に嫌われるんじゃなかったのか。



「軽はずみに言えることではありませんが、犠牲になってしまった方達はどうやっても助けることはできません。

 なればこそ、残された者を可能な限り救うのが最善であると考えます。


 あの領主が改心するとはとても思えませんが、監視が有効に働いている内は大丈夫でしょう。

 下手に彼を排除したところで、代役に現れる貴族がよりマシな人間とは限りません」


「ふん......慰めてくれてるのか?いいとこあるじゃないか」


「厳然たる事実を述べているだけです」



 珍しく居心地悪そうに、そっぽを向いた。

 なんだ、可愛いとこまであるのか。



「これまで犠牲になった方達を思えば、簡単に結論付けられることではありません。

 人によって、様々な意見があることでしょう。


 でも、私はこれで良かったのだと思います。

 貴様は、正しい選択をなさいました」


「そう言ってくれるかい。ありがとよ......貴様?」


「きっと日間民も......」


「ゴメン、今だけはマジで日間民の話やめてもらっていいかな」



 ここを茶化されると手が出るかもしれない。



「もしも評判が悪いようならば、反対の選択をしたことにすればよいのです よ。

 小説なんて簡単に書き直せるのですから」


「今までで1番アウトな発言が来たよ!!!」



 超えてるよ!

 超えちゃいけないライン、軽々と超えてるよ!



「なんなら領主虐殺バージョンと両方投稿してブクマの伸びが良い方を正史とするのはいかがでしょうか。

 あるいは感想欄でアンケートを取るというのも妙案かもしれません」


「台無しだ!全部全部全部台無しだよ!」



 こいつに一瞬でも気を許したのが間違いだった!



「よかった」



 ......は?



「ようやくお元気になって頂けました」



 ん......。ん......。

 ちっ。また一本取られたってことか。


 敵わないな、こいつには。

 ズルイよ女は。いや、超越的美少女さんだったか。



「さっ、いつまでもこんな所にいては風邪を引きますよ。

 何か美味しい物でも食べて帰りましょう。

 超越的美少女はカレーを所望します」


「結局メシが目当てかい。

 まったく、ブレないねお前さんは」



 ムゥが傘を渡してくるので、彼女が濡れないように傾けて持った。

 すると ムゥはグイグイと体を押し付けてくる。


 やめろよ。

 どんなにくっついたって 女性向けサイズの傘じゃ、2人とも濡れないようにはできないだろ。



 しかしカレーか。それなら旨い店を知ってる。

 ジュルリ。思い出すと生唾が湧いてきた。


 食い意地の張ったムゥに食わせてやったら、どんな顔をするだろうか。

 ちょっと遠いが、土砂降りの雨の中でも、こいつとならば歩くの も悪くはない。



 余談だが、この後滅茶苦茶セックスした。



—-



というわけで、第一部完です。(第二部を書くとは言ってない)

ご愛読ありがとうございました。

既存のデータを貼り付けるだけの作業に何故何ヶ月もかかってしまうのか。


新作のラブコメ、開始と同時に更新が滞ってしまい申し訳ありません。

本業やらなんやらで色々とアレでして。


↓新作

カクヨムで中堅作家やってたら学校一の美少女にバレて、なんか付き合うことになった件 〜最高級お嬢様()と放課後喫茶店でダラダラ仲良くする日々って良くないですか?〜

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893671950



あと、↓の代表作ももし未読でしたら是非読んでやって下さい。


コスパ厨のアラサー男、嫁の不倫とリストラを機に子供部屋おじさんになる 〜税金対策に週三でダンジョン潜ってたら脳筋女子高生とバディ組んだ話〜

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889544428


どれも酷いタイトルですね。

タイトルの長さは心の弱さの表れ。


SSSSSSS 級は一応全三部の構想ですが、第二部の頭の数話しかストックもなく、他のも書きたいので、とりあえずこれで当分更新ストップと思って頂ければと思います。


繰り返しになりますが、ご愛読ありがとうございました!

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いやその勇者パーティを追放された善人おっさん、実はSSSSSSS級の治癒士兼召喚術師ですから! ~自分でも気づいてない能力で陰の実力者としてやり直し2週目復讐建国スローライフ~ ジュテーム小村 @jetaime-komura

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