第4話 悪趣味貴族の寝室
目を覚ますとそこには綺麗な金色があった。
「お目覚めかい?」
頭の中が混乱する。ここはどこだろう、目の前のこの人は天使かな。ここは天国か、そうか俺は死んだのか。そう思うと心が晴れやかになった。自由だ、俺は自由になったんだ。
喜びもつかの間、その金色は天使などではなく人間の男だということがわかった。一気に吐き気が込み上げてきた。男は俺にすり寄ると深く息を吸い込む。気色が悪い。そして俺の手に硬いものをあててくる。気持ちが悪い。そしてどこからか手鏡を持ってきて俺の顔を映し出す。
「君はこんなにも美しい。どうだい、わかるかい?」
俺は久々に、俺自身の姿を目にして、吐いた。それはもう盛大に吐いた。なんなら少ししょんべんも出た。すごいな、皆これを奴隷市で見てたんだな。おやじさんたちもよく平気だったな。
そんなことを考えながらも込み上げるものは止まらない。ひとしきり出すものを出すと、男はそれらを下に敷いていた布ごと包みとり下に投げ捨てた。
「すまない、おどろかせてしまったね。」
今更だがここは本当にどこなんだろう、なにもかもがきらきらと眩しくて、白くて、ここが買われた奴隷の先なのだろうか。そう思うと途端に血の気が引いてくる。俺は今、買われた先でとんでもないことをしてしまった。恐怖に震えていると男は俺の頭をわしわしと撫でてくる。そのうち叩かれたり鞭で打たれるのではないかと考えていると、咄嗟に言葉を絞り出す。
「も、もうしわけありません、もうしわけありません。」
すぐさま己の主人となった男に向き直りひれ伏すと、男が動く気配がした。これはぶたれるか、いや蹴りがくるか?体中の力をこめると男はただ頭を何度も触るだけだった。
「怖がらなくても大丈夫だ、私は君の主人になったが君が怖がるようなことは何もしないよ。さあ、顔をあげてくれ。」
これは罠かもしれない、意地でも頭を伏せたままでいると男の手が頭から首へ、背中へ、そしてあろうことか尻へと下っていく。
「それとも、お仕置を求めているのかな?」
誰にも触られたことがない場所に指がきた途端、俺は頭を思いきりあげた。お仕置は嫌だ。痛いのも変なのも嫌だ。
「よし、おりこうだ。」
そして頬にむにっと主人の唇があてられた。それもなんだか気持ちが悪かったが俺は堪えた。
主人は名前を名乗らなかった、俺が主人を呼ぶことは今後一切ないそうだ。そして主人も俺の名前も聞かず、俺の年齢だけを聞いてすぐさま俺の腕に年齢が記された輪をはめた。主人は異常な性癖を持っていた。
年下の少年しか愛せないそうだ。そして俺は明日から同じような目的で集められた奴隷の少年たちが暮らす離れの屋敷で暮らし、その姿を主人に見せる。それが役目だと言われた。
ますます頭がどうにかなりそうだった。変態はどこまでも変態なのか、それならしかたがない。俺はそう割り切り、不自由のない生活、安定した暮らし、読み書きを学ぶことができるという理由から何度も主人の言いつけに頷いた。
「この君の痣は、生まれ持ってのものかな?」
「はい、そうです。」
「そうかそうか。」
唯一聞かれたことはそれだけだった。いや、それだけじゃなかった。買われたことがあるのか、とか性交をしたことがあるのか、とか自分でしたことはあるのか、とか誰かがやってるのを見たことがあるのかとか後半はやけに性に関しての質問だったが俺は素直に答えた。
「よろしい。じゃあ今日はもう寝よう、おやすみ。」
そして主人は俺を抱え込むとすやすやと眠ってしまった。本当にわけがわからなかった。そもそも俺を連れてきたやつも見当たらない。いったいどうなっているのか。そして俺はこの先どうなるのか、おやじさんに何も言わなかったけどよかったかな。まあ、それはいいか。厄介者が減ったんだし。そう思いながら俺はやけに暖かい寝床の気持ちよさに目を閉じた。
だがすぐに目が覚めてしまう。なにもかもが、嗅いだことのないいい匂いがして落ち着かない。床で寝ようと動いても主人にがっしり抱え込まれていて抜け出せない。落ち着かない気分のまま、目を閉じた主人のやけに長い睫毛や細めの金色の髪を眺める。いったいいくつぐらいの年齢で、どうしてそうなってしまったんだろう。普通にしていれば大金持ちの貴族に見えそうなのに。ああ、貴族だから俺たちとは普通が違うのか、だいぶ前トンが言ってたことを思い出してそういえばあいつらにも何も言っていなかったことを思い出す。
今頃やつらも寝てるかな、俺がいなくて…。まあ、俺がいなくても変わらないか。
あほらしい、とあくびをした。
箱庭の少年奴隷たち 陽花紫 @youka_murasaki
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