第3話 二年が経つ

 あれから二年。

 わたしはヒルカを忘れていた。

 正しくは、また会えることをあきらめていた。

 だから、いい人間やあのイタチと幸せでいてくれればいいと願ったのだ。


 いつ帰ってきてくれてもいいように、新鮮な水や餌は用意する。

 ケージの掃除も毎日している。

 ハンモックも夏用、冬用を変えて待っている。


 やはり、帰ってきてほしい。


 ある日、わたしが帰宅したとき、部屋の真ん中にうずくまる丸いものがいた。


「ヒルカ!」

 わたしは驚いた。


 うずくまっていたフェレットは顔を上げる。スンスンと鼻を動かして起き上がった。


 わたしはヒルカを抱き抱えた。

「よかった、よかったよ」


 ヒルカは薄汚れている。

 だから、風呂に入れた。

 激しく身を震わせて水を飛ばす。

 フェレットの匂いが部屋に舞う。


「このタオルの上でベベベってしてほしいな」

 わたしは笑いながら言う。


 二年間、出来なかったことだ。


 ヒルカは大きくなっている。年を取っていた。

 青年期だったのが壮年期や老年期といってもいいはずだ。

 だから、落ち着いた雰囲気がある。


 餌を食べる姿や、ジャーキーを食べる姿は最後に見た記憶と変わらない。


「……ヒルカ、これまで何をしていたの?」


 わたしの言葉に反応したように、食べるのをやめ、わたしを見た。


「別に怒っていないわ。わたしが悪いのだから。でも、何をしていたのか気になったの。本当に四十キロも歩いたの?」


 あのイタチの噂は行動範囲が広いこと。

 それについてヒルカも行ったのならば、移動しているのだ。


「車は怖くなかった?」


 ヒルカは何か言うように鼻をひくひくさせていた。


「ごめんね。ゆっくり餌を食べてね」

 ヒルカの頭をひと撫でした。


 ヒルカはうなずくようなしぐさの後、食事に戻る。


 病院にも連れて行かないといけないと私は思う。

 ヒルカが元気でいるなら良いけれども、ダニとかついているかもしれないのだから。


 風呂を入れたとき、毛は汚かったけれども、皮膚病等はなかった。

 素人目に見てだから、医師の目は必要だよね。


 翌日は病院に連れて行かなかった。

 その翌日も行かなかった。


 一週間ほどして連れて行き、健康状態を確認してもらった。

 戻ってきたということに、医師は驚いていた。

 健康状態に問題はなさそうだけれども、体力の衰えが激しいという。


「すでに老フェレットといって差し支えないかもしれません。こまめに検査したほうがいいかもしれません」


 わたしは驚く。

 徐々に年を取るはずが、わたしの中では二年一気に年をとっているのだから仕方がないとも気づいた。


 ヒルカの脚力は確かに衰えている。

 一週間の間に、その状況は見て感じていた。


 しばらく、わたしはヒルカと楽しい日々を過ごした。


 ふと、気づいた。

 餌を食べる量が減っていることに。


 医者に連れて行くと、数値の衰えを指摘された。


 老衰だという。


 わたしは悲しんだ。

 キャリーケースの中のヒルカは飄々としていた。

 その顔を見ると、今が大切だと気づいた。


 だから、ヒルカが最期を迎えるまで、精一杯世話をして、出来る限り一緒にいようと考えた。


 後悔はしないように……。


 ヒルカは息を引き取った。

 音がしたので、外を見た。


 そこにはあの大きなイタチがいた。

 その横にはヒルカがいた。

 わたしの方を見て、頭を下げ、立ち去った。


 わたしはヒルカの火葬のための連絡を取った。

 もう、あの子はいない。

 ならば、送り出すしかない、笑顔で。


 わたしの頬を涙が伝った。

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あるフェレットとわたし 小道けいな @konokomichi

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