第2話 行方不明
ヒルカが二歳になったころ、わたしはミスをした。
洗濯物を取り込んだり、庭の植木の世話をしたりした後、窓を閉め損ねていた。
遊ばせるとき、気にしてはいたが、気が緩んでいたのだろう。
目を離しているとき、ヒルカは窓を開けて出て行ってしまった。
庭で遊ぶヒルカを見て、わたしは慌てて追いかけた。
この近所にいるらしいというイタチが庭に来た。
わたしはより一層慌てた。ヒルカが襲われるかもしれないと。
だから、転がるように急いで庭に降りる。
クククク……。
ヒルカは楽しそうに鳴いた。
そのイタチについて、敷地の外に出て行ってしまった。
「ヒルカっ!」
わたしは、茂みを、柵を越えられず、見送るしかなかった。
違う、部屋に戻り、玄関から出て探した。
日がかげり薄暗い外を、人間の目で探すのは難しかった。
人通りや車通りがない道ではない。
誰かに保護されるかもしれないし、轢かれてしまうかもしれない。
わたしは急いで、助けを求めた。
誰に?
どこに?
インターネットで呼びかける。
そして、警察や保健所などにも連絡を入れた。
なんで、どこに?
他人事だと思っていた。
注意していれば大丈夫だと思っていた。
そもそも、あの重い窓を開けられるなど信じられなかった。
ヒルカが行方不明になって、一週間ほどたって、奇妙な情報が入った。
わたしが住む町から四十キロほど離れた都心で山の側の地域に、ヒルカのようなフェレットを見たというのだ。
一緒にいるのは大きなイタチで、楽しそうに遊んでいたという。
その人によると、その大きなイタチは時々見られ、複数のフェレットやイタチといることもあるという。
――結構前からいるんですよ、そのイタチ。
その人は書き込む。
その話から、噂を聞いた人が、そのイタチは広範囲を移動しているという情報を書き込んだ。
冗談か、嘘か、話を持っているのか……わたしには判断がつかない。
ただ、気になったのは事実で、その地域の詳しい場所を聞いて、行ってみることにした。
最寄りの駅から電車に揺られて一時間くらい。真っ直ぐ進むわけではないからそのくらいかかる。
そこは駅前は大きなビルが立ち並ぶ街だ。
しかし、駅から十分も離れると、住宅街が広がる。
先には山がある。
わたしは歩く。ヒルカが好きなジャーキーや餌、水などを持って。
できればいてほしい。
無事でいてほしい。
せめて、姿を見たかった。
山には散歩コースや公園があるらしい。
わたしはヒルカの名前を呼びながら歩く。
途中で出会った人たちに何事かと問われた。フェレットを逃がしてしまったのと、この辺りで目撃されているという話をした。
出会った人たちは、自分たちが見なかったということや、見つかると良いと祈ると言って立ち去った。
わたしは散歩コースや公園を一周した。
それらしい姿は見つけられなかった。
ひょっとしたら、コースから外れないといけないかもしれない。山に入らないと出会えないかもしれない。
わたしは考えたけれども、日没が迫るので帰る。
「ヒルカ! また来るからね! 大きなイタチさん、ヒルカはいい子ですか?」
大きな声で呼びかけた。
大きなイタチというのが何かわからないけれども、きっとボスとかに違いないと思っていた。たくさんのイタチやフェレットを従えているというし、ヒルカが喜んでついていったのだ。だから、何かいいところがあるに違いないと思う。
そう思いたかった。
わたしのミスで外に出してしまったのだ。
危険な目に合っていないなら、一番いいことだ。
餌は何を食べているのだろう、と思う。
フェレットフードなどないのだから。
わたしはその日、探しに行ったことを報告した。
また別の日に行くことも言う。
――近所だから、気にして見ておきます。
言ってくれる親切な人にお礼を何度も言った、胸の奥で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます