終幕
最終話 舞踏会の夜に
「ふぁ~あ。今日はヒマだなぁ」
いつもの仕事場で僕は大きな
僕らが
昨日まではミランダとの対決を求めてやってくるプレイヤー達で
僕もいつもの定位置である兵士の
あまりに退屈なせいか、朝は
「久しぶりだなぁ。こんなふうに1人になるのは」
昨日まではミランダはもちろん、ジェネットとアリアナもこの
僕は久々の静けさに身を
前はこれが当たり前だったんだよね。
いつしか僕の周りには人が増え、僕自身も
僕は変わったのかな。
もし彼女たちと離れることになったりしたら、きっと寂しく思うんだろうな。
以前は1人でいることを寂しく思うなんてことはなかったんだけど。
そんなことを思っていると、誰かが
来訪者の訪問を告げる警報が鳴らなかったのは、それがここの住人であるジェネットだったからだ。
「ジェネット。おかえり……あれ?」
帰って来たジェネットはいつもの法衣姿ではなく、黄色のドレスを身にまとっていた。
その美しさに僕は息を飲む。
「ど、どうしたの? そのドレス……」
僕がそう言うとジェネットは少し
「今朝、城下町で新調したのです。いかがですか? 変ではないでしょうか」
「へ、変なんてとんでもない。すごく……
僕が首を横にブルブルと振りながらそう答えると、ジェネットは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「あ、ありがとうございます。よかった。それで、あの……アル様」
「ん?」
「こ、今夜のイベントなんですけど……アル様は誰かと一緒に行かれる御予定は……」
「イベント? 今日って何かあったっけ?」
僕が首を
「御存じないのですか? 今日は……」
「ちょっと待ったぁ!」
その声はアリアナ……ええっ?
振り返った僕はさっきよりも驚いてしまったんだ。
駆け込んできたのは紛れもなく魔道拳士アリアナだったけれど、いつものような手甲も武闘着も身に付けておらず、代わりに青く色鮮やかなドレスを着ていた。
ア、アリアナのスカート姿なんて初めて見たよ。
靴も
「ア、アリアナまでどうしたの?」
彼女は
「今日の私は武道家じゃなくて
な、何の話かな?
意味が分からずに困っていると、ジェネットがアリアナに向かって静かに言う。
「アリアナ。私の方が先にアル様と話していたのですよ。私の用件を済ませてから……」
「ジェネット。アル君を今夜の
今夜はそんなイベントがあるのか。
なるほど。
そっちに人が流れて……だから今日はあまりこっちに人が来なかったんだな。
詰め寄るアリアナにジェネットは少し
「ち、違います。私は今夜そうしたイベントがあることをアル様にお知らせして、その上でアル様にお誘いいただけたら……う、嬉しいなと」
「ふ、ふーん。じゃあアル君はまだジェネットのこと誘ってないわけだ」
「そ、それはこれから……」
何かを言いかけたジェネットに構わず、アリアナはガバッと身を
「アル君! 私と一緒に
……ファッ?
突然アリアナからそう言われ、僕は困惑してしまう。
「へっ? ぼ、僕? い、いや僕、
女子に急に誘われてどうしたらいいか分からず、僕は情けなくオロオロしてしまう。
そして僕以上にオロオロしているのはジェネットだった。
「ア、アリアナ。女性から誘うなんて少しはしたないんじゃ……」
「そ、そんなことないよ。まったくジェネットは頭が固いんだから」
顔を
その時、
訪問者の来訪を告げる合図だ。
「アルフレッドいるかぁ?」
遠くから聞こえてくるこの声は……ヴィクトリアだ。
彼女とノアはこっちの世界に戻って来てから、それぞれの家へと帰っていったんだけど、またここに遊びに来てくれると言っていた。
でも……今日のヴィクトリアは様子が違っていた。
いつもは
そして普段は
「よ、よう。アルフレッド。元気そうだな」
声を詰まらせながらそう言うヴィクトリアの顔は真っ赤だった。
慣れない衣装に照れているみたいだ。
そ、それにしても……僕は声を失ってヴィクトリアをじっと見つめた。
そんな僕の様子に、ヴィクトリアは
「へ、変だろ? ア、アタシなんかにドレスや
「い、いや。違うんだヴィクトリア……」
僕が声を出すのも忘れて見入っているのは……彼女がビックリするほど美しかったからだ。
しかもヴィクトリアの美しさはジェネットやアリアナのそれとはまるで異なる。
長身の彼女が色鮮やかなドレスを身にまとい、背すじをピシッと伸ばして立つその姿は、強さと美しさを
僕はその姿にじっと見入ったまま声を漏らした。
「に、似合ってるよ。すごく……
僕が貧弱なボキャブラリーで
「う、
そう言って声を詰まらせるヴィクトリアに、ジェネットとアリアナが近寄っていく。
2人は目をキラキラとさせて、ヴィクトリアの着飾った姿を見ながら口々に言った。
「そんなことありませんよ。ヴィクトリア。ステキな色合いのドレスですね。とてもよくお似合いですよ」
「ヴィクトリアは元が美人さんだもんね。オシャレすればそれは
「そ、そうか? このまま外を歩いても笑われないか?」
女子2人に
ドレスとかお
そんなことを思いながら微笑む僕の腕をヴィクトリアはグイッと
「よ、よし。ジェネットとアリアナのお
……ファッ?(本日2度目)
目を点にする僕の前方ではジェネットとアリアナの表情がサッと一変する。
「ヴィクトリア……いま何と?」
「ヴィクトリア……あなたもなの?」
殺気立つ2人の表情を見て思わずヴィクトリアがたじろいだ。
「な、何だよ。ドレス
「それとこれとは話が別です!」
「アル君は私と出掛ける予定なんだよ!」
いや、ちょっと待って。
モメ始めた3人に僕は
「さ、誘ってくれるのは嬉しいんだけど、僕、
僕がそう話していると再び訪問者の来訪を告げる警報が鳴り響いた。
次にそこに現れたのは緑色のドレスに身を包んだ1人の女性だった。
その女性はつばの広い帽子を目深にかぶっているため、顔がよく見えない。
その服装からすると、ミランダとの対戦を求めてやってきた人ではないだろう。
ジェネットたち3人も顔を見合わせて首を
「あの……どちら様ですか?」
僕がそう
あれ?
こ、この人……。
見覚えのあるその顔に僕はハッとした。
「迎えにきたぞ。アルフレッド」
「ノ、ノア……」
そう言ったのは竜人ノアだったんだ。
大人の姿だからすぐにピンとこなかったんだけど、それは変幻玉で変身した時に見た、大人の女性になったノアだった。
そ、そうか。
また変幻玉を使ったんだな。
大人姿のノアはどこからどうみても美人で、人間の女性とはまた違う神秘的な美しさを漂わせている。
「ノア! おまえ何しに来やがった!」
「ん? 誰かと思えばヴィクトリアではないか。
ノアの無遠慮な言葉にヴィクトリアがますます怒りを
「うるせえっ! さっさと帰れ!」
「断る。ノアはアルフレッドを迎えに来たと言うておろうが。
「後から来て
「いや、ヴィクトリアもだからね? アル君は私と行くんだってば」
さ、さっきまでの
こんな時に険悪をこよなく愛するミランダがいないのは不幸中の幸いだ。
そう思って僕がチラッと
ひいいっ!
ラスボス登場!
そしてミランダはやはりいつもの黒衣ではなく、黒のドレス姿だったんだ。
そのミランダは玉座の
ま、まさか……。
そう思った時には轟音が鳴り響き、彼女の指から
黒く燃え盛る火球は、言い争う4人の女子たちの頭上を通り抜けて壁に炸裂した。
驚く4人の視線が一斉にミランダに集まる中、彼女は朗々たる声を発する。
「あんたたち馬鹿じゃないの? アルは私の家来なんだから私と行くに決まってるでしょ。あんたたち4人はここでドレスの品評会でもやってなさい」
ミランダの挑発的な言葉を聞いた4人の少女たちの目つきが変わった。
や、やばいぞ。
そう思い僕が青くなっていると、ヴィクトリアがいきなり
「そうか。5人もいるからアルフレッドが迷うんだな。なら4人がいなくなれば残りは1人。アルフレッドも迷わずに済む。簡単な引き算だ」
へっ?
どういうこと?
唖然とする僕の前でジェネットとアリアナとノアもそれぞれの武器を取り出した。
ちょ、ちょっとちょっと……。
「ヴィクトリアの言う通りですね。アル様のためにも邪魔な4人には消えていただきましょう」
「そうだね。アル君が目移りしちゃうのは5人もいるからだよね。いらない4人は退場だね」
「同感よの。手っ取り早く
バ、
何て物騒な。
そんな優雅なドレスを着ながらやることじゃありませんよ!
いきり立つ4人を見てミランダは玉座から腰を上げた。
「まったく馬鹿ばかりね。アルはそもそも迷ってないっつうの。まあでもいいわ。殺し合いましょうか」
つい3日前には5人で一致団結して共闘していたはずの彼女たちが、今日は満場一致で殺し合い!
いや、僕この後、この殺し合いの勝者と
「よくぞ勝ち残った。では
ってなるわけあるか!
僕は慌てて皆をなだめにかかる。
「も、もうやめようよ。せっかくのドレスが汚れちゃう……」
だけど僕がそう言いかけたところで戦いが始まってしまい、魔法が飛び交う。
そして5人の元へ踏み出そうとした僕は……
「ぐえっ……ごふっ」
お、おおう。
ま、まさかの流れ弾被弾。
最初の犠牲者は……殺し合いに参加していない僕だった。
こ、こんなのアリか!
崩れ落ちた僕は遠のいていく意識の中、理不尽な運命を感じつつ、神に祈るのだった。
神様。
次に僕に何か特殊な力が目覚めるとしたら、気性の荒い彼女たちを
完
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*短編後日談です。
『だって僕はNPCだから+プラス 3rd 桜メモリアル』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894167940
*スピンオフ作品です。(この3rd GAMEの登場人物も出演します)
『どうせ俺はNPCだから』
だって僕はNPCだから 3rd GAME 枕崎 純之助 @JYSY
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