最終話 パーフェクト・スキル

 「ゼウス! どうしてここに!」


 「ふん、妹の安否がわからない兄貴は失格だ。……それよりシエテ、あとは頼む。こいつを殴りたいところだが、妹の前で血は見せたくない」


 「分かった。アポロンに皆がいるからそこで落ち合いましょう! ミネルバもお願い」


 「ああ」


 ゼウスが私の後ろに一瞬で移動すると、ミネルバの肩に手を置き、ボワッと闇に消える。


 「さてと、これであなたに集中できるって訳ね」


 私が腰の聖剣を抜き前に構えると、アルテミスが動いた。


 「ふっ。まあいい。ここでお前を殺せば宝石は手に入る。だから……死ねやああああ……!」


 


 フォン! ガァーン!


 


 「くっ……! 強い……!」


 「おらおらどうしたあああああ……!」


 見た目と違い、ゼウス以上の力がある。私だけの力じゃ……。


 


 ガン!


 


 「……ううっ! 【パーフェクト】!」


 


 ピパン! ドゥン!


 


 いつか見た空気砲だが、威力は上がっている。これで少しは──


 「き、効いて……ない……!?」


 ちゃんとアルテミスに当たった。なのに……まるで……


 「まるで効いてない、って顔だね?」


 「ッ!」


 アルテミスがパッパと埃を払う仕草をする。そして身体をコキコキ音を立てると、先ほどまでとは比べ物にならない程に眼付が変わった。


 「……遊びは……終わりだ……ッ!」


 


 グォオオオオオオオオオ……!


 


 アルテミスが受けた空気砲の何倍あるかわからない程の風が……空が、歪な音を立てる。


 「う……そ……」


 「じゃあね~!」


 


 クイッ──────ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!!


 


 ──無理だ。


──防ぎきれない。


──終わった。


──ごめん、みんな。


──ごめん、モグ。


 


 その刹那────


 


 「──────諦めないのが、君の真の力じゃないか────」


 


 パン!


 


 「なっ! 一瞬で消しただと……? 誰だ!」


 アルテミスが驚く。その問いに彼女が答えた。


 「この世界に賢者あり。彼女は一人だった──」


 「……もう……あなたはいつもこうなんだから……」


 「でもその彼女に突然友が出来た。その友を救うために、虚無の果てより、蘇る!」


自身の杖を再び手にし、不完全だった私と共に戦うことで完全となる。彼女の名を人はこう言った。


 


 「──────真名マリン。またの名を、モグ=ロジョ────」


 


 「……マリン……だと……!」


 アルテミスが後ずさりする。が……


 「ふ、ふっ! どんな手を使ったは知らんが、ちょうどいい。まとめて相手してやる!」


 「いいえ、これで終わりよ、アルテミス!」


 「悪いが杖から状況は見ていた。シーちゃんと私がいる限り、君の目論見はここで終わりさ」


 「ぐ……! どいつもこいつも! 俺の邪魔をおおおおおおおお……!」


 「【アヴァロニス・エンド】……!」


 


 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……!!


 


 「いくよ、シーちゃん!」


 「うん!」


モグの杖を二人で持つと、最初で最後のスキルを放つ。


 『【パーフェクト──────】』


 


 ギュイイイイイイイイイイイイイイイ──────


 


 『【──────スキル】……!!』


 


 ダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……!!


 


 「ぬあああああああああああああああああああああ……!」


 


 ──────シュ! ……ドンッ!


 


 アルテミスを巨大なバナナのオブジェに変えると、辺りは静かになった。


 「はあ……はあ……終わったの?」


 「ったく、無茶するね、シーちゃんは」


 「モグッ! モグッ!」


 「さっきも言ったけど、ずっと見ていたよ。ありがとう。この世界をちゃんと救ってくれたんだ。偉いじゃん」


 「私……もう、あなたに会えないってずっと……」


 「……ごめんね。これももう、消えちゃうから」


 「え……?」


 よく見るとモグの身体が透けてきている。同時に彼女が持つ杖も消えかかっている。


 「そんな……会えたのに……」


 「君は帰るんだ。日本に。元々そういう運命だから」


 「いや! やっぱり残る!」


 「はは。私のいない世界にいても意味がないよ。元々君はこの世界の住人じゃない。帰ってもいいんだ」


 「だって……それじゃあ……」


 私が涙を流しながら訴える。この世界に友達が、仲間が、血は繋がっていなくても家族として、帰る場所があるってことを。


 「モグ……!」


 「元気でね……シーちゃん──────」


 


 サアアア……


 


 「……モグ…………」


 


 私はこの時、ある事を決めた。


 それは彼女でさえ、実現できなかったこと。彼女が本当は願っていたこと。それを私は叶えるために、あの言葉を口にした。


 


           ◇


 


 ──────パタン。


 


 「ふふ」


 何もない薄暗い空間で私は本を閉じた。それはとある少女のストーリー。この世界で……いや、あっちの世界でもう一人だけこの物語を知っている。


 彼女の名は『大庭菜奈子』。


 そして私。


 


 この物語に続きは書いていない。しかし、その続きを私と菜奈子は知っている。奈々子は私にこう言い残した。「悲しい時はこの言葉を唱えなさい。どんな『願い』も叶えてくれる、魔法の呪文だよ」と。その呪文の名は……


 


 


 「──────【パーフェクト・スキル】──────」


 


                                     完


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

パーフェクト☆スキル ~全くいらないバナナの皮も使い方で何とかなります~ アキノ霞音 @galaxys7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ