真34話 神の魔術具

 「ミネルバ、あなたの持っている指輪も元はその宝石に眠っている力を使うための器なんでしょう?」


 「ああそうだが、あたし、シエテにそんな説明していないぞ? ……まさか! この本が魔術具だと!?」


 「うん。アーサ王を襲ったのは私が持っているこのペンダントに付けた宝石が本当の狙い。たぶん、まだこの本を私とヴィアがすでに見つけていることに気づいていないはず……だとしたらおそらく、私とゼウスの戦いを隠れて見ていたアルテミスは、ミーヤちゃんの手にこの宝石が握られていることに気づいた」


 「……その宝石がこの魔術具を探し当て、かつ利用する為に存在しているものだと知っていた」


 「……そしてアーサ王とミーヤ嬢を見つけたアルテミスがそれを奪うために襲った。が、私達が現れ、逃げた……」


 「……確かに合致する……じゃあ、この魔術具を使ってあいつは何を企んでいるんだよ?」


 ミネルバが私に聞き返すが私もその質問には答えられず口ごもる。その答えを代わりに答えたのは弟子であるヴィアだった。


 「……師匠は確かに魔術具についても研究していた。何よりそれは龍族と人の関係を保つためにあるんだって昔……そうだ! ゼウスの所へ行ってみよう!」


 『ゼウス!?』


 皆が驚く。そりゃそうだ。元はと言えばゼウスの逆恨みが原因の戦いだったからである。その元凶にまた会いに行く気にはなれない。


 「まぁ、そりゃそういう反応になるよね……でも、一つ確かなのは、ゼウスはその目でアルテミスがその弟さんを殺した鬨に使った武器……恐らく魔術具を見ていたということだよ」


 「ッ! そっか! それがもしこの本と宝石なら……」


 「皆はどうする?」


 「あたしはついて行かないとね。ま、これも魔術師としてのお仕事ってことにするよ」


 ミネルバが答える。他の皆は「ここに残る」と言ったので一先ず、私とミネルバがゼウスに会いに行くことになった。


 「じゃあ、行ってくる。二人をお願い」


 「任せんしゃい!」


 


 ──────シュン!


 


 「……さて、私達はアルテミスの行方を探そう。シエテちゃんが必ずいい情報を持って帰って来ると信じて」


 


            ◇


 


 ──────シュワン!


 


 「ゼウスはどこに……」


 「あそこじゃねえのか?」


 ミネルバが指を指す。その先には森が広がっていた。森……そうか!


 「アグリピナさんの家!」


 


 


 ──────シュン!


 


 「ッ! あら? シエテさん?」


 「こんにちは。怪我の具合はどう?」


 アグリピナは笑顔で「もう大丈夫よ、ほら!」と水が入った桶を持ち上げた。すっかり元気な様だ。


 「ところでお兄さん……ゼウスを知らない? 聞きたいことがあるんだけど」


 「兄さん? 兄さんならさっき誰かと──────」


 


 ガッ!


 


 『ッ!』


 突然誰かが現れ、彼女の首に刃物を近づける。私が「誰なの、あんた」と聞く。すると隣に立っていたミネルバが驚いていた。つまり、


 「……あんたが『アルテミス』……!」


 私が答えるとアルテミスが「ご名答~」と言い、髪を掻き上げた。その片目は剣で切られた様な跡が見える。


 「この眼はなぁ……あの時、ユーサにやられた傷だ。今でも疼く。だからよぉ……この女も、ゼウスも、全員纏めて殺してやらあぁ!」


 感情をむき出し、今にもアグリピナさんを殺しかねない。ここは慎重に──


 「おい、あんた! あたしらに向かってその言い方はねぇんじゃないかぁ!」


 「ミネルバ……!」


 よく見ると手には酒瓶が握られていた。ヴィアが言っていたお酒が入ると云々はもしかしてキャラが変わっちゃうということか……ましてゼウスと会った時も今の感じだった。本来の大人しいキャラは隠したいのかも知れない。とまぁ、そんなことよりも、今のミネルバが発した言葉に「グギギ……」と音を立てるアルテミス。これはまずい。


 「……彼女を解放しなさい! あんたの狙いはこれでしょう!」


 私がペンダントを見せた。


 「ッ! お前が持っていたのか……はっ! ちょうどいい。それを寄こせ! そしたら解放してやるよ」


 「くっ……!」


 「どうすんだ、シエテ!」


 「……いいわ。彼女を助けられるなら、これを渡す」


 「おいッ! それじゃあマリンが!」


 ミネルバが私を止めようとすると、アルテミスがマリンの言葉に反応した。


 「マリン! そうか、あいつを蘇らせるためにそれを……」


 「……? 蘇らせる? どういうこと?」


 「とぼけるなよ。お前が持ってるそれとあの本があれば死者だって蘇る力がある。もちろんただの人間でもな!」


 「ッ! やっぱり、あの本とこれはそんな力が!」


 「ああ? 本も持ってるのか? よこせ」


 「宝石だけのはずよ!」


 「そうじゃないんだよなぁ~……その宝石はマリンのもんだが、本は俺の私物なんだよ」


 「……なら余計にあんたには渡せない」


 「いいのかぁ~? こいつを殺しても」


 「それも止める。だから私がいるのよ……!」


 「ふん! なめやがって!」


 アルテミスの握ったナイフがアグリピナの首をなぞる……その瞬間、黒い影がアルテミスの背後に現れ、アルテミスもろとも包み込む。その数秒後、離れた場所からアグリピナと彼女を助けた人物──兄、ゼウスの姿が現れた。


 「ふん! 久しいな、アルテミス。悪いがこれ以上、肉親が消えるのを、我は見たくない……!」


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