第12話 もしも、虫に生まれ変わるなら

 前にも、虫の話したことあったよね。え?またその話かって?

 お前はさ、偉大なセミに敬意を払わない奴だから、とくと俺の話を聞くがよい。

 

 今回は、セミと並んで身近過ぎる虫、アリだ。な~んだアリか、って?

 その、な~んだのアリも驚くべき秘密があるんだよ。

 まずは、土砂でウロウロしている働きアリだけど、性別はわかるか?そりゃあオスでしょってか?お前、やっぱり、昭和の男とイメージ同化させてるなあ。そう言うと思ったよ。実は、全員メスなんだよ。いや、ほんとに、働きアリ全員がメス。女王アリの産んだ未受精卵から産まれるんだよ。働きアリの役割は餌を集める、巣を守る、幼虫の世話をするなど多岐にわたるけど、まさに働きメイドだな。


 じゃあ、オスはどうなってるんだって?な、ほんと、オスがいなきゃ卵は産まれないものな。それが、実は、女王アリが産む大量の卵の中で、交尾の季節に産まれたほんのわずかな受精卵から雄アリが産まれるんだよ。でな、そのわずかな雄アリは別の巣の女王アリと交尾するためだけに存在していて、その役割が終わると間もなく死んでしまうんだよ。なあ、びっくりするくらいはかないだろ?

 でな、その女王アリなんだが、驚くことに、たった一度交尾しただけで、それから何年もずっと卵を産み続けるんだよ。え、なんでかって?女王アリの体内にさ、保存された精子を維持して、必要に応じて放出するための仕組みがあるんだってさ。何年も何年も精子を小出しにして受精させるんだよ。

 はかない雄アリの寿命は数週間から数か月、雌の働きアリの寿命が数か月から一年程度。で、女王アリの寿命が10年以上だっていうんだからほんと驚くよ。


 ん?私も女でよかったって?いったい、何に共感してんのか。

 セミは飲まず食わずで声を振り絞って鳴いて、それでも、メスと交尾できずに死んでいくオスがたくさんいて、バッタやコオロギのオスも同じようなもんでさ。だから、俺が虫のオスとして生まれ変わるなら、何が良いのか、っていうか、どんな虫がまだマシなのか調べてみたのよ。

 したらね、割かし好感が持てたのが蛍。蛍って言うまでもなく光るでしょ。もちろん、オスはメスと交尾するために光るんだけど、メスも「私、此処に居るわよ~」って、オスの発する光に呼応するように光るんだってさ。それって、嬉しいじゃない?

 あとね、交尾するのにそんなに苦労しない虫、ということで調べたらさ、寄生バチ、ハエの一部、カメムシ、ゴキブリ、シロアリとかだってさ。みんな人間に嫌われているのばっかり。

 なんだか、あ~あ、って思ったわけ。



 なあ、お前、俺でいいよな?

 な?

 えええ~? 返事してくれよ~




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独り語り 橙 suzukake @daidai1112

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