第4話 君だけに聞こえてる

「それで、どうなされるのですか?」


 宿への道中に、ソフィさんがチンピラ《ロヘア》に問いかけた。

 その視線は勇者の棺桶へと向けられている。


「ん? とりあえず話を聞いてみるつもりだよ」


 こいつにな、と勇者の入った棺桶をコツコツと小突くロヘア。


「え、死んでますよね、それ」


「は、あたしとこいつとのは死んだ程度では切れねぇ繋がりってもんがあるんだよ。会話ぐらいこの状況でも出来ねぇ訳もねぇさ」


「それでしたらなんで先ほどは教会に?」


 結局蘇生もしてないしもっともな疑問だと僕も思いますよ。

 でもね。どうせロクでもない理由なんだと思うよ? ソフィさん。って聞こえないか。


「聞こえてんだよ!」


 どかっ!


 と棺が蹴られ音を上げる。

 ソフィさんは訳がわからない様子で、僕も訳がわからない。


「ロクでもないってなんだよ。ちゃんとした理由があんに決まってんだろ?」


 その理由って?


「あのクソ神父をシバク為だ!」


 ほらやっぱりロクでもない……って話が通じてる?

 聞こえてる?


「ああ、聞こえてる」


 い、いつから……。


 いや、それよりもこれってつまり……。


 僕がこの、スライムにも負けるクソザコ勇者って事に……ならない、よね?


「おいおい、自分でクソザコとか言ってやんなよ。なあ勇者様?」


 ニヤつくロヘアがそう言った。


 マジですか……。

 僕がクソザコ勇者だったのか……。




「それでなにがどうなっているのでしょうか?」


 宿への部屋へと着いて、まずソフィさんがそう問いかけた。


「言っただろ。死んでたって勇者とは会話ぐらいできるって」


「それは……女神様ですから信じますが……」


 うん。思いっきり怪しそうって顔してるね。ソフィ。


「はぁ、そんな心配そうな顔すんじゃねーよ。別にあたしの頭がイカれた訳じゃねぇ。そう見えっかもしんねえけどな」


 そうだね。イカれたんじゃない。

 元々だって事だよね。


「い、いえ。本当にそれは信じていますから」


 やっぱり? 元々イカれてるって思うよね。

 ソフィに僕の言葉は届いていないだろうけど。


「なら、この話はもういいだろう。でだ。本題になる訳だが……」


 うん。ロヘアのイカれた頭をどうするかって話だね?


「てめぇは、ちょっと黙ってろ!!」


「ひぇ! す、すみません!?」


「あ、いや、ソフィに言った訳じゃなくてだな……」


 いきなり怒鳴るから、ソフィが涙目になっているじゃないか、まったく。


「驚かせて悪かったよ。だから、な? 泣くなって。ッチ、テメェがうるせえからだぞ!」


「も、申し訳ありません。私うるさかったですね……」


「ち、違う違うッ。ソフィじゃなくて勇者だから! クソ! どうしろっていうんだよ……」


 あぁ、なんかごめんね?


 気まずい雰囲気に包まれた室内に、僕の言葉だけがロヘアだけへと届いた事だろう。


 僕もちょっと会話が久々な気がして、調子に乗り過ぎてしまっていた様だ。






 一先ず、ロヘアの「めんどくさい」の言によって、ソフィは一度隣室で待機してもらう事となった。


 元々、今いるこの部屋と隣の部屋に2室を借りていて、隣の部屋にはパーティメンバーの残り二人も待機していたのだそうだ。


 宿に戻りすぐにあんな事になってしまって、結局その2人にソフィさんをなだめてもらうため、そのまま隣室にいてもらう事になった。


 どんな人達なのか気になるところではあるけど、仕方ない事だ。


「仕方ないって、お前が言えた義理かよ……」


 それもそうかもね。

 後で謝っといてよ。


「まずはあたしに謝ってほしんだがな、ったく」


 はは。ごめんね?


 それにしても、僕の言葉が聞こえるっていうより、考えてる事が伝わっている様な気がするのは気のせいなのかなぁ。


「やっぱ、死んでても忘れてるんだな」


 そう言うロヘアは少し寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。


「は、気のせいだろうよ。それよりもなんも思い出せねえのか? お前の考えが読めることなんて当然知っていた事なんだぞ?」


 そうだったのか。

 僕の生前はなんとも生きづらい人生だったに違いない。


「で、どうなんだよ。覚えてる事もあるのか? 考えを読むって言っても、疲れるんだよ、これ。だからさっさと答えろよな」


 まったく、なにも覚えてないよ。

 気づいたら、あの教会にいて。君が神官様をボコボコにしているのを見てたのが最初の記憶って事になるかな。


「そうか……その後、蘇生した後のことはどうだ?」


 んー。それって本当に僕が蘇生されてたのかなぁ?


「どう言う事?」


 いやさ、その蘇生を行われたとき、急に意識がなくなって、次に目が覚めたらまた君が神官様をボコボコにしてるところだったんだよね。


「……」


 それでその次の蘇生の時も同じで、気づいたら君が神官様をボコってた。

 ってボコりすぎじゃない!?


「……そうか。つまり今のおまえも生き返った後の事も覚えてないのか」


 今の僕も?


「その辺も含めて、話してやるよ。まずはお前がお前の状況を理解するべきだろう」


 そうして、ロヘアは語り出す。

 僕が最初に蘇生されてからのの出来事を--。















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魔王討伐に失敗した僕たちは、始まりの村からやり直すらしい。 昨咲く @sakusaku3

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