用語集その1

 用語集に取り組んでみました。ここにあるのは全部、第一部「スタージア」で出てきた用語ばかりです。第一部からこんなに独自用語出しまくってたら、そりゃ引かれるわけですよ。こんなお話を最後まで読み通してくださった読者様には、本当に感謝です。

 第二部以降に登場した用語についてはまた後程。


○スタージア……《星の彼方》を追われた《原始の民》が三百年をかけた末に見出した、人類の居住可能環境を備えた惑星。無事入植を果たした《原始の民》は、スタージアからやがてエルトランザをはじめとする様々な惑星へと開拓植民を果たしていく。開拓の方向は《星の彼方》方面と反対方向に限られており、スタージアは必然的に銀河系人類社会の末端辺境に在り続けることとなった。


○《星の彼方》……《原始の民》が出立したとされる伝説上の星や方面をまとめて指す言葉。人類発祥の星があるともされているが、その正体は不明。スタージアを基点にして銀河系人類社会の反対方面を指すこともある。


○《原始の民》……《星の彼方》を追われたと伝わる、銀河系人類社会の祖先。《星の彼方》の高度な科学技術を持ち出してスタージアに入植し、銀河系人類社会の発展の基礎を築いたとされる。その実態は人類の発展を願って《オーグ》が宇宙に送り出した開拓移民団のひとつであった。


○銀河系人類社会……スタージアを基点に発展した人類社会の総称。有人惑星数は星暦七〇〇年頃には百に、第二次開拓時代を経た八八〇年頃には百二十超に達する。総人口はおよそ百三十億人ほど。


極小質量宙域ヴォイド……観測質量値がゼロとなる宙域。隣接する星系それぞれの極小質量宙域ヴォイド同士を往来する超空間航行によって、恒星間距離の移動が可能となる。銀河系を広く移動するには必須の宙域だが、超空間航行に必要なだけの広さを持つ極小質量宙域ヴォイドの発見は至難。それだけに極小質量宙域ヴォイドをデブリ等で汚染する行為は、銀河系人類社会でも最大の禁忌タブーとされる。


○恒星間航法……極小質量宙域ヴォイドを利用した超空間航行によるスムーズな恒星間移動を果たすために編み出された体制。隣接星系それぞれの極小質量宙域ヴォイドに管制ステーションを置き、超空間航行に入る宇宙船以外の質量が存在しないかを常時監視する。管制ステーションは必然的に入出国管理を兼ねるケースがほとんどである。《原始の民》が《星の彼方》から持ち寄った技術のひとつであり、ベースとなる超空間航行については原理的には解明されていない部分も多い。


○連絡船通信……タイムラグのない直接通信の範囲は一星系に限られるために編み出された恒星間通信手段。メッセージを抱えた連絡船が隣接星系それぞれの極小質量宙域ヴォイド管制ステーション間を定期的に往来する。


○博物院……《原始の民》がスタージアに降り立って以来、銀河系人類社会の叡智を集積し続けてきた、博物施設・兼・研究施設。トップの博物院長はスタージア市政府や連邦評議会議員をはるかに上回る、事実上のスタージアの最高指導者と見做されている。その建物は《原始の民》の宇宙船を模したとされているが、実際には宇宙船そのものをそのまま施設に転用している。《オーグ》の科学力によって作られた宇宙船の動力源や計算資源は銀河系人類には測り知れない超高性能を誇り、移設された博物院の地下でいつまでも《スタージアン》の精神感応的な《繋がり》を支え続けている。


○銀河連邦……テネヴェ人ディーゴ・ソーヤが提唱した構想に基づき、ローベンダール惑星同盟を中心に結成された独立惑星国家の共同体。加盟国間の航宙・通商・安全保障の共通化を目的として発足し、やがて旧来の複星系国家を凌ぐ銀河系人類社会の中心勢力となった。本拠地はテネヴェ。当初三十八カ国から発足し、百年後には六十弱と全有人惑星の半数近くが加盟国となる。銀河連邦がここまで安定して発展を遂げた裏には、テネヴェの官僚機構を完全に掌握した精神感応的集団《クロージアン》の存在があった。


○巡礼研修……銀河系人類のルーツを知るという題目の下、銀河連邦加盟国の教育課程で必修とされるスタージアへの研修旅行。


○ミッダルト……初期開拓時代に開拓入植された独立惑星国家。資源に恵まれない代わりに人材育成に注力し、様々な教育研究機関が充実していることで有名。


○《スタージアン》……《オーグ》が送り出した開拓移民団の末裔。移民船の動力と計算資源を用いた強力な精神感応力で互いに《繋がった》、惑星スタージアの総人口二千万人の大半を占める超個体群。彼らが銀河系人類社会の叡智を集積し続けたのは、やがて来るだろう《オーグ》の精神干渉を防ぐためのあらゆる手段を模索するためであった。原則的に自ら歴史の表舞台に立つことはないが、同時に自身が銀河系人類社会の一部であることもわきまえており、外部からの協力要請については門戸を開いている。《オーグ》来襲に際して、事前に精神感応的に《繋いだ》銀河系人類社会の物量をもって対抗しようと図るが、《オーグ》の精神感応的物量は《スタージアン》の想像を上回っていた。そこで彼らが最後の手段として用意したのが、ウールディ・ファイハとユタ・カザールを介した、未知の精神感応的超個体群である惑星クロージアの生態系と《オーグ》との邂逅であった。


○精神感応力……ヒトとヒトの思念を、既存の物理的な手段を介さずに直接《繋げる》能力。その存在自体は認知されていたが、サンプル数が少ないためにあくまで一研究対象でしかない。《オーグ》はヒトの遺伝子に組み込んだN2B細胞に精神感応的な通信機能を付与し、全人類を精神感応的な《繋げる》ことに成功した。《スタージアン》や《クロージアン》の精神感応力も、《オーグ》と同じくN2B細胞に由来したものである。一方で生来の天然の精神感応力を持つ者もいるが、大半はN2B細胞由来の力に隠れて発揮されることは少ない。天然の精神感応力を発現させるには、N2B細胞の先天的欠損がないと難しいとされる。


自動一輪モトホイール……星暦七五〇年頃から流行りだした、モーター内蔵の一輪タイヤホイールを利用した乗り物。走行中はタイヤに引きずられるような形で後方に伸びる支柱に、着座用のシートと操作用レバーが装着されている。ジャイロ・スタビライザーによって着座しても支柱が地面に着くこまで傾くことはない。通常は一人乗りだが、ユタが愛用した自動一輪モトホイールはタンデムシートにカスタマイズされている。


現像機プリンター……《原始の民》が《星の彼方》より持ち寄った技術のひとつ。材料と設計図レシピさえあれば、現像機プリンターのサイズに収まるものならなんでも再現できる。ただし有機生命体については個々に差異が生じるため、そもそも設計図レシピの作成は不可能とされる。


設計図レシピ……現像機プリンターによるモノの再現に必要な設計図を『レシピ』と呼ぶ。現像技師は様々なモノを再現する設計図レシピの作成に心血を注ぐ。


○フライドボール……磨り潰した芋類を小麦粉で覆って油で揚げた、銀河系人類社会で普遍的なジャンクフード。ただしどんな芋を使うか、また芋類に混ぜ込む材料や付け合わせのソース類は星や街ごとに千差万別である。貿易商人はフライドボールの味つけを二桁以上挙げられるようになって、初めて一人前と言われる。


○N2B細胞……ほとんどの銀河系人類に備わる、強力な人体の防御・回復機能を持つ身体調節器官。個体差が皆無と言えるほどの均質性が特徴。その実態は《オーグ》となる前の人類が、精神感応的に《繋がる》ためにヒトの遺伝子に埋め込んだ、精神感応的通信機能も備えた有機的ナノマシンの一種。銀河系人類社会では通信機能を知る者は《スタージアン》ほか一部に限られていたが、ついにその秘密を突き止めたのがドリー・ジェスターであった。彼女は精神感応的な通信機能は人類に不要と考え、N2B細胞の身体調節機能をほかの器官で代替する術を発明する。


○《オーグ》……地球人類が高度にテクノロジーを発達させた結果、平和かつ安定した世界を築くために全てのヒトを精神感応的に《繋げた》結果生じた、超個体群。膨大な動力源と計算資源に支えられた精神感応的集団が自ら名乗った《オーグ》という呼称は、「組織organization」「起源origin」に由来する。《オーグ》は太陽系一帯を完全に支配するが、一星系を超えることが出来ないという直接通信の壁に阻まれ、それ以上の発展が不可能な状態に陥った。このままでは緩慢な滅亡しかないことを悟った《オーグ》は、彼らと《繋がら》ない恒星間距離の先に大量の開拓移民団を送り、《オーグ》単体では不可能な多様な人類社会の発展を託す。スタージアに降り立った《原始の民》もまた、《オーグ》が放った開拓移民団のひとつであった。


○ベープ管……過熱した溶剤から発生した水蒸気煙を味わう嗜好品。溶剤は好みによって様々な味や香りを組み合わせることが出来る。シャレイド・ラハーンディは溶剤に薬剤を仕込んだ特注品を使用していた。作中でほかにベープ管を嗜んだのは、ドリー・ジェスター、ディーゴ・ソーヤ、グレートルーデ・ヴューラー、ラージ・ラハーンディ。


○ミッダルト総合学院……銀河連邦加盟後のミッダルトに創設された、複数の専門課程を備えた初の教育機関であり、以来銀河系随一の名門学院の座を保ち続けている。初代院長のドリー・ジェスターにちなみ、『ジェスター院』の愛称で親しまれる。


○テネヴェ……初期開拓時代後期にバララトの支援を受けて開拓入植した独立惑星国家。入植直後に勃発した同盟戦争の影響で早々にバララトとの関係が切れるが、温暖湿潤な気候を活かして農産業を主体に順調に成長を遂げる。同盟戦争後はローベンダール惑星同盟の外圧に苦しめられるが、その対策として惑星同盟をも巻き込んだ銀河連邦の設立を掲げて、テネヴェ自体は連邦の本拠地の座を獲得した。同時に発達した情報産業は、連邦の裏に暗躍し続ける精神感応的集団《クロージアン》が自らの《繋がり》を拡大・維持するために働きかけたものであった。


○ローベンダール惑星同盟……ローベンダール、スレヴィア、イシタナ、タラベルソら十の独立惑星国家が、バララトによる経済的支配を脱するために組んだ軍事同盟。同盟結成と同時にバララトに対する債務不履行を宣言したため、必然的にバララトとの軍事的衝突に突入した。エルトランザの支援を受けた惑星同盟はバララトに勝利し、そのまま第四の複星系国家となる。周辺を既存の勢力に囲まれるために独立惑星国家を併呑することで勢力を拡大していったが、後に銀河連邦構想に賛同してその母体となり、発展的解消を遂げた。


○ローベンダール……バララトの支援を受けて開拓入植した独立惑星国家。バララトの軛を脱するために惑星同盟を呼び掛け、その主導的地位を獲得した。銀河連邦設立後も、連邦加盟国の中ではテネヴェに並ぶ中心国家として存在感を示す。


○複星系国家……複数の星系を版図に収める国家を指す。初期開拓時代にはエルトランザ、バララト、サカの三カ国だったが、同盟戦争後にはローベンダール惑星同盟を加えて複星系国家四強と呼ばれた。


○エルトランザ……スタージアから初めて開拓入植された惑星。後の初期開拓時代はエルトランザを基点にして新規の惑星開拓が進められていく。エルトランザ自体も近隣の惑星を版図に組み入れて拡大し、銀河連邦設立までは最大版図を誇る複星系国家であった。政体としては各惑星の代表による合議制で銀河連邦に近いが、いずれもエルトランザ主体で開拓された惑星であることから“エルトランザの民”であることの自負は非常に強い。


○バララト……エルトランザと同じく、初期開拓時代に成立した複星系国家。エルトランザに比べると企業連合的な色合いが強く、後には開拓支援した独立惑星国家を経済圏に治めることで事実上の銀河系人類社会の覇者となった。だが彼らの搾取を嫌った惑星同盟との争いに敗れ、バララトも覇者の座から転落する。銀河連邦成立後には近バララト、遠バララト、正統バララト、ディレイラ企業合同体などの小規模な複星系国家へと分裂した。


○サカ……エルトランザ、バララトに遅れて成立した複星系国家。エルトランザを脱して集団が、スタージアへの真の信奉者という大義名分の下に建国した王制国家。同盟戦争を裏で焚きつけようと暗躍したり、銀河連邦二代常任委員長アントネエフと当代サカ王の友誼を足掛かりに銀河連邦と初めて正式な国交を持ったりと、銀河系人類社会をしたたかに立ち回ってきた。《オーグ》来襲時には、銀河系人類社会で最初に精神感応的に呑み込まれることとなった。



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