未来人からチート能力をもらったキモいネトウヨ中年だけど、もっとチートな実の娘と戦う羽目になりました。誰か助けて……このままじゃ返り討ちだ。

始まりの夜――昨日まで 他人事かと 思いしが 俺がくたばり 安易なチート化

(1)

　自称「未来人」２人に殺された挙句、流行りの言葉で言うなら「チート能力」をもらって復活し、その結果、ストリーキングとお巡りへの暴行をやる羽目になった少し前、俺は、仕事が終った後、妹の旦那である正悟と飲んだ後、タクシーに乗っていた。

　あ、言い忘れていたが、俺は岸本信一郎。大手広告代理店「帝通」の部長だ。

　そして。義理の弟である岸本正悟は「ある国会議員」の事務所の職員なのだが……問題は、「ある国会議員」と云うのが、俺の妹にして彼の嫁だと言う事だ。名前で判る通り、彼は、ウチの家に婿養子に入っている。つまり、カミさんの尻に敷かれてる男だ。

　タクシーの中では、ラジオから、年上の男が相手でもズバズバとキツい事を言うので有名な女子アナの声が聞こえている。

「義兄さん、すいませんね。いや、ウチのカミさんが、この女子アナの大ファンでねぇ……」

　そう、俺は、あるニュース番組で、ウチの妹がインタビューを受ける事になった際に、相手をこの女子アナにするように手を回したのだ。

「ま……まぁ、その手の事なら、何でも頼んでくれ」

『では、本日の特集は「恋人でもない男から送られるセクハラＬＩＮＥ」です』

　……ん？　何か、……いや、何と言うか……ともかく、何か引っ掛かる。あぁ、そう言や、妹へのインタビューの件で、この女子アナと会った後に、ＬＩＮＥ送ったが……まぁ、セクハラと言う程じゃない良く有る内容だしな……。

『私も、この間、仕事で１回会っただけの人から二三時過ぎに「これから暇だったら、お兄ちゃんが一緒に飲んであげるよ」ってＬＩＮＥが来まして……』

　え？　まさか……いや……その……。

『「一緒に飲んであげるよ」って上から目線の時点で、かなり危険ですね。ところで「お兄ちゃん」って？』

『私、今、二七で、相手は五〇過ぎの人なんですよ。「パパ」でもおかしくない齢ですね』

『それ、変な意味の「パパ」ですよ』

『向こうも、変な意味の「パパ」に成りたいんじゃないですか？　こっちには、その気は無いけど』

『まぁ、確かに……』

『で、遠回しに「あんたと飲む気もＳＥＸする気も無い」って意味で「もう、お風呂入っちゃって、これから寝る所なんです」って返事出したら……』

『あ〜、やっちゃいましたね。二三時って時点で、完全にチ○コに頭を乗っ取られてる時間なのに』

『更に、その返信が「あ〜、早く言ってくれたら、お兄ちゃん、一緒にお風呂入りに来たのに」って……』

『女性の皆さん、仕事の上司や先輩とか、取引先の人とか、立場が上の男性が夜遅い時間にＬＩＮＥを送って来たら、気を付けて下さいね。そんな時間にＬＩＮＥを送って来る時点で、完全に脳味噌じゃなくてチ○コでモノを考えてる状態になってますから』

『あ〜、一つ目の時点で、ｔｗｉｔｔｅｒで実況してる皆さんの反応が「そんな男、去勢しろ」「男だけど、男性不信になりそう」「職場にも、そんな上司居る。何度、殺したいと思った事か」』

『言っておきますが、今回紹介するのは、あくまで、公共の電波で流せるレベルの話です。でも、それでも、この状態ですので……、キツい話を聞きたくない方は、チャンネル変えて下さい……って言うと怒られるか』

『気分が悪くなる話を聞きたくない方は、チャンネルはそのままで、音量だけ０にして下さい。こっちも笑い事にしないとやってられない。舐められてるのに、相手は、私達を舐めてる事にさえ気付いてないんですから』

　横で聞いてた義弟は……最初は「あ〜、有る有る」的な笑いをして……俺の様子に気付いて「えっ？」と云う顔付きになり、最後には「あちゃ〜」とでも言いたげな顔になった……。

「あの……まさか……義兄さん……」

「プライベートな事をバラさなくても良いと思わないか？　なぁ？」

「あの……言いましたよね……ウチのカミさん、この女子アナの大ファンだって……。つまり、ウチのカミさんは、この女子アナから『あんなのの妹』と思われた状態で、インタビュー受けると……。ウチのカミさん、楽しみにしてたのに……」

「はぁ？　『あんなの』って誰の事だよ⁉」

「義兄さんの事に決ってるじゃないですかッ‼」

「『あんなの』ってどう云う意味だ⁉　俺は、天下の帝通の部長だぞ‼」

「お言葉ですが、義兄さんが、元閣僚の息子で、現与党幹部の兄じゃなかったら、その帝通に入社出来て、部長になれたと思ってるんですか？」

「俺が、コネ入社してコネ出世した実力の無いクズだと言いたいのか⁉」

「ええ、そうじゃないですか？」

「君だけは、俺の味方だと思ってたのに‼」

「私は、親戚付き合い以上の事をやった覚えは有りませんが」

「ふざけんな、嫁の尻に敷かれてる玉無しがッ‼」

「はぁ？　じゃあ、何で、義兄さんじゃなくて、その俺を尻に敷いてるウチのカミさんが、義父さんの後継者になったんですか⁉」

「うるせぇ‼　もう、ここで降りる‼　後は勝手にしろ‼」

　そして、俺は……とぼとぼと、夜道を歩いた……。

「あ……明日から……どんな顔して生きてきゃいいんだ？」