未来人からチート能力をもらったキモいネトウヨ中年だけど、もっとチートな実の娘と戦う羽目になりました。誰か助けて……このままじゃ返り討ちだ。

@HasumiChouji

序章

「うわあああ〜ッ‼ 何で、俺、裸なんだよッ⁉」

「生き返らせてやったら、第一声がそれか……」

「先が思いやられるな『兄弟』」

「何だよ、その『兄弟』ってのは?」

「お前の事、他に何て呼べば良いんだよ?」

 まず、耳に聞こえてきたのは2人の男の声だ。しかし、何か変だ。

「君達は……誰だ? そして……ここは……どこだ?」

 そこは、やたらと床に埃が積った部屋だった。靴の足音が板張りの床にいくつも付いている。民家の一室らしいが、家具らしきモノは見当らない。俺が寝かされていた簡易ベッドを除いては。

「すまん、俺達のせいで、どうも、あんたが死んじまったらしい」

「なので、俺達があんたを生き返らせた。まぁ、早い話が『未来の技術』ってヤツでな」

 声の主は2人の若い男。2人とも、バイク用か何かのプロテクター付の黒い革のツナギを着ていて……そうだ、2人の声に感じた「変さ」の理由は……これか。

 こいつらの顔は双子のようにそっくりだ。声も、ほとんど同じ。そのせいで、誰かが一人二役をやってるような気がしたのだ。

 髪型は少し違うが……。あと、着ているツナギも似ているがビミョ〜に違う……気がする。

「君らは……一体?」

「未来人だ。岸本信一郎さん」

「いや、岸本優希の父親と言った方がいかな?」

「未来人?」

「で、生き返らせてやった礼と言っては何だが、頼みが有る」

「あまり、気が進まん頼みだが……あんたの娘・優希を殺してくれ」

「はぁッ⁉」

「詳しい説明は端折るが、今、政治家やってるあんたの妹が、子供が無いんで、あんたの娘を養子にくれ、って言ってるよな?」

「待て、何で知ってる?」

「話せば長くなるが……俺の時間軸では、あんたの娘が、あんたの妹の後継者になった結果、日本最初の女性首相になり……そして、日本は無茶苦茶になった」

「そして、俺の時間軸では、あんたが娘を養子に出さなかった結果、あんたの娘は……アメリカ初のアジア系女性大統領になった。そして、こっちの時間軸では全世界が無茶苦茶になった」

「待て、何を言ってる?」

「つまり、あんたが、どんな未来を選ぼうと、あんたの娘が、日本だけか世界全てかのどっちかを無茶苦茶にする」

「なので、あんたの娘を殺すしかない」

「い……いや、ちょっと待て、か……仮にだよ……娘が殺すしか無いクソ女だとしても……あんたらが……」

「やだ。俺は人を殺すなんて度胸は……その……何だ……」

「俺もやだ。俺も……その……何だ……」

「待て‼ ふざけるな‼」

「だから、あんたを生き返らせた時に、体と脳に細工した。まず、あんたの今の身体能力はオリンピック選手級で、骨や内臓に達っしていない傷なら、1分以内に治癒する」

「そして、大半の人間が持ってる殺人への本能的な禁忌感情を麻痺させた。あんたは自分の娘をためらいなく殺せるし、殺した後も、それがトラウマになる事は無い。今のあんたは、生まれ付きじゃないが……ある意味で『生れながらの殺人者ナチュラル・ボーン・キラー』だ」

 2人は俺の抗議を無視して説明を続けたが、説明の内容は更に酷いモノだった。

「お前ら……まさか……その……」

「あんたを巻き込んだのは偶然だ。たまたま、あんたが俺達が狙っていたクソ女の親だっただけだ」

「でも……まぁ、その偶然のおかげで……」

 ガタン……。

 その時、何かの音がした。

「おい……そう言えば、ここ、どこだ?」

「あんたの家の近くの空家だが……」

「まさか『呪怨屋敷』か?」

「何だそりゃ?」

「出るって、噂なんだよ……その……幽霊が……」

 ピピピピ……。

 続いて、何かの電子機器の警告音らしき音。

 片方はツナギのポケットから、もう片方は腰に付けているポーチからスマホのような電子機器を取り出した。

「幽霊じゃない。もっと厄介なモノだ」

「3つ目の時間軸の『未来』から誰かが来たらしい……。でも……どう云う事だ?」

 その時、足音と……そして……。

「まさか、あんたの仕業やったとね⁉」

 九州弁っぽい訛のオバハンの怒号。

 声の主は……TVか映画で見たアメリカあたりの軍か警察用のプロテクターに似た防具を身に付けた……背はそれほどでも無いが服の上からでも筋肉質だと判る……怒りに満ちた顔のオバハンだった。

「お袋⁉」

「母さん⁉」

「まさか、ウチの息子殺したとが、ウチの息子本人やったなんて……こん馬鹿がぁッ‼」

「どうなってる?」

「判らん……でも……」

「あんたは逃げた方が良いッ‼」

 ……そして、2人の男が俺を逃してくれたせいで……俺は、翌日から警官や警察っぽい制服を着たヤツを見ると、反射的に「逮捕されるのでは?」と思うようになった。職場の警備員を警官と見間違えて、逃げ出そうとした事さえ有る。

 たしかに、あの2人の言った通り、俺は、オリンピック級の身体能力を得て、平気で人をブン殴ったり殺せたりする人間になったようだ。

 フルチンで路上を走っていた俺を逮捕しようとした警官を、あっさりブチのめせたのだから。

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