第10話『ソーダと地球』
ミントの葉っぱにくっついた炭酸水の泡がきれい。
透明なモヒートの宇宙に輝く銀河。生まれては消える星たち。
『私の三年を返してよ』
小さな星から声がする。
恋に破れた誰かの叫びがコリンズグラスを震わせる。
泣かないで。分かるでしょう? 何もかも一夜の夢。泡と弾けるさだめ。
男も女も、出会いも別れも、きっと地球の歴史さえも。
お客さん、と呼ばれて顔を上げた。
カウンターの向こうではバーテンダーが微笑んでいる。
「そろそろラストオーダーです」
気取らない口調が好もしかった。
「モヒートを」
「お好きですね」
やがて出てきた最後のグラスに私は心を奪われた。
「きれい」
「ラズベリーモヒート。まだメニューにはないんですが、試してみませんか」
知らず彼の左手の薬指を目で追っていた。懲りない自分が可笑しかった。
こうしてまた繰り返すのだろう。この小さな星の上で。泡と弾けるさだめの恋を。
幻のような赤いモヒートに、私はそっと手を伸ばした。
『月の文学館』投稿作品集1~10 夕辺歩 @ayumu_yube
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