第3-1話
もうかなりの時間歩いているような気がする。
床が滑りやすいうえに、散乱したゴミが障害物と化して狭い通路をさらに狭くしているので、なかなか前に進むことができない。
所々に臨時に設置された照明の光は弱く、申し訳なさそうに周囲をぼんやりと照らしている。
空調が止まっているせいか、臭いが
廃墟にでも迷い込んだような錯覚に陥る。
「それで、平日を休業日にした理由は?」
黒川はまだ状況を理解できていなかった。調査員がおかしなことを言っているとしか思えない。
「電源設備工事の予定が入っていました。セキュリティ上の問題で休みにしたようです。午前七時から十一時半まで計画停電が実施されました」
「工事? いや、しかしそんなはずは……」
黒川は振り返り、衣鳩の顔を確認した。
衣鳩はすぐに首を横に振る。
「そうか、工事は午前中の予定だったのだな?」
黒川は再び調査員の顔を見る。
「はい」
「午後に業務を再開した部署はないのか?」
「工事が遅延した場合も考慮して、午後も出社を禁止していたようです」
「……警備は?」
「出入口は全て
「では常駐の警備員はいないのだな?」
しかしそうなると、安藤と長谷川の二人はどうやって中に入ったのだろうか。
「はい。工事を行った作業員の安否確認もとれました。予定通り午前中に工事を終えて、引き上げたそうです」
「分かった」
調査員にはそう答えたが、実はなにも分かってはいなかった。
疑問が増えただけだ。
できるだけ早く安藤と長谷川に話しを聞く必要があるだろう。
三人はゴミが山のように積まれているT字路を右に曲がった。
真っ黒に汚れた三人掛けのソファーが、斜めになって通路の半分を
ロビーから流されてきたのだろうか。浸水の激しさを物語っているようだ。
左右の壁には大きな亀裂が走っている。
暗くて見えないが、亀裂の入り具合からすると、おそらく天井まで続いているのだろう。
「黒川所長代理。お待ちしていました」
他の場所よりも明るく照明されている開かれた扉の前で、スーツを着た女性がこちらを見て待っていた。
その隣には生化学実験センターの警備員が一人立っている。
七種+は夢をみる テル @nakusa
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