VS ARMS(ブイエス アームス)

低迷アクション

第1話

 昔、婆ちゃんが言っていた。悪い事したら、必ず報いが来るって…

全壊し、沈みかけの空母の指令塔に何とかぶら下がり、額から血を流した男は思う。


地域紛争に環境破壊、人口増加に絶滅動物、俺達人間はやり過ぎた。皮肉にも神様だか、

それとも地球の意思か?さっぱり不明だが、奴等は最悪の敵を使いとして、

よりによって同じ人間に始末を付けさせる事を決めたらしい。


周辺を航行中の、まだ、半壊程度の艦船に対し、巨大な光が撃ち込まれていく。

一隻も残す気の無い徹底ぶりに寒気を覚える。一つの船に一体何人の人間が乗っている?

そいつら全員がたった2、3人の人間に殺された。


しかも、そいつ等は…“年端も行かない女の子”我が祖国の島国じゃぁ、日曜、朝と

深夜帯のアニメ枠に出番がある娘達…


およそ、現況光景に場違い感半端ない奴等が画面を飛び出し?(理屈はよくわからねぇが)

自身達を駆逐する脅威として、目の前にいる。


沈んだ船の間をヒッラヒッラの衣装で飛びかい、たまに機関砲やら、

速射砲を発射した生き残りの船に、デコったステッキから光線でトドメを差していく。


“魔法少女に変身ヒロイン”共が、俺達、最新鋭の武装で固めた軍隊を完膚なきまでに

撃ち破りやがった。連中がテレビやネットで語った内容は


「人類への警告」


らしい。地球や環境、同胞に対し、悪い事を散々しまくった連中への“お仕置き”だそうだ。


「糞ッタレ」


思わず汚い言葉がついて出る。この船も後数分で沈む。本来、聞こえる筈のない声が…

船内で、まだ息がある仲間の悲鳴や嗚咽が反響し、男の頭の大部分を占めていく。


コイツ等全員を救う事は出来ない。全く何が警告だ。確かに言われてみれば

悪い事した事かもしれねぇ、だが、それは俺達だけじゃぁ…いや、この考えが駆逐の対象なのか?


そう思う自身の前に敵の1人が降り立つ。“プリティ”なんて名前が付きそうな恰好の

美少女。握りしめたステッキに光が宿り始めている。


沈むのを待っていられなくて、わざわざ出張ってきたか?少女の顔には一切の表情がない。

戦闘慣れ?それとも害虫を駆除する程度の認識で、こちらを見ているのか?どっちでもいい。命を繋ぐ、いや、一・矢・報・い・る最後の時間稼ぎを行う。


「なあ、おいっ。そこのフリフリちゃん」


少女がステッキを向けた手を少し止めた。脈あり。日本語通じて良かった。

英語はサッパリだからな。


「最後にこれだけは教えてくれよ?一体誰の指示だ?世界を影で操る権力者?

それとも赤い十字マークの団体さん?もしくは最上位の存在、神様的な何かが

俺達を殺せって命令したのか?」


捲し立てる男の台詞に、少女はとても不快そうに顔をしかめた後、静かに一言を述べる。


「…諦めて下さい。」


予想通りの答えだった。おかげでこちらも遠慮はいらねぇ!


「だよな。ハハ…その台詞を待ってたぜ!」


男は笑い、片手に忍ばせていた即席の発火装置を押す。すまん、戦友共。

今作戦で男は、ある“指示”を上から受けていた。ありったけの精鋭と装備で挑む艦隊が、

万が一にも敗北した時、敵に通じる手段、殺せる手段を必ず見つける事を…


それがどんな方法であってもだ。自身がぶら下がる空母が激しく振動し、強力な熱源を

内から放出し始めた。


その時点で、初めて少女の顔に“驚愕”が見える。いいねぇっ!その面、たまんねぇ!

連中にも恐怖や驚きの感情があるってだけでも、めっけもんだ。少女が上ずった様子で

言葉を発するのを楽しく観察する余裕まで持てた。


「い、一体、何を?」


「まぁ、あれだ!一緒に逝こうぜ!ヒャッハァァァ!!」


咆哮と同時に、少女のニーソックス風の衣類に包まれた細足を掴んだ直後に

全身が巨大な轟音に吹き飛ばされた。そのまま数十メートル下の海岸に

叩き落とされるのと、巨大な閃光が上ったのは、ほぼ同時だった。


速攻で覚醒した意識を頼りに、田舎の温泉数十倍の熱湯の中を泳ぐ。やがて息が切れ、

海上に顔を出す男の皮膚全体に焼かれるような痛みが走り、絶叫を上げる。


目の前には竜巻みたいなキノコ雲が上り、小規模とはいえ“核爆発”の影響を色濃く

象徴している。爆心地とはいえ、海面に放射熱線が反射したため、被曝量はだいぶ少ない。

筈だ…多分…


きっと、ヨード剤投与と僅かの延命処置で何とかなるだろう。

最も、ここから無事に脱出できればの話だが…


しかし、男にとって気になるのは、彼女達に効果があったかという事だ。

戦友の命全てを犠牲にしての反撃。相手を倒す事が出来なければ意味がない。

大の大人と軍隊が、年端も恐らく行ってない少女達に何、ムキに…という言葉は

最早、死後だ。


空に視線を移す。


灰色の空に不釣り合いな衣装を翻した少女達が、撤退していく様子が映る。

爆風に捲れて、パンツが見えないのが、少し残念だ…


見上げる男の頬に一滴の液体が落ち、滴っていく。指で掬えば、それは血だ。

もう一度空を見る。敵の一団の最後尾を飛ぶ少女、先程、会話した彼女の額から

血が流れていた。


それが偶然、自身の頬に落ちた?…いや、偶然にしちゃぁ、出来すぎだ。これは必然。

連中も傷つく。つまり倒せる!


男はニヤリと笑う。放射能で爛れ、グシャグシャに緩んだ口腔を軋ませ、

耳まで裂けそうな笑顔で笑う。これで終わりじゃない。次は負けねぇ、絶対に勝つ。


昔、映画で見た、この状況ピッタリの台詞を思い出し、叫ぶ。


「血が出れば…血が出れば殺せるぞぉ!!ハッハァ!!次はぜっぇたいにかあつ!(勝つ)」


今作戦をキッカケに、核爆発による自爆戦法のイカレタ兵隊として

“狂犬”の名で呼ばれる事になる男は、熱と獄炎の海を笑いながら、泳ぎ始める。


泳ぎながら…


…爆発の最期の瞬間、少女が見せた悲しそうな顔に掴む手を緩め、解放してしまった事は、誰にも喋らず、墓の中まで持って行く事も1人誓った…



 「こちら、“同人”リーダー!

目標地点到着まで…あ~、計器類が駄目だな、こりゃ、前の海岸戦でだいぶ塩水に

浸かったから。あれだ。イカレれてるから。大体、10分。」


「りょ~か~い」


機体の操縦席といっても、外壁無し、剥き出しの代物を駆り、通信ヘッドフォンごしに

怒鳴る狂犬に、間延びした少女の声が答える。


「了解じゃないぞ?ジャミ、おい、同人1、いや、狂犬!!今の通信は何だ?

ふざけている場合じゃない。きちんと報告をしろ。」


「ワリい、ワリい。了解だ!中佐殿。」


「二佐だ。馬鹿モン。呼び方を間違えるな。」


「へいへ~い、すいませんね!斎藤の大将!」


「二・佐・だ!!馬鹿モン」


通信手の少女“ジャミング”を叱り、部隊の指揮官である“斎藤二佐”が吠え声を上げた。


「隊長、やっぱりアレですな。俺達の鬼来(キライ)もカシラ付きにしましょうや。

この剥き出しさんじゃぁ、砂漠は砂入り放題、海は海水でビッシャビシャ。戦闘どころじゃ、

ありませんぜ?」


「馬鹿野郎、戦争の風は肌で感じてなんぼだろうが!」


常時覆面の部下、前大戦の生き残りの“アスク”に怒鳴り返す。しかし大戦か…

自分の言葉でふと思い出す。思えば半年。そんなに時間は立ってないが、狂犬にとっては

数十年前の出来事に感じる程、長い道のりだった…


 そう遠くない未来、突如「世界救済少女」と名乗る連中が現れ、世界平和宣言を行った。

登場から僅か1週間で、各地で起きていた地域紛争全てが終結。そこに関係した軍隊、

及びテロ組織が壊滅した。


しかも、壊滅させたのはヒラヒラ衣装の女の子。そんなどう見たって、

明らか子供な彼女達がステッキから光線を出したり、空を飛んだりの、正に“魔法”を

駆使し、大活躍したもんだから、堪らない。世界は歓喜し、新しい時代の到来を

人々は喜んだ。


しかし、彼女達の攻撃対象がテロや犯罪者から、環境破壊や悪法を示唆する大企業、

国家レベルにまで矛先が向けるにあたり、政府は討伐の軍隊を派遣する事を決める。


結果は大敗。僅か7人の少女達に最新鋭の力を結集した戦力が僅か数時間で

駆逐された。討伐隊の生き残りである狂犬が起こした核自爆で停戦となるも、

実質、彼女達に逆らう事は無駄だという事が世界に証明された。


世の中、確かに平和になった。ちょっとでも悪い事や犯罪を起こせば、今や100人規模に増えた「世界救済少女」の連中の1人、もしくは2人が駆け付け、お得意のビームやら、

魔法光弾で一発…血と臓物をまき散らして、事無きを得る。


彼女達も、戦い慣れか、正義の名の下に行うという崇高な理念かはわからないが、

罪悪間無しで淡々と任務をこなしている。まぁ、確かに目に見えてわかるほど、世の中、

静かで穏やか。自分達の行為を疑う気持ちなんて、微塵も起こらないだろう。


だが、女の子達は“徹底”しすぎている。“悪い事”は確かに良くない。

しかし、その背景など、様々な立場の正義や要因を考える必要だってある。


例えば病気の娘を治すために、治療費を人殺しで稼ごうとした男を始末した件…

(警察の介入レベルだが、最早、戦う対象のない、彼女達はそこまでに

介入をしてくるようになった。因みに魔法の力では病を癒す事は出来ても、

治す事はできないらしい。)


正すべきは罪を犯した男ではなく、そんな経緯を生み出した国家の医療の仕組みや法制度だ。討つべき対象を間違えている。始末されたテロリストや犯罪者の肩を持つ訳ではないが、

彼等とて殺戮を好む訳でなく、様々な理由や因縁が複雑にからんでいたと思う。


だが、彼女達は考えない。いや、敢えて考えないようにしている。

悪い事をした者は全て始末。単純かつ早急な解決を行使する力を持つ無垢な少女達。

“ガキが刃物を持ったら?”と同じだ。そんな奴等に掌握された世界…

どういう世の中になるかは明白。だから、俺達みたいな“必要悪”の出番となる…



 後方に続く5つの鋼鉄機械共に、自身が駆る鋼鉄の腕を上げ“突撃”の合図を出す。

廃墟同然の旧市街地は、かつての大戦の名残だ。今日は新たに作られた町の記念式典。そこを襲撃し、警備する魔法少女達を倒す事が任務となる。


大戦から半年。秘かに集められた技術、出所不明のモノなど、多々ありを合わせに合わせて

普通の人類の反撃手段が作られた。


名前はARMS(Anti Ryrical Magic Strikes

アンチ・リリカル・マジック・ストライクス

(“対叙情的(←この部分は華麗や萌え要素として表記)魔法強襲ユニット”)

を略した完全2足歩行の人型機動兵器。


中戦車くらいの大きさに1名のパイロットを要した、ハードアーマータイプのロボットだ。

ボディ全体に対魔法コーティングとやらを施し、とりあえず“一撃ではやられない装甲”を

有している。


武器も連中のデータを分析し、彼女達が、その柔肌を守る

バリアーのようなものを“多分破れる装備”を備えてきた。


運用し、反抗活動をする組織の名は“アンチ・オータ”狂犬が所属する部隊だ。

大戦の生き残りや犯罪者、魔法少女なんぞに世界を支配されたくねぇって奴等が、

同じ考えを持った出資者達の支援によって成り立っている。


狂犬達が駆るのは“鬼来(キライ)”と呼ばれる初期型の機体、コクピットほぼ剥き出し、

(一応、正面には装甲版がついているが)の代物だ。直接負荷のGなどを考慮し、最大時速

300キロのスピードに常人の数十倍の力を出す事も出来るし、背面に噴射バーニアを

付ければ、空も飛べる。しかし、


何分“剥き出し”なので、パイロットの死亡率と交換が絶えない。味方にとっても“鬼来”な機体だ。最近では、コクピットを完全に覆い、AI搭載の頭部パーツを付けた“カシラ”なるタイプも存在しているが、少数生産かつ高級なので、


狂犬率いる“同人”部隊(同じ志を持った奴等の集まりという意味で狂犬自身が名付けた)

には回ってこないし、先程の言葉ではないが、戦風を肌で感じたい彼としては、乗り換えの予定はない。


「隊長、どうやらもうすぐみたいですぜ?」


後続に続く、アスクから軽口のような通信が入る。他の隊員達の呼応する声も

耳に流れていく。大戦で負った負傷のため、顔をマスクで覆っているが、

本人は至って陽気で、部隊のムードメーカーだ。


「よーし、いっちょ派手に逝くかぁ?」


ニヤリと笑った狂犬は、開け始めた通りに向かって機体を一気に加速させた…



 (瓦礫は嫌いだ…)


遠くに佇む旧市街地の廃墟を眺め“ドラゴウィッチ”はため息をつく。

あれをやったのは自分達だ。正確に言えば、反抗勢力との戦いでそうなったのだ。


竜を模した装飾は自分達が魔法少女である事の象徴であり、その力の強さを改めて

実感させる。戦えば、誰かか傷つき、血を流す。勿論、嫌な事だ。


しかし、敵の死体にしろ、負傷者にしろ、余程ヒドイ時でない限り、搬送され、その場に

残る事はない。


だが、瓦礫は残る。下手をすると何時までも…それが自分達のしてきた事。彼女達の持つ

力が、人を傷つける。破壊する存在という事を示しているように思える。


それが嫌だ。彼女とて戦いが好きな訳ではない。ある日、天から聞こえた声を聞き、

この力を手に入れた。頭には地球とそこに暮らす全てを守るという使命で満たされ、

志を共にする仲間達と共に進む事を決めた。


あれから半年…自分達の父親くらいの男達に銃を向けられ、最近出始めた新しい敵は

小山程の機動兵器に恐怖を感じない訳がない。だいぶ慣れはしたが…


全ては平和のため、この世界に住むモノ達が安定した日々を過ごせるように…

希望はある。交渉の上手い仲間が政府に働きかけ、協力体制の草案を作成していた。

今日の式典もそのためにあると言っていい。


目の前の空を、最初の戦いから共に歩んできた“フェアリーハート”と

他の魔法少女達が飛ぶ。大戦の最後に敵の核攻撃で、負傷した彼女の傷もだいぶ癒えた。

良い兆候だ。


大きく伸びをしてみる。復興した街が明るい光を照らしてくれていた。

平和の足音が聞こえる。そのために戦う。自分達が犠牲になったとしても、

意味のある事を為せれば、それで良い。


ふいに聞こえた鈍い駆動音が、不気味に響き、旧市街地の方向が騒がしくなってくる。


「あれは?」


呟いたドラゴウィッチの足元に巨大な爆発が起こり、押しあがってくる

熱風を感じた彼女は、先程抱いた自身の考えが“甘い事”に身を持って知った…



 「こちら同人リーダー、前方の竜ちゃんに着弾。パンツは見えたかぁ?」


鬼来の左手に構えた40ミリ自動散弾銃の戦果を報告する狂犬に

部下達の声が応答してくる。


「同人2、アスクです。それどころじゃねぇっす。隊長。空から魔女(魔法少女と言うには長いので)飛来。数は4」


「同人3、了解。迎撃に入る。」


「同人4、了解。」


「同人5、了解、こっちが対空ロケットを発射。分散魔女を各個撃破でヨロ!」


全員の返答と同時に、空から幾筋もの、光線が瓦礫周辺に着弾し、爆発を起こす。

その間を縫うように走る機体群は、携えた各々の銃器を発射し、応戦していく。


空中を漂う彼女達が攻撃を繰り出しながら、距離を詰めてくる。そこに同人5の鬼来が肩に備え付けたロケットを発射した。いくつもの爆発が起こり、2人の少女が落下していく。


「タリホー!!ワレ、魔法少女を撃墜。AMロケット改は敵に効果アリだ。隊長。」


「油断するな。同人5、反撃が来るぞ。」


興奮した同人5を遮り、散弾を前方に発射し続ける。倒したと言っても、

正確には“殺し”はしない。勿論、攻撃によって意識を失った彼女達に

トドメを刺す事はできるが、それは“しない事”に決めていた。


散々、殺され、死者も出まくりの狂犬側だが、敵の年齢や姿を考えれば、わかる事だ。

彼女達を殺す映像が世界に流れれば、自分達に来るであろう批判や抗議の動きは明らか…


自分達の目的はあくまで、彼女達に対抗できる力を誇示し、世間に理解させる事にある。

出資者達もこの方針に“概ね”納得していた。


(まぁ“柔肌ガール”共にやり過ぎはよくねぇよな)


考える狂犬に、爆炎を突き破り、ステッキを振り上げたフェアリーハートが迫る。

懐かしい顔だ。空母での戦いが思い出される。散弾銃を捨て、

背中に吊るした棍棒を抜き、相手の光り輝くステッキを受け止めた。


コクピット越しに、少女の怒りが見える。ようやく敵と対等?とにかく、

それに近いとこまで来たぞ。俺達は!!歓喜の咆哮を上げ、叫ぶ。


「久しぶりだな!魔法少女!いや、変身ヒロインのフェアリ―ちゃんかぁっ!?

どっちでもいい。今日こそ、決着をつけようぜ!!」


「??…あの時の?兵隊さん…そうですか、やっぱり…貴方達のような者が

いるからぁっ!(後は武器同士のつばぜり合いでよく聞こえない)」


(さん付けかよ…結構甘々だなっ…オイッ!)


ふと、そんな想いに駆られる狂犬だが、敵のステッキに強い光が灯るのを見て焦り出す。

鬼来全体が振動している。右手の操作盤に示された対魔法許容値は残り40%。これが0になったら、ヤバい。紙屑同然にペシャンコだ。


他の機体は全員、応戦中。援軍の予定と待つ時間はない。操作レバーを動かし、

片手の腕で少女の細い体を掴む。


「ううっ。」


フェアリーハートが苦し気な声を出す。

フルパワーなら、握りつぶせるだろうが、それは不味いので、上手な調節が必要。

しかし、これで…


と思ったのは早すぎた。後方から大剣を抜いたドラゴウィッチが飛び上がり、狂犬の鬼来に

振り下ろす。


「助かりました。ドラゴ!」


「大丈夫?フェアリー?」


「ハイッ!」


フェアリーを掴んだ腕を寸断された狂犬は、感謝の礼を述ベあう二人から飛びのき、

後方に下がる。回線を開き、部下の安全を確認していく。


「くそっ、こちら同人リーダー。腕をやられた。各隊状況は?」


「同人5、交戦中。やっぱりさっきのは“まぐれ当たり”だったかな?

やばいっ、女の子が目の前にぃぃ(無線から雑音しか聞こえなくなる)」


「同人2、アスクです。1人やっつけましたが、3と4は半壊。5は大破。

パイロットは脱出した模様。」


「よし、アスクと残りの全機。集まって応戦。背中合わせだ。」


「了解!」


残った戦力を集中させるのは戦闘の常套句。しかし、それは常識の戦闘状態だった事を思い出す。


鬼来残存が集い、空に武器を付き上げた段階で気が付く。


「ヤバいな。これじゃぁ、ここに一発ぶち込まれたら終いだ…」


「ですね。隊長。そして見てくだせぇ!」


通信を使わなくても、大丈夫なくらい密着した機体群。アスクの声に敵を探せば…


「いわゆる合体技って奴か…」


残った3人の魔法少女達が一つに集い、同じポーズをしている。数秒後に巨大な光球が

こっちを包む事だろう。しかし、それをさせる訳にはいかねぇ。


「皆、鬼来の対魔法許容値はどれくらい残ってる?」


「俺のは20っす。隊長!」


「同人3、残り60。」


「同人4、同じく60です。」


「よし、わかった。同人3、4、君達は機体から降りろ。

アスク、お前の機体と俺のを交換だ。鬼来の稼働バッテリーは残り1時間、

半分を切っている。撤退前に花火を打ち上げてやらぁ。」


「了解!!!」


手早い狂犬の指示に部下達が動き出す。アスクの鬼来に滑り込むと、空になった2機を

両手で持ち上げ、盾のように掲げた。


「〇△×@ブレイク!」


何かの技名を響かせ、3人の武器から飛び出す光が、巨大な光球にまとめ上げられて、

撃ち出された。それを2機の鬼来で受け止める。許容値合計はアスクのも含めて

140%…少しの時間稼ぎが出来れば、それで充分…


激しい光に振動する鬼来が徐々に溶けだすのを見届け、

背面のブースターを稼働させる。一気に飛び上がった鬼来で3人の少女に迫る。


「喰らいな!」


構えた散弾銃を叩き込む。防御に徹する彼女達だが、防ぎ切れず、1人が落下する。しかし残りの2人、フェアリーとドラゴが光線による反撃も忘れてはいない。


「ここまでかぁ!」


攻撃全てが着弾し、機体のあちこちから火が吹きだして、限界を伝えてくる。

迷わずに脱出レバーを引き、爆発、四散する機体から、狂犬は脱出する。


「また、やろうぜぇ!」


心地よい捨て台詞を吐き、狂犬は地面に落下していく。脱出用のパラシュートが故障で開かない事に気づくのは、これから数秒後の事である…



 「‥‥オイ、コイツは一体、どういうこった?」


目の前で血を流し、倒れるドラゴウィッチを狂犬は呆然と見つめる。自身は全身が折れたみたいになり、頭は血だらけ、足からは白いモノが見えているが、それすら気にならない。


先程、自分が落ちてきた空は1人残って戦うフェアリーハートとそれを囲む

10機ものARMS、それも“カシラ”付きの最新型だ。


呆然とする頭が数分前の出来事を回想していく…


「よくやった。狂犬君。君達のおかげだよ。」


ボロボロのヘッドセットから聞き慣れない声が響く。確か、コイツは組織の出資者の1人、

“フィクサー”とかいう名前で呼ばれる男だ。彼の涼しい声と共に、辺りにいくつもの爆発が起こる。


先程、自分達が飛び出した方角から、大型の銃砲を携えた、カシラ型のARMS達が

姿を現し始めていた。コイツは…


「確か、フィクサーだったな。アンタ…一体どういうこったぃ?」


「簡単な話さ。君達、同人部隊が時間と敵の戦力を削ってくれた。おかげで我々、

アンチ・オータ本隊が敵を殲滅するのにちょうど良いタイミングを作ってくれた訳だ。」


フィクサーが笑うように答える。だが、可笑しい…そもそも…


「あの子達は殺さない決まりだろ?下に転がってるのは気ぃ失って、

能力も使えない奴等だ。この攻撃はっ!?ちと派手すぎやしねぇか?」


「構わないさ。無線に報道、衛生からの撮影も含め、完全に掌握している。

ここで起こっている事は誰にもわからないよ。それに前対戦の主力メンバーの2人が

出張ってきているんだ。捕獲対象も確保できるし、後は用済みだよ。」


ここまで言われれば、おおよその結末はわかってきた。だが、聞かずにはいられない。

逃げる時間を稼ぐ必要もある。


「最初からそれが狙いか?連中の能力とARMSの技術を掛け合わせ、支配者にでも

なろうってか?」


「そんな、昔馴染みの野望など興味がないよ。我々は投資家だ。同業者達と経済を動かし、世界を自由に運営してきた。それが彼女達の子供じみた正義に壊された。

それを元に戻したいだけだよ。無論、彼女達の殲滅など考えていない。


少数を平和の象徴として生かす予定だ。勿論“首輪付きの飼い慣らした子達”をね!


どうだい?本来なら、ここで切り捨てる予定の君達だが、その、ゴキブリ並の生命力には

注目する点もあるにはある。生かしてあげてもいいよ?

戦闘経験も豊富だしね。」


狂犬の言葉に、フィクサーの勘に障る含み笑いが返ってくる。

正直、最初の展開から思っていたが、これで自身の腹は決まった。それも決定手的にだ!


「OK!スポンサー、大変ありがたい申し出に感謝。答えはこれだよ。クソッタレ!」


拳銃を腰から抜き、傍を飛ぶカシラ達に銃弾をぶち込む。効果がないのはわかっている。

だが、従う気なんて毛頭ない。その意思を示したかった。


狂犬の行動にフィクサーが通信機越しにため息をつく。カシラの1機がこちらに

武器を向けると同時に音声が響く。


「全く、君は愚かだよ。この場は頷いて、とりあえず難を逃れるとかは考えないのかい?」


「生憎、降伏と追従、服従の訓練を受けてないんでね。そもそも“同人”なんて

部隊名を許したのも、はなから公式じゃねぇ、使い捨てポジを意識しての事だろ?

だったら、生き残っても旨味はなさそうだ。」


「君は狂犬というよりは、賢く訓練されたウォードッグ(戦犬)のようだな。

いや、しかし…簡単に死を選ぶ辺りがイカレテルという事か?

どっちにしろ、サヨナラだよ。」


「ケツを舐めな?タコ助ぇっ!」


中指を上げ、舌を出す。どうやら、カシラに乗っているのはフィクサー自身のようだ。

銃口が光り、

こちらに攻撃が繰り出される。正直、こんな権力、笠に着まくり腐れ野郎に殺されるのは、かなり腹立つが、仕方ねぇ。足の骨は出てるし、頭はグシャグシャ、


虫の息も色々一歩手前…まぁ、何度も死地をさ迷った自分、いつかは死ぬ。今日がその日…

そう思う自分の視界を形の良いお尻が塞ぎ、敵に言ったつもりが、


自分が誰かのケツを舐めそうになった所で爆発が起こり、気が付けば自分の前に負傷した

ドラゴウィッチが倒れている現実に、否が応でも引き戻った…



血みどろの頭を奮い、思考を整える。コイツはもしかして、自分を庇った?いや、そうだ。庇ったのだ。1人なら容易に防ぎ切れた攻撃をこっちの分まで負担して…


何故?敵だぞ?俺は?畜生、こんなの…


「冗談じゃねぇや…」


抱き起こし、傷の具合を見る。苦しそうに目を閉じたドラゴウィッチが少し呻く。


だいぶヒドイ。大人くらいの体格なら、助かるかもしれない。

しかし、彼女は…


「子供かよ…」


戦いの酔いが一気に醒める。凄まじい力を持っているとはいえ、実際に触れるくらいまで

近づいてみれば、こんな子供…腰の緊急ポーチから、止血具と鎮静剤を抜く。

手早く処置を済ませ、平らな地面に寝かせる。


前から自分は馬鹿だと思っていたが、こんな子供と戦う事に奮起していたとは、

いや、それ納得ずみで戦いを求めていた?絶対違う。断じてそんな事はねぇ。


自答する軍曹の前で負傷したドラゴウィッチがうっすらと目を開けた。少しは治療が効いたか?声をかけてみる。


「目が覚めたかぃ?敵を助けて、自分がくたばりそうな気分はどうだい?ええっ?」


皮肉交じりにでも聞かなきゃ、こっちが折れそうだ。彼女は自分の体を少し見つめた後、

狂犬を見つめ直し、安心したと言った様子で…


「良かった…」


と微笑み、意識を失う。残された狂犬は1人考え、混乱したように痙攣し始める。


良かった?どういう意味だ?生きてて良かったか?彼女自身の事か?それとも、カシラ共がフェアリーハート釘付けで、こっちにいない事が良かった?最後に誰かを救え…いやいや、これはない、ない!ない!


とにかく一体どれだ?それとも…まさか‥‥俺が助かって…いや、いやいやいや、そもそもコイツ等は何だ?敵である自分を助けたり、正しいと思えば何でも殺す“残酷”も平気でこなすし、


鬼みてぇな面をした俺達、糞野郎共と渡り合う事だって出来る。俺達兵隊ですら、

狂いそうな無限に続く戦いを何故、戦う?まさか嘘だろ?信じてる訳じゃないよな?


“正なんとか”とか“誰かのためなんとか”とか?そんなもんを?あーわからねぇ、わからねぇけど、とにかく!とにかく!!


「カッコつけ過ぎなんだよ!馬鹿野郎!!あー、畜生ぉぉ!!

勝てねぇ訳だぜ!こんなに優しい、こんなに眩しい奴等が相手じゃぁよぉ?


目眩がするぜぇ?

あぁ、嫌だ。嫌だね!!頭がどうにかなりそうだぜ?クソッタレェェ!


オイ、今の独り言を聞いてたか?アスクゥゥ!!」


「ハイハイ、こちら、同人2、随分、長い一人演劇、流石に疲れましたぜ?」


無線はさっきからずっと入れていた。速攻の返事に安心しながら、手早く指示を出す。


「これからもっと大変だぞ。部隊全員で、転がっている魔法少女達を救出しろ。

今から、凄惨な殺し合い開幕の時間だ。お嬢ちゃん達は場違いだ。

とっとと視界から消してぇ。それと…


ドラゴウィッチだが、負傷している。すぐの手当が必要だが、動かす時は慎重にな。」


「ハハ、自分で言ってる事可笑しいってわかってます?スポンサー連中、味方に弓を射ると?俺達全員、始末されますよ~?」


「その割には楽しそうだな。アスク。お前の鬼来もよこせよ。片腕一本の俺の機体。

アイツ等を皆殺しにする。」


「敵は最新鋭のカシラ。それも10機。半壊旧式1機じゃぁ、勝ち目ないっすよ?

それでもやるんですか?」


「頭なんてのは飾りだ。偉い奴等はタコだから。それがわからねぇ。加えて、あの柔肌を

蹂躙するのは俺達だ。横取りはさせねぇ!」


狂犬の台詞にアスクが無線ごしで笑い転げる様子が伝わってくる。こちらが怒りと催促を示す前に返答が返ってきた。


「アンタ、本当にイカレテル。全く面白れぇ。地獄まで付き合いますぜ。


ただ、残念!生憎、鬼来には今乗ってません。それについてはジャミングと二佐殿から

説明がありますんで。」


「何ぃっ?一体どういう…」


「ハイハイ、変わりました~、ジャミングです。狂犬生きてますか?今、貴方の鬼来は

こちらが回収して、そちらに無人機で送り届けています。ビックリしますよ~?」


「オイッ、話遮んな!何だ?回収?改修…」


「狂犬、斎藤だ。我々も馬鹿ではない。フィクサー達の考えは薄々読めていた。

こんな展開にいずれなる事もな。対する“準備”もしている。そして、個人的に…


これは我が部隊の総意と思っていたいが、彼女達を殲滅するのではなく、共に歩む道を

模索したいと私は思う。だから、ここで、彼等の好きにさせるつもりは無い。全力で貴様を

支援する。」


「全く、どいつもこいつも…いや、そいつはありがたい。で、どうする?」


「ハイハイ、ジャミングですぅ~、狂犬さんの様子はアスクさんから聞いています。

その状態じゃぁ、機体の操作も難しい。そこでニューバージョンの“鬼来改”の出番です。

これなら、今の狂犬さんに丁度良いと思います。サポートバッチリ!まもなく到着~」


通信が止み、静かになった耳に輸送機の音が響いてくる。音の方向を見た狂犬は

ニヤリと笑った…



 新たに出現した敵の自身に対する包囲が進む。

フェアリーハートはステッキから攻撃を繰り出し、応戦をするが、間に合わない。

ドラゴウィッチは地上に落ちた仲間達を救いに行った。


それまで敵を引きつけておかなくてはならない。諦める訳には、ここで諦める訳には…


不意に敵が構えた腕からロープのようなモノが発射される。素早く避けた

自分に、いくつもの別のそれが襲いかかり、手足を拘束されてしまう。

身動きが取れなくなった彼女に静かな笑い声が通信音声で聞こえてくる。


「フフッ、君が世界救済少女所属のフェアリーハートか。ご同行願おう。

勿論、返事はいい。少し、痺れるが、痛みは一瞬だ。」


ロープの発射先が光りを帯びていく。電撃?思わず閉じた目だが、

数秒経っても、変化はない。それどころか手足の拘束が緩み、自由になる。目を開けた。


「加勢すっぞっ!」


先程倒した敵、最も忌み嫌う男、狂犬が、カシラ付きのARMS“鬼来改”が構えた大剣で

全ての拘束を破壊していた…



 「コイツは良い!なかなか出来る!!」


叫び、操作レバーを動かし、向かってきた3機を瞬く間に撃破した。負傷がヤバくて、

思うように動かぬ体を、カシラに搭載されたAIがカバーしてくれる。後ろから迫った

2機は背面に装備した機銃で蹴散らす。


「これで5機。スゲェな電卓ちゃん。」


「オホメニアズカリコウエイデス!タダ、電卓と一緒にするな、クソ野郎!」


「減らず口もいっちょ前。気に入ったぜ!ハッハァ!!」


まさかのAIからの返答に驚きつつも、

痛み止めを打ちすぎたため、半ばハイの調子で、敵の群れに突撃をかます。

若干の驚きを含んだフィクサーの通信が入る。


「まさか、同人がここまでの装備を用意しているとはな?油断したよ。」


「どうした?金持ち?いつもの調子で笑えよ?

お山のサルが、てっぺんから滑り落ちそうで焦りまくりか?ハッハァ、情けねぇ。

男なら、集団で女、こます事ばっか、考えてねぇで、サシでやる事を考えな。」


「黙れ!」


怒りと共に1機のカシラ付きARMSが指示を出し、残りが狂犬に向かってくる。

大剣を両手に持ち、薙ぎ払うように鋼鉄の機体を壊していく。


1機、2機、3機、4機、後は大将首…4機目に刺した剣を操作する自身に5機目の

機体が巨大な重砲を構えるのが、目に入った。


成程、味方ごとか…つくづくクソッタレときている。馬鹿にしたように笑う狂犬の目の前で、

フィクサーの機体が光に包まれ、爆発した。


「これで、貸し借りなし…って事でいいよね?」


魔法のステッキを構えたフェアリーハートがこちらに訪ねる。

勿論、狂犬に異論はなかった…



 「とりあえず、女の子達の回収は終了。皆無事です。後は引き渡し交渉ですが、

聞いてます?狂犬。」


「聞いている。そっちにフェアリーが向かった。上手く交渉してくれ。」


「了解~!」


通信を切り、少し考える。これで出資者はいなくなり、組織からは除外された。

今の所、部隊全員が納得しているが、アンチ・オータと世界救済少女、両方と戦う日々が

待っていそうだ。


フェアリーハートの可愛らし気な後ろ姿を見る。しばらく考えた後、低く笑いだす。

それはそれでいい。まだまだ楽しめる要素がたくさんある。戦いは大好きだ。

特に彼女達のような存在となら。


「もう少し、あの柔肌と触れていてぇな。」


「狂犬…ソレハ、発言的にドン引きです。録音しましたので、後で法廷に提出します。」


「オイッ!ちょっと待てや!!」


カシラ搭載のAIが目ざとく聞きつけ、警告を発する。これからは機内の独り言も

色々注意をしないとな。まぁ、それもそれで楽しいか…狂犬は再び笑い、機体を次の戦いに向け、一気に発進させた…(終)

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VS ARMS(ブイエス アームス) 低迷アクション @0516001a

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