私の住む世界と、オカルト部
亀井令怨
1-1 彼方がオカルト部へ入るまで
ここは私の箱庭である。なぜならこの世界は私の脳味噌、もっと言うのであれば水槽に浮かんでいるのかは知らないが、何かしらの電気信号を受けとっている私の脳味噌が作り上げた世界でしかないからだ。
貴方は不可思議草という花を知っているだろうか?紀元前よりも大分前の時代に咲いていたとされる花で、その花びらは金色に近い色をしており、乾燥させた根と水銀、水を薬研ですり潰しながら混ぜると、水銀が有している毒性が無くなり、飲めば不老不死になれるお薬を作れるという大層な噂話のあるお花。
……何?知らない?
知らないのか?全く、お前は本当に無知な奴だな。まぁ、良い。知らなくても良いさ、なぜなら知っているはずがないからな。
不可思議とは数字の単位では無量大数の前に座している。つまりはそれほど途方もない、遥か彼方昔のお話だということだよ。
その意味がお前には分かるか?分かるのならばお前は私の仲間だ。指切りげんまんをしよう。しかし、針を飲む約束はしないぞ。縁起でもないからな。
「お前、不可思議草を知っているか?」
「え?不可思議草?何それ、知らなーい」
「お前は本当に無知な奴だな」
「……えー?ナニソレ。ていうか、それって何なの?」
「ふ……秘密」
「ゆくえちゃんが考えたお花のことですよ」
西宮行方。この部を率いている三年生の部長。
おかっぱ頭の髪は絹のようにサラサラしており、太くしっかりとした毛の質は光を浴びるとキラキラと輝く。どこかカラスのような雰囲気もあるオカルト部、部長に相応しい人だ。
口紅とネイルは超真っ赤っかで、人の生き血を啜っている姿が容易に想像できるような、そんな人物。
そんな彼女は窓によりかかり、本を両手でバタンっと閉じながら部室にいる普通の女子高生というような見た目の部員に話しかけた。
その女の子はシャーペンをしていた宿題の上に置き、視線を移してゆくえの目を見ようとする。しかし、二人の目は合わない。
制服姿の彼女たちが他愛もない話をしているのは、県立御刈田高等学校の三階にあるオカルト部の部室だ。誰が持ってきたのかも分からない無数の怪しげな置物と、図書室の一角と思えるほどに大量の本が並んでいる本棚、遮光カーテン、魔方陣、その他諸々オカルチックなあれやこれや。
私、早川彼方はそんな不気味な部屋で、不思議な人たちと一緒に部活動をしていた。その部の名前はシンプルに【オカルト部】。
仮面を付けながら学生生活を送っていた。二年生になるまでずっと周りがいることを意識しながら生きていた。誰かの機嫌を取っているのか、それともそんなつもりは全くないのか、いずれにしても自分という仮面を付けながら人と接していた。
そんな中、とある出来事があって、こんな明らかに変な人しか入らないような部活に入ることになってしまった。それも一つの私の仮面であるのは間違いないが、万人が喜ぶようなそれではない。
波長があったのか。それこそオカルティックな神秘に導かれてここに来たのか。とにかく、私は今まで付けていた仮面を取り替えた。
真ん丸で黒目の面積が広い瞳をしたゆくえ。人形のようにキュルキュルっとしたその目に写っているのはこの世ならざるものだった。
今時のメイクをした、量産型のような印象のあるかなたと、オカルティックなゆくえはオカルト部の部室で見事に重なりあう。
——ポワーンポワンポワーン
□■□■□
二年生に上がってすぐのこと。とある噂がクラスの中で話題になっていた。
教室の真ん中辺りにいた私たちはその噂をより多くの人へと拡散させる。とても大きな声で話していたから。
「知ってる?この学校って幽霊がいるらしいよ?」
「えー!?うそー!?怖いんだけど!」
授業が全て終わった夕方のとある日。私は友達からこの学校の噂を聞いた。
半分閉まったレースのカーテンから夕日が教室へやってくる。もうすぐで逢魔時になろうとするこの時間になると、自然と怪談話にも花が咲く。少なくとも朝よりは夕方の暗くなってきた時間の方が盛り上がる。
友達はイタズラっぽい笑顔でそのことを帰宅するでもない暇な時間の話題に出した。それは、私が怖いものが苦手であるという風に彼女が認識しているからだ。
「怖い?もしかしてかなたってそういうの苦手なタイプ?」
「え?そんなことないし!」
「うそー?顔が怖いって言ってるよぉ?」
「怖くな」
「……わぁ!!」
「ギャー!!」
思いっきり身体を反らせると椅子がガタガタっという音を立てて身体に着いてこようとする。バランスを崩して倒れそうになったそれは私の体重移動で元の位置へ戻った。
そんな私を見た友達はゲラゲラと笑っていたし、仲の良い人と話すために教室に残っていたクラスメイトたちも、教室の中心で起こった騒ぎを認知して楽しそうな雰囲気で私を見たり見なかったりしている。
賑やかな人、そうでない人、感情をあまり表に出さないように笑顔を噛み殺している人、呆れている人、うるさいと思っている人。
私の住む世界と、オカルト部 亀井令怨 @karemerondesu1117
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