GMローブ

翌朝。


「瓦礫でもいけるぞ」

「どんどん放り込め」


昨夜作った訓練施設の、青写真ともいうべき透明な原寸模型に向かって、教会に居る全員が材料を投げ込む。


「よいしょ、えい」


ミネアちゃんも落ちていた大きな石を施設に向かって投げている。


「ミネアちゃん、怪我しないように、無理しないでね」

「大丈夫だよ、ワタルおにいさん。ミネアね、最強の看板娘を目指すの」


ミネアちゃんは父親ヘイジの店が、ハンターの飼っていた従魔によって、壊されるのを見たという。


「ミネア、バーンってやっつけてお店を守るの」

「そっか、でもミネアちゃんが怪我をしたら、ヘイジさんが悲しむからね。ミネアちゃんが戦わなくて良いんだよ」

「そっかぁ、じゃあミネア頑張る」


なんか噛み合わないような?子供の思考はよくわからないな。

程なくして。

ジャキン

何度か聞いた音が響き、建物が完成した。


「で、これはどうやって使う?」

「えーと建物に触れると、職業やスキルの訓練項目が表示されるので、希望する項目を選んで、お金を入れるらしい。ただレベルに応じて訓練にお金と時間がかかるらしい」

「そうか、それじゃあ今日は無理かな」

「そうだな、帰ってきて時間がある者が居たら試す感じで」

「ん?ミネアちゃんどうしたんだい」

「俺たちが話していると、ミネアちゃんが服の中をごそごそして、小さな巾着を引っ張りだした」

「ミネア?」


ヘイジさんの呼びかけにミネアちゃんは。


「ミネア頑張る」


そう言って、巾着から取り出した硬化を、止める間もなく建物に投げ込に、次の瞬間ミネアちゃんの姿は訓練所建物へと吸い込まれて消えた。


「「「「「え」」」」」

「ミネアァァァ」


ヘイジさんが叫んで建物へと詰め寄り中をのぞく。


「吸い込まれたのに姿が見えません。娘は、娘は無事ですか!?」


いや、聞かれても…。


「中の様子は俺にも分からないけど、無茶な選択をしていなければ、危険はないと思う」

「…私も中に入ります」


そう言って、ヘイジも訓練所の中へ消えた。


訓練所は外から見ると窓があるが、そこから見える室内には、ヘイジの姿も無かった。


「行っちまったよ、俺はどうすれば良いのかね」

「トムスはヘイジと一緒に行動する予定だったからな」

「危険が無いなら、いっそこれを使ってみたらどうだ」

「いや、危険がないという確証は無いよ」


訓練所は一度に五人までは入れるようだから、あと三人は入れるけど、万が一の場合もあるから、二人が出てきてからにして欲しい。


「ところで、金を入れていたが、金がかかるのか」

「スキルを取得するための、授業料みたいなものだろうね」

「どれどれ…刀術4で400$短剣術1が100$か、そう高くはないな」


トムスが訓練所に触れて、情報を読み取りつげる。



「俺も一応…俺も短剣術3が300$だ、スキルレベル×100$か?」

「え?俺は剣術1で300$だぞ」

「僕も300$ですね。あ、呪歌3が300$か、こっちは安いから欲しいな」


順にモレス、ベン、エイブラムだが、それぞれ値段が違うようだな。

俺は…あ、全部無料だ。

俺は時間があれば、ここで何でも取得できるわけだ。


「ゴモンは?」

「短剣術が100$で剣術200$斧術は300$だな」

「他に…ペプスは?」

「武器は全部500$ですね」

「高!」


なるほど、おそらくは職業や保有スキルとの関連性で、取得にかかるコストが変わると言ったところか。

それならベンは…。


「ベンは刀術が安くないか」

「刀術?あ、確かに100$だな」

「やっぱりな。職業や所持スキルで、スキルの値段が違うんだよ。でも、最初の取得だけ高くて、後は安くなると思うよ。あとは…」

「なあワタル、俺は測量とかポーションとか、文字が薄くなっていて、金額も表示されてい無いが、これはどういう事だ?」

「リック、人には向き不向きがあるし、時にはどうにも出来ないこともある」

「薄笑いしながらの、そのセリフ。お前、地味に酷いな」


できるだけ沈痛な面持ちを作って、言ったつもりだったが何故か不評なようだ。



「それじゃ、俺たちは出かけるから、後はよろしくな」

「兄さんはちゃんと仕事しなさいよ」

「わかってるよ」



地下通路を通って再びハンターギルドへと向かう。


「先ずは机周りだな、俺も調べるけど鍵付きと罠のありそうなのは残すから、それはゴモンがやってくれ」

「オーケー」


ギルドハウス内は、飲食ブースと事務エリアに分かれていたので、机の中を漁る。

机の中には、何枚かの硬貨があったので、いただいておく。


「そう言えば100$ってどのくらいの価値なんだ」

「100$か、それなら宿屋に二日泊まれるくらいかな。スキルの値段としては高くないだろうけど、俺の食費は一日10$以下だったから、それなりの金額だよ」

「へえ~…あれ?そうなるとミネアは、結構な金額のお金を持っていたって事か」

「そうなるな」


そんな話をしながら、俺はギルドの一番奥にある机を調べる。

罠は無さそうに思えたので、引き出しの取っ手を引ひく。

しかし、引き出しは動く事なく、取っ手だけが外れそこから伸びるワイヤーが目に入った。

そしてどこからかゴゴゴゴと、重い音が聞こえてくる。


「…何かしたか」


ゴモンが俺に問いかけてくる。

やらかしたかもしれないけど、俺の罠感知では何も感じなかったから仕方がないじゃないか。


「悪い、引き出し引いたら、何か連動したっぽい」


音のした場所を調べるために地下へと戻ると、宝箱のあった部屋に新しい出入口が開いていた。


「隠し部屋か」

「何か目新しいものがあればいいな」

「敵の気配は無い…罠もなさそうだ」

「んじゃ中を拝見」


ランタンを掲げて中を覗く。


「更衣室か?」

「流石に隠し部屋で、それは無いんじゃないか」


隠し部屋にあったのは、いくつかのハンガーとそれに掛けられた何着かのローブだった。

ローブに近寄り鑑定する。


鑑定 ローブ


ローブ GMローブ(機能不全)


ゲーム管理者にのみ着用を許されたローブ。

現在進行しているイベントの情報を見ることができる。

機能不全により、GMコール、任意座標指定転移機能は、使用不能。

耐久値劣化。



へえ、GM専用装備か、これは着てみるべきだな。


「すまん、本当に更衣室だった。ただ、特別な服のある更衣室だけどな」


そう言いながら、GMローブに袖を通す。

するとGUIに文字列が浮かび一気に流れた。


…進行中のイベント?

 邪神教?

 町への襲撃?


「…………大変だ!」

「ど、どうした突然⁉」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

終わったゲーム世界で、今日も俺達は生き返る 猫田猫丸 @nekotanekomaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ