探索計画

探索から帰った俺たちは、食堂で互いの探索を報告しあった。

情報共有と言う意味もあって、全員がそろっているが、女性の何人かは食事の準備をしている。まあ、続き部屋なので話は聞こえているだろう。

ジェシカたち別動隊の活躍もあり、武器や衣服を集めることができたが、いまだ俺たちの食糧事情はよくない。肉や多少の野菜はあるが、それももって後1~2日と思われる。

そして今日は朝が芋だけで、昼抜きの上に夕飯は昨夜と同じ、スープと焼肉らしい。


「やるべき事は沢山あると思うけど、近々の問題は…」

「食糧だろうな」

「小麦が欲しいわね」

「そうよね」


リックが食料をあげ、小麦が欲しいと言うリタが言いい、ジェシカが同意する。

俺も麦や米が欲しいのは同感だが、この世界にそうした穀物はあるのだろうか。

勿論リタが小麦について口にしたのだから、当然小麦は|あった(・・・)のだろう。

そう、あくまで、過去形だ。

以前ネットで見たRPGなどには、畑を作って収穫するなどの、暮らしの部分に焦点を当てたゲームがあったけれど、このゲームがそこまでやっているとは思えない。

料理スキルはあるが、原料になる小麦粉が、小麦や麦畑をすっ飛ばして、初めから小麦粉として商店で売られていたなら…。


「小麦畑は…あるよな?」

「麦畑?」

「…麦畑って町の外よね、誰か知っている?」

「俺は見覚え無いな」


皆、首を傾げベンさえも見覚えがないという。


「マリクは何か知らないか?」

「いえ、僕は町中の小さな牧場で働いていましたので、町の外はわかりません」


羊飼いなら外で放牧していたものと思って尋ねたが、予想外の答えが返ってきた。


「牧場が町中に?」


普通は外なのではないか。


「はい町中に…あれ、何で町中にあったのでしょうか」

「牧場と言うからには、それなりの大きさだよなあ」

「いえ、とても…小さいです」


ゲームにありがちな、形だけの牧場か?


「とりあえず牧場の件は後で良いだろ、他に誰か…ゼーリンは何か心当たりないか?」


珍しくリックがまともな意見を言い、ゼーリンへと尋ねる。確かに地図オタクなら知っていても不思議ではないな。


「そうですね…麦畑……あ、もしかしたら」

「心当たりがあるのか」

「はい一応。今にして思えば、麦畑だったのかな?と思う場所に覚えがあります。牧場と同じく、とても小さいですけどね」

「その周辺に麦の貯蔵倉庫があれば…」

「小さい倉庫はありましたね」

「それなら明日、ゼーリンと一緒に誰かそこを、調べに行ってくれないか」

「…僕は……確定?」

「他に場所がわかる人いないから。いいわ、私が付いて行くわ」


ゼーリンは渋ったが、ジェシカが同行を申し出る。同行と言うが実質監督役だな。


「それなら僕は牧場を見に行ってきます」


マリクが予想外の事を言い出し、皆マリクを注目する。


「様子を見てくるだけですよ。手ぶらで行けば、もしもの時でも戻ればいいだけです」


確かに死んでも戻れるが、子供一人で行かせるのは流石に…。


「僕が同行しよう」

「エイブラムが?」

「生き返れたとしても、子供一人でなんて許可できません。武器は扱えないけど、僕には歌がありますから」


呪歌というやつか。


「私も、店の様子を見てきましょう。店に残っている物があれば、持ち帰ります」

「ヘイジさんの店はどちらに?」

「ハンターギルドの先です」

「それならギルドまでは地下を通って、一緒にいきましょう。俺とゴモンはギルドの探索だな」

「俺は誰と同行すればいい?」


リックか、リックは…。


「リックにはやって欲しい事がある」

「やって欲しい事?」

「大工仕事だ、ここで使う大きなテーブルや、足りないベッド。教会の塀の補修に、荷物を運ぶための荷車などを作って欲しい」

「裁縫用の作業台に、縫製用人体(マネキンの様な物)も欲しいわね」

「製図台もお願いします」


俺に続いて服飾組とゼーリンが自分の欲しい物を付け加えた。


「…ようやく、ようやく武器が手に入ったのに…」

「悪いが、しばらくミョルルンハンマーの出番はないな」


その後は残った面子の行動について話す。

ペプス、リンド、リタ、ジーンは、それぞれ専用分野で生産に励んでもらう。

トムスはヘイジと同行する事になり、ミネアは普通にお留守番だ。


そして、ベンだが。


「ステータスの玉に触れてわかったが、俺は神像から森のアンクへ転移できるらしい。何かあっても死に戻りができるなら、俺も森へ行ってひと狩りしてくる。へました時荷物が回収しやすいように、そこだけは注意するよ」


そうして翌日の行動を決めた後は、夕食となった。

その日の晩、俺はベンとゴモンと共に教会の隣地に居た。


「特に怪しい気配はないよ」

「俺も、敵意は感じない」

「二人はそのまま警戒を頼むよ、俺は直ぐには対応できない可能性があるから」

「何を始めるんだ」

「俺にも効果が良く分からないんだが、俺には固有スキルと言うのがあるようなので、試してみようかと思ってね」


俺の固有スキル訓練所作成は、その名の通りなら訓練施設を作るものだろう。

ただ、どうやって作成するのかが分からない。


「とりあえず『訓練所作成』」


俺は魔法と同様に、そのキーワードとなりそうなスキル名を唱えた。


「お?」

「どうした」

「何があった?」


キーワードを唱えたら、俺のGUIに建物が表示された。


「スキルを訓練するための施設を建てられるらしい」

「作れるのは一つなのか」

「いや、建築コストとなる金や建材があれば、いくらでも建てられるようだよ」

「とりあえず一つ作ってみたらどうだ」

「そうだな」


俺はGUIを操作して建物の建築位置を決定する。


「回して位置はここで…決定?」


ジャキン


「これはまた…」

「透明な建物?」

「これに材料を放り込むと建物が完成するらしい。基本は金と木材と石だな」

「よし、入れてみよう」

「瓦礫でも行けるか」

「まてまて、それは明日でいいだろ」

「…そうだな」

「探索前に、朝一でやろう」



その頃の森の奥。


「むう、村の場所がわからん。この方向だと思ったが違うのか?」


導師は森の中で迷っていた。

彼も設定に従って、村を目指していたが、彼には村で暮らした記憶が無かったのだ。

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