神器のような何か

「そうやって、ここに来たらベンさんが人の気配がするからって、ハンターギルドに来てみたわけよ」

「なるほどね」

「だけどそれじゃあ、リックの武器はまだ見つからないのか」

「ああ、まだだ。といっても、このギルドには鍜治場が併設されているから、それを期待してここに来たという面もある」

「今までは縁が無かったが、ハンターが出入りしていただけに、色々期待感もある」


なるほど、それなりに集める物を集め、このギルド建物の探索が、今回の最後にして最大の目玉というわけか。


「短剣は多数あったけど、トムスは何本いる?」

「俺の方でも武器を手に入れたから、予備に一本貰えればいいよ」


そんな話をしていると、リックがすすっと動き、部屋にあった扉へと向かう。


「リック、触んなよ」


リックはびくりと震え、出しかけた手を止め振り返った。


「だ、大丈夫だ、俺もいきなり開けるとかシナイゾ、ホントウダ」


だったら何故後半、片言になった。

そして視線が泳いでいるぞ。


「兄さん…あんまり聞き分けがないと、教会の柱に縛ってお留守番させるわよ」


ジェシカ、君は昭和のお母さんか。


「ゴモン」

「へいへい。ほれリック、退いたどいた。鍵無し罠は無さそう」


ゴモンが開けて中に入る。


「鍜治場だな」

「だけどオープンスペースなのは危険ね」

「あった、ワタルこのハンマーはどうだ?」


ジェシカと話していると、鍜治場付近に置いてあったハンマーピックを、片手で掲げたリックが声を上げた。


ハンマーピックは、片側がハンマーで片側が尖っている武器で、地球でも実在した武器だ。

とは言っても、リックが手にしたそれは、どう見ても実在したハンマーピックではなく、ファンタジー武器のハンマーピックだった。

なんせ、ハンマーの頭がバスケットボールより大きな鉄の塊で、それに鉄の柄が付いた1メートル程の物だからな。どう考えてもあんなものが持ち上がるはずがない。


「凄いな、重くないのか」

「軽くは無いが、不思議な事に持ち上がるぞ」

「鎚術スキルの影響か?」

「それはあるかも。私も槍を持っていたら、何だか体が軽いし」


ジェシカの槍は柄を短くした物なので、ショートスピアとしても短めではあるが、素手でより槍を持った方が、体が軽いというのは普通では無いから、それも刺突スキルの影響という事だろうか。


「あ、そうそう、私、槍術スキル取れたわ」

「「「「え」」」」

「体が軽くなったのは、槍術を得た後?」

「それは槍術の前からね」


ならやっぱり刺突だけでも、少し影響があるのかな。

なら、俺自身はどうだろう…。

俺、ぶっちゃけ足は遅い方だったから、それを考えると今はだいぶ早くなっている気がするな。


「うんうん、これは何だか良いぞ」


俺が思案にふけっていると、リックがハンマーピックを素振りしながら、何やら不穏な言葉をつぶやきながら、顔をにやつかせていた。

俺の胸に嫌な予感がすぎる。


「うおおおおお」

「お、おいいいい」


案の定、リックが走って外に飛び出した。

俺たちは慌ててリックを追いかける。

リックはハンマーピックを振り上げ、それを道向こうの瓦礫に打ち付けた。


ジャキン!!!


そんな音を立てて、瓦礫が少し形を変えた。


「あれ?」


リックは『何か思っていたのと違う』と言った顔で首を捻っている。


ジェシカがリックに駆け寄り。


「こんっのバカ兄貴が!」


そう言って、ジェシカは槍でリックの頭を殴りつけた。



「それで、あれはどういう事」


ジェシカはリックが殴りつけた瓦礫だったものを指さし、正座したリックに問うた。

ジェシカは穂先ではなく、柄の部分でリックを殴りつけていたためか、ギリ即死ではなかったから、俺が少しだけ回復してやった。

リックは地面に正座し、皆の視線を一身に受けながらお説教タイムだ。


「えーと、ハンマーを握って瓦礫を見たら、無性に殴りたくなった」


お前は『ハンマーを持つ人にはすべてが釘に見える』(Abraham Harold Maslow, 1908–1970の言葉)を地で行っているのか。


「そうじゃ無くて、俺たちが知りたいのは、ハンマーで殴った瓦礫が、何で建物に戻って、全壊した建物が何故半壊になったかについてだ」


そう、リックが殴ったら、妙な音を立てて、建物の一部が直ったのだ。


「知らん。しいて言うなら俺の大工魂がなせる業か?」

「そんなわけあるか」


……鑑定 ハンマーピック

ハンマーピック  ミョルルンハンマー

第五回 大工王決定戦の優勝者に送られた賞品。ミョルニル的な武器。 

武器としても使えるが、所有者は一日に一度、町の建物を、叩きたい衝動に駆られる。

壊れていた場合、叩くと少し直るが、使用するとガード兵の攻撃対象となる。

壊れても自動修復する。


「ぶふっ! リック、その武器はある意味超レアだ。ちょっと問題はあったが、今なら便利なだけで問題は無い」


俺はミョルルンハンマーの説明をしてやる。


「つまり、本来はそれを町中で振るうと、ガード兵に殺されるのか?」

「そうだな、そしてそれは、さっきのリックのように、発作的にやりたくなる」

「これを作った奴と、その大会の主催者、どっちがオカシイ奴なんだ」

「たぶん両方だ」


ネタにしても酷い…。

だが、ガード兵が居なくなった今なら、普通に武器として使えるし、町の修復もできて、悪くない武器だ。


「ま、今日のところは帰ろうぜ、目一杯仕事して俺は疲れた」

「そうだな、俺も何だか異様に気疲れしたからもう帰ろう」


一日中罠を調べていたゴモンは相当お疲れの様子だし、俺ももうぐったりだ。


「それでは、地下から戻ろうか、その方が安全だし近道だ」


俺たちは全員で地下通路を通って帰ることにした。

途中、照明を消し忘れていた事に気が付き、俺の疲れの原因がこれと判明した。

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