武器屋探索組の冒険

別行動組の話のため、航以外の視点になっています。


「それじゃあ、先ずは武器屋ね、兄さん何処に武器屋があるの」

「二本先の辻を曲がったところに、ハモナー武器店があったはずだ」

「あそこは刃物専門ではなかったか」

「え、そうなのか」

「まあ、とりあえず行ってみようや」


俺たちはベンの感覚を頼りに、敵に合わないよう慎重に町中を歩いた。


「止まれ、何かいる」


ベンが小声で制止の声を上げる。俺には全く分からないが、ベンは近くに居る生き物の存在がわかるらしい。


「どこだ」

「左ての三軒先、赤い屋根の建物付近だ」

「そこって、ハモナー武器店じゃないか、ハモナーは生きていたのか」

「それはどうかしら?ワタルさんは私を助けた時、教会の鐘を打ち鳴らしているもの。この距離なら地下室に居たってわかりそうなものよね」


む、妹よ、正論ではあるが、兄の意見をそう容易く潰さないで欲しいな。俺だって、所謂希望的観測ってやつを口にしたまでで、本気で生きているとは思ってないぞ。



「いや、この感じは…ゴブリンだろうな。数は三、俺の感知では他の生き物は感じられない」

「倒しましょう。私とベンさんが各一匹、兄さんとモレスさんで一匹を相手して」

「…男の矜持としては了承しかねるが、俺たちは武器がない。ここは素直に従おう」

「お、おう」


男の矜持とかいう割に、モレスは素直にジェシカに従った。

もしかして、こいつジェシカに気があるのか。


四人でそっと近寄り、ゴブリンの所在を確認すると。


「あいつら武器を物色してやがる」

「満足に扱えるとは思えないけど、二人は無理しないでね」


「俺が気を引くから、モレスは先ず武器を拾ってくれ」

「そうだな、短剣ならいくらでもありそうだ。だが、無理はするなよ」


…俺はどれだけ無謀だと思われているんだ。


「俺が、一匹射抜くから後は任せるぞ」


ベンが矢をつがえ、刃物を片手にわいわいキャッキャしているゴブリンの一匹を撃つ。

矢は狙い通りかどうか知らないが、ゴブリン一匹の頭に突き刺さり、ゴブリンが倒れた。


残る二匹は事態が呑み込めず、棒立ちになっている、今がチャンスだ。


「うおおおお」

「兄さん!?」

「おめえ話聞いていたのか!」


あれ、後ろから非難の声が上がっているぞ…あ、俺武器がないんだった。


「もう、だからさっき言ったでしょ!」


おお、俺が速度を落とすか迷うまでもなく、ジェシカが俺を追い抜いて走って行った。

妹よ、雄々しくなったな。兄ちゃんなんだか寂しいぞ。


「煩い」



「どうしたジェシカ嬢」

「あほ兄に文句言っただけよ、気にしないで」


妹よ、いつの間に兄の心が読めるようになった!

そして、モレスもジェシカの後を追って俺を追い抜いていく。


俺が現場にたどり着くころには、ジェシカは既に一匹倒し終えて、モレスが最後の一匹と戦っていた。

俺、最初に走り出したんだけど、最後になるとか足遅すぎじゃないか。


「うん、俺の武器はこの短剣で良いが、これ用の鞘はどれかな」


ゴブリンを倒したモレスは、拾った短剣の鞘を探して店内を物色し始めた。

なんだ、モレスも案外自由じゃないか。


「敵はいないと思うが、警戒は怠るなよ」


戦いが終わってもベンは気を抜いていない様だな、うん頼りになるぜ。

ベンとジェシカがゴブリンを解体する間に、武器を集める。


「やっぱりハンマーは無いか」


半壊した建物内を隈なく探したが、刃物以外の武器は無かった。

まあ、刃物の方が武器としては一般的だから、持ち帰れば有効活用はできるのだろうな。


「この武器は一先ず教会に持っていきましょう。他にも探す物があるから、兄さんの武器はその時にね」


俺たちは武器を教会に届け、続けて他の物を探しに行くらしい。


「他には何を探すんだ」

「道具屋で探索に便利なものと、服屋で服か布を探したいの」

「俺も矢の補充をしたい」

「他にも防具かその素材だな」


なるほど、確かにどれも重要だな。


「そうなると、商店の密集している所…ハンターギルドの周辺か」

「そうね、少し距離があるけど、そこに行くのが確実ね」


ハンターギルドの周辺にはハンター相手の店が多い。

以前、俺が家を建ててやったハンターが、仲間たちとギルド周辺の店の話をしていたと、おぼろげに記憶している。ま、その家を建ててやったハンターたちは、自宅に鍜治場や他の施設を作って、武器防具さえも自宅で自作すると言っていたがな。


その後は、道具屋で布袋やロープ、松明などの他、俺自身が使うものなどもあって、それらの全てを持ち出した。

幸いにも、道具屋には一つだけだったが、収納バッグがあったので、重量物やかさ張る物をそれに入れることができた。

服屋では、ジェシカの奴が少々暴走したが、ここも残っていた衣類を全て持ち出すことにした。


「これは俺が持つのか」

「兄さんは武器がないでしょ」

「それを背負って、後方待機だ。大事な事だからもう一度言うぞ、いいな後方待機だ」


むう…。

衣類や布を、風呂敷という大きな布で包み、それを俺が背負うことになった。

初めに『武器が無ければ荷物持ち』と言われて承諾した手前、文句も言えずに俺は大きな風呂敷を背負った。

まあ、他の者も縄で縛った矢やら何やらを持っているので、俺だけが荷物持ちをしているわけではないが、絵面的には一人だけ何か違うのが気にはなった。

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