地上へ

こういう罠には毒霧が出る物もあると思うけど、幸い俺たちは死んでも生き返れるから、持ち物がだめになるような罠以外は、それほど脅威にならないのは助かる。


「…何だこれ」

「卵と小さい神像か?」


卵は結構大きく、ラグビーボールぐらいあり、神像は教会にある神像の小型版で50センチほどだな。

卵は二つあり、神像はひとつだ。

ま、鑑定するのが無難だな。


卵   ラプータの卵

神像  簡易神像 非破壊付与 転移ポイント設定可


「卵はラプータの卵で、神像は教会にある神像の簡易型らしい」

「ラプータは、ハンターが騎獣として連れていた獣だな」

「へえ、それじゃあこれはマリクに渡すか」

「そうだな」

「それじゃ、ひとまずこの大きなカバンに、二つの中身を入れて持ち帰るか」


大きいといっても、外見は俺のバッグとほとんど同じなんだけどね。


「箱ごと全部まとめて入るか?」

「いや、無理らしい」

「じゃあ、こっちの大容量バッグに入れていくか」


四人で、せっせと移し替える…が。


「あ、卵が入らない…両方駄目だな」

「生物だからですかね?」

「それはあり得る」

「ひとまず箱に戻して、帰りに持ち帰るか」

「そうだな…あれ、箱にも入らないぞ」

「中身を全部出すと、戻せないのか?」

「いや、他のアイテムは入るぞ」

「ちょっと待って、もう一度鑑定する…あ」

「どうした」

「どうしました」

「中身出したら、表示が宝箱から収納箱に変わった。これ、形は違うけど魔法のバッグと同じだ。しかも容量が50品目もある」

「つまり、これ自体にも価値があるということか」

「でしたら、僕が誰か呼んできて、卵と箱を持ち帰りますよ。皆さんは探索を続けてください」

「良いのか」

「新しい場所は、後で確認しますので、構いません。戦闘は苦手ですしね」

「なら、そっちの部屋に置いておくから後は頼む」


錬金部屋にアイテムを移動して、扉を閉める。これで知的生物意外は入れないはずだ。

ゼーリンと別れた俺たちは、対面の扉へと進む。


「鍵無し罠無し、問『ガウ‼』題あり…」

「何かいるな」

「狼のような鳴き声だったな」

「扉は押し開く向きだから、こちら側に何枚か盾を構えて迎撃するか、引き戸でなければ一気に押し込まれるようなことは無いだろう」

「エンチャントは?」

「光球を2回とエンチャント3回使ったし、光球の維持コストもあるから、今回は無しで」

「魔法に頼りすぎるのも、問題か」

「魔力が尽きると、俺は気絶するからな。一応さっきの宝箱にあった雷の杖をゴモンに渡しておくよ」

「すまない」


魔力は数値化されていないし、ゲージ的なものも無いし、呪文の長さで魔力の量が変動するから、何を何回使えるって、はっきりしないからな。これはもう使いながら感覚で覚えるしかないのだろうな。

この部屋に入ってきた時と同様に、三人それぞれ位置につく。

今回はトムスも盾を装備した。


「開けるぞ」


ゴモンが少しだけ扉を開く、するとその隙間に割り込むように、黒い狼の頭が突き出てきた。


「グルルル、ガウ、ガウガウ」

「ゴモン!」

「大丈夫だ、押し扉だから無理やり割り込もうとしているこいつ自身の体が、扉を閉めるようにしてくれている」

「よし、そのまま扉を押さえていてくれ。トムス、こいつの口を狙えるか」

「任せてくれ」

「よし、トムスが口を突いたら俺が飛びだして殴る。ゴモンはタイミングを合わせて手を放してくれ」


作戦は明確に。

そして、声掛けは大事。

特に俺たちの様な急造パーティーでは、意思の疎通を心掛けないとな。


「わかった!」

「トムス、刺すときは掛け声を頼む」

「よ、よし三カウント後に刺すようにする。いち、に、さん、おりゃー」

「ギャン!」


狼が一声上げて、扉の奥へ消える。


「出る!」


俺は叫んで扉を押し開け、前に出る。

そこには、上階へと上がる階段があり、その階段で黒い狼が悶え狂っていたが、周囲には他の敵はいなそうだ。


「おりゃあ」

「ギャヒン」


狼の辺り頭を殴りつけると、悲鳴が上がったが、少し浅い。


「敵の数は!」

「こいつだけ。ゴモン索敵を頼む」


後ろからトムスの声がかかり、ゴモンに索敵を頼む。

トムスには悪いが、ゴモンは索敵3を持っているからな。


「近くに他の敵が居る気配はない!」

「了解」

「俺も出る右に行くぞ」

「はいよ」


メイスと盾で、暴れる狼を押さえていると、部屋から出てきたトムスが、狼の背を切りつけ、それが決定打となった。


「ふう」

「お疲れ」

「先に上を確認してくる」


俺とトムスが一息つき、戦闘には参加していなかったゴモンが、先に上の確認をすると言って階段を上がる。ベンの感知とは違うが、ゴモンの索敵も斥候向きのスキルだし忍び足もあるから、単独でも危険は少ないだろうな。


「大丈夫だ、上がってきてくれ」


呼ばれて階段を上がると、そこはそれなりに大きな建物の中だった。


「ここは確かにハンターギルドのようだな、あの入り口の扉には見覚えがある」


ゴモンが親指でクイッと指し示した方向を見れば、両開きの特徴的なスイングドアが見えた。


『あれって、西部劇に出てくる扉だよな、ここは中世ヨーロッパ風の世界ではなかったのか?』


「ん?何か言ったか」

「あ、いや、変わった扉だと思っただけなんだけど、ちょっと声に出ていたかな」

「なんだ、そうか。確かにあのド扉はここでしか見ないな」

「あれだろ、ハンターギルドは一晩中休まずやっているから、戸閉をする必要がないとか、ギルドには常に戦える奴らがいるから、防犯の心配もないからとか聞いたぞ」

「正直いって、騒がしかったから扉はちゃんとしたのを、つけて欲しかったけどな」


なるほど、そういう理由か。

そして、あの扉では魔物が自由に出入りできるよな。


「とりあえず、何かで入り口を塞いでおくか?」

「そうだな、一応敵の気配は無いが…ん?ちょっとまて何か来る」


そして間もなく、その何者かの正体が判明する。


「ねえ、本当にワタル達が居るの?」

「この気配は間違いないよ」

「あいつら、地下を調べていたんだろ、この近くに出口があったのか」

「少し荷物を少し持ってもらえると助かるな」


「どうやら、ジェシカたちが来たみたいだな」

「声の様子だと、向こうも元気なようだな」

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