主人公の距離感が優れた作品
- ★★★ Excellent!!!
台風の日に河川敷で弱った子狸を見つけた人間達がどうにか保護しようとする話。
全く手をかさない主人公の立ち位置がこの話の良さを引き出している。都会の緑の中で暮らす野生の生き物は物理的な距離で言えばとても近いのだけど、子供が目を輝かせるくらいには遠い存在。
かたや次々人を呼んで道具を使って助けようとする親子とかたや何もせずにただ悲劇を目撃して腹が減ったからと帰る主人公の距離感がよい。どちらが正しいのか?という読みができておもしろい作品。
単純に「母子が助けようして助けられなかった」という筋の話だと少し説教臭くてかつ重たくなる。”自然や野生との共生”みたいなテーマの話って殆どがそうで、真剣になってしまってある意味でつまらない。この話は野生との関係をただ距離をとることでおもしろくしている。
さらには狸と人だけでなく親子と主人公との距離感を合わせて考えると人間同士の関わりについても感じ取ることができる。おせっかいや何もしない良さとか。
とにかく出来事との距離感の工夫から色々な読みが膨らむおもしろい作品です。