第3話 ジェットコースターと観覧車

「えー、龍くん。中学生なのにグリーンピースも食べれないんですか?」


「このガキ絶対やっつける」


「僕より大人なんでしょ? 僕はグリーンピース食べれますよ?」


「うるさい、食えばいいんだろ?」

 あぁ、険悪。すごく仲が悪い。神さまこの状況も試練なのですね。


「ほ、ほら。私もグリーンピース食べられないよ?」


「ほら見ろ。俺より大人の桜庭も食えないって」

 龍くん、元気を取り戻した。可愛い。


「美玖お姉ちゃんは僕が許すからいいんです」

 優成くんは隣に座った私の手を握った。え、これ結婚出来ちゃうの?


 でもここは歳上の私がしっかりしなきゃ。なぜか対面に座った龍くんが震える手で握ったスプーングリーンピースをすくった。


「ダメだよ。無理はダメ」


「やっぱ桜庭よりダメなんて嫌だ。絶対に嫌だ、ん」

 口に入れて飲み込んだ。

「お、美味しい」

 無理してるのに笑顔で取り繕うの可愛い。


 ぽぽぽもん戦隊あががレンジャーは大盛況だった。連休の最後の方なので、当然と言えば当然だった。


「ぽぽぽもん戦隊あががレンジャー大好きなんです。レッドよりブラック派です」

 レッドじゃないんだ、てかブラックて何?



「知ってるか? 桜庭。ぽぽぽもん戦隊あががレンジャーってのは宇宙生物ぽぽぽもんが地球侵略に地球に来たんだけど、少女を襲おうとしたぽぽぽもんのうち一体が『こんなのダメだ。間違ってる』って言って、上司ぽぽぽもんに造反したのな。そういうことがあって、集まったぽぽぽもんの五人があががレンジャーなんだ」


「さぁ、優成くん。もうすぐ始まるよ」


「ブラック頑張れ!」

 龍の作品紹介は大きなお友達(ご両親)に人気だったが、桜庭は優成くんのキラキラした目に夢中。




「いやもう夕方だよ。ちゃんと遊んだね」

 ジェットコースターの下りは省略した。ざっと言えば。


 桜庭は、登りは「左手は後ろの龍くん右横は優成くん。私はどうにかなりそう」と思っていたが、下りで失神してゴールまでよく覚えていないのだ。気づけば係員に囲まれ、「たまにこういうことあるんで大丈夫ですよ」とよく分からないフォローをされて赤面したまでが一通りである。


 龍は、

「ったく、ちゃんと手を握っとけって言ったのに離すからこうなるんだよ」


 優成は、

「ごめんね、お姉ちゃん。僕がしっかりしてないから、お水持って来たよ」


「え、自販機から買ってきてくれたの?」


「お姉ちゃんが寝てる間に龍くんが買ってきたの」

 お姉さんは感動したよ。昼間はあんなに険悪だったのに、仲良くなってるよ。



 というわけで、もう夕方だし観覧車に乗ろうとしたのだが。



「身長制限か」

 優成くんは大人の人と一緒じゃないと乗れない。でも観覧車は原則二人乗り、龍くん独りぼっちになっちゃう。



「いいよ。こいつここに来たかったんだろ? 譲ってあげる」

 龍くんは頼りがいのある男の子で大助かりだよ。でもはみだし子はいけない。


「じゃぁ、優成くんは私のお膝の上で龍くんは正面に座ったらいいよね」

 観覧車に乗ってる間、優成くんはきゃっきゃと喜び、龍くんは視線が合わなかった。恥ずかしかったのかな? 中学生になって観覧車は……。





「遊んだね」


「うんそだね」

 優成くんは寝落ち、電車の中は人がいっぱいだったけど、サラリーマンが私に席を譲ってくれた。膝の上に優成くんを固定し、立っている龍くんは眠そうだった。



「今度はみんなで行こうね」


「みんなって?」


「ケロちゃん」


「誰、それ」


「また紹介してあげる」


「ふぅーん」

 会話終了。疲れているし、こんなもんか。



「今度はさ、二人で行きたいんだけど」


「優成くんと?」


「ばか、ちげぇよ……、さくらば、と」


「え、私?」

 え、ここでデレるの? ヤバいよ、にやけちゃう、疲れてるから自制が利かない。



「今回は優成がいたから、行きたいとこ行けなかったし、今度はちゃんと遊びたいなって」


「龍くん。それってデート宣言」


「ん、え、ちがっ、デートなんて行きたくねーし、でも」


「でも?」

 ここはにやけてもいいだろう。



「今日は楽しかった、な」


「うん、楽しかったね龍くん」

 もしかして観覧車の時も視線合わなかったのって……。

 可愛い龍くんで眼福眼福。


「また行こうね」





「はい、桜庭。妄想乙」

 週明けケロちゃんはお弁当をつつきながら、詳細を聞いてきた。「優成楽しかったって言ってたよ」と言われて、すごくごちそうさまでした。


「妄想じゃないもん」


「その龍って子気になるな」

 ケロちゃん、私の龍くん盗らないでね。


「可愛い子だよ」


「美玖のものじゃないだろ?」

 心を読まれた。すごい。



 完

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桜庭美玖の悩み ハナビシトモエ @sikasann

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