>Ⅶ
結局は、あたしは冷たいベッドで眠ることに決める。
温度の上がりすぎた水の中じゃ生きられない、魚みたいに。
本当なら、望む温度はあるんだよ。けど、そんなものは、今のあたしには手に入らない。
夢は夢のままで。
泡沫のように消えていくだけ。
深夜0時。
もう、それぞれの時間だろうけど、少しでもあたしを欲していてくれているならって思って、ついメッセージアプリを開くのは、真っ暗な寝室のベッドの上の隅に、横向きに空白を向いているあたしの指先。
目が真っ赤なのも承知している。
この時間に祐巳にメッセージしても、届かないのも知っている。
嫉妬なんかない。
そんな権利を得られるほどの、恋なんてしてない。
だからいい。
けど、これだけは。
0分前
唯花
“ねぇ、近いうち、なるべく早く、会えないかな”
向こうがそのメッセージを確認した通知は来ない。
一時間待っても、二時間待っても。
あたしはその間ずっとその画面を見ていた。
いい加減、自分が気持ち悪くなって、起き上がる。
ワインがあった。そうだ。もう飲んで寝てしまえば。怠惰に過ごしても誰にも怒られない朝が来る。もしくは、山南さんに付き合って出社してもいいけど。
のっそりと起き上がる。
ドライヤーで乾かしたはずの髪が、明らかに寝癖を作っている感覚を頭皮に伝えてくる。
眠くない。
ベッドを降りて、キッチンに向かう。照明なんて灯っていなくても、歩ける自分の部屋。
全然眠くない。
そのままで、キッチンに進む。
ただ、愛しいだけなのに。
初めてこの部屋に来た夜、そうしたように、あたしの衣服を、少し乱暴に剥ぎ取って欲しかった。
その力と熱に、やられてしまいたい。
誰でもいい、って思いたかったけど、やっぱりそれは柊哉だけだった。
冷蔵庫のワインに辿り着いたあたしは、適当なコップを食器棚から見繕ってそそぎ、一口つけた。
ぐわ、フラッシュバックした。
失敗した。あたしは失敗した。
今このワインは、飲んじゃいけなかったのだ。
これは昨日、柊哉とこの部屋で食事した時のものだ。
失敗した。
くそう。
もういいや。
そう思って二杯目を煽るようにして飲んで、そこからゆっくり記憶が曖昧になった。
キッチンの床に座って、ぼーっとしていた。
眠くない。全然眠くない。
あたしを眠らせてくれる熱は、どこかに去ってしまった。
ふと思い出して、空になったグラスもワインボトルも放り出して、ベッドに駆け込むように飛び込む。
スマホの画面をつけてみた。
午前、5時前。
通知は、何もなかった。
きっと当たり前なのだ。これが。
諦めて、毛布を思い切り頭まで被る。
誰もいない。
誰もいないけど、その嗚咽は、きっと世界に存在してはいけないものだから、かき消さないといけないのだ。
涙があたしの熱も体力も奪って、ゆっくりと、闇に堕ちていく。
夢は見なかった。
気づけば日が昇ってしばらく経っている。
今朝と同じようにスマホで時間を確認すると、午前10時を回っていた。
通知は、それでも、やっぱりDMばかり。
諦めに満ちた心地で、アプリを開いてみると、メッセージは開封済みになっていた。
その瞬間。
0分前
柊哉
“昨日は電話できなくてごめん。会社の飲み会が、朝までだったんだ。もし君さえよかったら、今夜とか、どうかな?”
嘘つき。
知ってるんだから。
今までで一番、自分らしい格好をして、今夜会うことに決めた。
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#Functionyou;DIVer -"Pieces".
#Functionyou;diVe-"Pieces" 唯月希 @yuduki_starcage000
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