第36話 影井の3つ目の話
押し黙ってしまった冷治に代わって、菅原涼が口を開いた。
「三つめはなんですか?」
「ああ、それは当面後回しにしてもいいことなんですが、お二人の近辺に最低もう一人能力者がいるということです。昨日、能力者の数について話したのは覚えていますか?」
確か五万人から十万人に一人と言っていた気がする。
「五万人に一人が、親しい友人同士の中に三人いるなんておかしいですよね」
「確かに、そうですね……」
けれども、三人どころかもっと多くの能力者が狭い範囲に現れた例は他にもあるらしい。
「治癒や、あるいは毒といった他人の生体に直接影響する類の能力を受けると能力に発現する確率が飛躍的に上がるようなんです」
だから、少なくとももう一人。
その一人が他にも能力者を生み出していればさらに増える。
誰かはわからないが、確かに当面気にすることではなさそうな話だ。
少なくとも敵でも味方でもないのは間違いないだろう。
冷治はそれよりも気になっていたことを聞こうと思った。
「……あと2つ質問があります。1つは、影井さんが昨日誰と戦っていたかです」
「ウインドカッター――桐原切人。彼の存在もあなたがたに関わらないで欲しい理由の1つですね。力の発動を楽しんでいる、戦闘慣れした厄介な犯罪者です」
詳細な過去は不明。ただ、殺人をいとわぬ危険人物だということはわかっている。
空気を操り、切断する力を持つ。シンプルで攻撃的な力の持ち主だ。
(……そんな奴がいるところに、紫村はいるのか)
冷治は眉をしかめつつ、もう1つ気になっていることを影井に聞く。
「無事に『破壊者』から取り戻せたとして、紫村はどうなるんでしょうか?」
「施設に入っていただくことになると思います。危険な能力をうまく制御できるようにするための訓練施設です。人体実験などに利用されることはありません」
「『恵まれし子らの学園』みたいな感じですか?」
菅原涼が質問したその学校のことを冷治は知らなかった。たぶん、海外のドラマか映画に出てくる施設なのだろう。
「そうですね。オーバーテクノロジーによるすごい設備はありませんが」
ただ、影井のほうは知っていたようだ。
「わかりました。それと……影井さんも銃を持っているんですか?」
「持っています」
「紫村を、撃つんでしょうか?」
「必要なら。しかし、そうならないように努力します」
「撃たないと……約束してもらえませんか?」
影井は冷治の目をじっと見つめてきた。
その目から目をそらすまいと、しっかり見返す。
「私はあなた方に対して真摯でありたいと考えています。だからこそお答えします。約束は、できません」
「わかりました。それで、構いません」
むしろ、影井がここで安易に約束すると答える相手なら信用すべきではない。
約束できないとはっきり言ったからこそ、彼女が本当に努力するつもりなのだと、冷治は信じることができた。
流星の呪い~飛行少女と優しくない少年の物語 青葉桂都 @mahoro_vesper_86400
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