第35話 影井の2つ目の話

「理由は、語るべきことの二つ目と関わっています」

 影井は言葉を続けた。

「明後日の、日曜の正午。街の中心部にある電波塔で事件が発生し、大きな火災が起こります」

 加我がスマートフォンを取り出して、一枚の画像を見せた。

 画像には絵が映っていた。

 公園に立つ電波塔からおびただしい炎が飛び散って、周囲のビルを焼く絵だ。

「これは、私どもの仲間にいる予知能力者が、自分の見たヴィジョンを絵にしたものです」

 だからこそ影井と長谷部、加我をはじめとする人々がこの街に派遣されてきた。

 昨日言っていた本当の目的というのは、これのことだったのだろう。

「炎を使う能力者が関わっているのは明らかです。紫村赤音さんの能力によるものなのは間違いないでしょう」

「あいつの力は、こんなに大きな炎を出せるんですか?」

 昨夜と、その前の夜のことを冷治は思い出した。

 特に昨日はかなり派手な炎を出していたが……しかし、複数の建物を一気に焼くほどではなかったはずだ。

「予知されている以上はできる……と考えるしかないでしょう。もちろん、他の誰かの能力と相乗効果が発生した結果という可能性はあります。敵が陶野さんだけとは限りません」

「だったら、絶対に止めないと」

 冷治は思わず身を乗り出した。

「ええ。私が、必ず、止めます」

「すまん……影井だけに全部任せることになってしまって。だが、他のメンバーで能力者と戦えるような戦闘経験者はいないからな」

 力のこもった彼女の言葉に、加我が申し訳なさそうな顔をした。

「俺も手伝います。役に立てるかわかりませんけど……」

「冷治くんがやるなら私だって手伝いますよ」

 申し出た二人を見て、影井は首を横に振った。

「いえ、あなた方は来ないでください。推測ですが、紫村さんの能力発動のキーは、なんらかの感情によるものです」

「なんらかの感情?」

「怒りとか、嫉妬とか……長谷部からの情報によると、紫村さんは青山さんや菅原さんの姿を見て力を発生させたそうですね。つまり、あなた方の存在は鍵となる感情を誘発させます」

 確かに、思い返すと紫村の嫉妬が炎を起こすきっかけになっているのは間違いない。

 いや、昨日と一昨日、二日間だけの話ではない。

 菅原涼が飛行能力を得てからは特にだが、冷治と彼女はあけっぴろげに交際している。違うクラスではあれど、気にかけていれば嫉妬する類の話には事欠くまい。

(嫉妬心を必死に抑えて……それが、抑えきれなくなったとき、火事が起こってたんだ)

 間接的には、これまでの被害は全部冷治のせいと言ってもいい。

 それでもついて行くと、冷治は言えなかった。

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