第34話 影井の1つ目の話

 飲み物を買ってから、病院の中庭にあるベンチで影井は話し始めた。

 休憩室もほとんど利用者はいなかったが、ナースセンターの目の前なので避けたらしい。

 下手に聞かれると、心療内科の治療まで受けさせられそうだからと彼女は言った。

「まず一つ目が『破壊者』についてです。彼らは、私やあなた方と同じく能力を持った者の集団です。目的は私たちハルモニアとは逆ですが」

 缶コーヒーを開けながら影井は語り始めた。

「彼らは能力について積極的に公開すべきだと考えています。『流星のギフト』によって変わる世界に、既存の世界を持ちこそうとすべきではないと」

 馬鹿かと冷治は言いそうになった。

 菅原涼は口に出した。

「能力を用いたデモンストレーションを行うのが当面の主とした活動になります。……その中には犯罪行為が多分に含まれます」

 缶を握る影井の白い指に、少し力が入った。

「あくまで超常の力を見せつけるためと称していますが、実際所属するメンバーの大半は単なる犯罪者です。徒党を組んで、好き勝手に暴れたいだけの人間です」

 そのくせ自分たちは選ばれた人間だとか言っているのだろう。

 よくいる手合いだが、実際に力を持っているのが厄介だ。

 所属している能力者は数十人。ハルモニア側の人数も同じようなものらしいが。

 一般人の支援者がいるのもハルモニアと同様だ。ただ、政府の職員であるハルモニアのメンバーと違い、彼らは特別な力が欲しい三下に過ぎない。その分数は多いそうだが……。

「陶野さんは恋人を失ってから彼らの仲間になったようです。目的は私達への復讐でしょう」

 長谷部から聞いた陶野とその恋人についての話は、すでに菅原涼にも伝えてある。

 同情すべき人物なのだろうが、それで人に迷惑をかけていいことにはならない。

「ただ、今回は恋人と似た能力を持つ紫村さんを味方に引き込むために来たものと推測されます。私たちも……陶野さんの事件のことがあって志願したので、偶然とは言えませんね」

「紫村はどこかに連れ去られたんですか? そいつらの……アジトみたいなところに」

「違います。おそらくは、まだこの街にいます」

 はっきりと影井がそう答えたので、冷治は少し驚いた。

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