爺の脳内異世界設定なんてどうだっていいんです
「ドラスドン金貨というのはだな……」
「いや、そんな語りはいらん」
「えー! ワシの国の話くらいさせてくれたっていいだろうに…」
さっき脳内英雄譚を延々と聞かされたから、もういらん。
「問題なのは、ドラ……なんとかいうのではなくて、賽銭箱に投げ込んだのが『金貨』だということだ」
「ちょっといい金額だが、普段使いの貨幣だろうに?」
マジか? 金貨一枚いくらすると思っているんだよ。純金なら10万くらいはするんじゃないか?
「ワシはいっぱい持ってるしの」
「持っているって言っても、家にあるんだろ? 家に帰れないあんたにとって、懐の中身はこれからの大事な生活資金だろうに」
僕のツッコミにハッとする爺。
やっぱりただのアホなんじゃないだろうか。
「エンガルチョア・ホイサ! ……エンガルチョア・ホイサ! ……エンガルチョア・ホイサァ!」
慌てて息を切らしながら、賽銭箱に向かって何度も叫ぶ爺。
「何やってるんだよ」
「箱の中から金貨を取り戻そうと魔法を……」
「罰当たりな……」
魔法なんか使えないくせに、罰当たりな発想までしやがって。今時の外人はどうなってやがるんだ。取り出すなら、手品師みたいに糸でもつけておけばいいじゃないか。
呆れる僕を余所に、揺らしてみたり、ひっくり返そうとしてみたりと賽銭箱と格闘を続ける爺。
放っておいて帰ろうかとさえ思う。だが、僕が居なくなったら、間違いなく警察のご厄介になるだろう。……いや、居なくならずとも、いまのこの光景『賽銭泥棒』ではないか!
「爺、ストップ! 諦めろ! そんな事してるところ誰かに見られたら、警察に突き出されるぞ!」
……僕も一緒にな。
「……はぁはぁ…。ケイ……サ……ツ……って……はぁはぁ……なんぞな?」
「悪い事をした奴を捕まえて連れて行く」
「ワシ……悪い……こと……はぁはぁ……しとらんぞ」
息を切らしながらも、何も理解していない。
「爺がやろうとしているのは『賽銭泥棒』というやつだ」
「泥棒だと? 人聞きの悪い事を言うな。ワシの金を返して貰うだけではないか」
「そこに入れたらもう、神様の物だ。神様の物を奪おうとしたらどうなる?」
「ぬぉぉ! 制裁の雷を浴びることになる……」
まさにガクブル状態の爺。爺の脳内神様は怖いのだろう。だが、日本の神様は優しいからそんな事はしない、と思う。
自称大魔法使いが平伏して謝罪している。余程神様が怖いんだな。子供の頃からの刷り込み教育は大事だ。爺になっても神様は怖いと信じているんだからな。
「無駄足だったな。そろそろ帰るか」
申し訳ありませんでした、と連呼する爺に声をかけた。その時だった……。
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