最強の魔法使いが異世界から転移してきたが、魔法が使えずただの爺になった

草沢一臨

突然現れたのはボケ老人?①

 僕の名前は御鷹良明みたかよしあきただの高校生だ。

 突然の出来事、それは日曜の朝に起きた。


 朝食を終え、暇を理由に昨日までの続きをやろうとゲームを始めた。

 それは丁度、僕のキャラクターが召喚魔法を唱えた瞬間だった。

 ブワッ!

 窓も開けていないのに、一瞬室内を風が巡った。

 驚いて僕はゲームのコントローラーを手に、室内を見回した。

 次の瞬間、床に光り輝く魔法陣が現れ、それが更に眩いばかりの光を放ち、空気が魔法陣の周囲に渦巻く。

「なに? なんだ!」

 驚く僕の眼前で、魔法陣は更に光を放ち、その光が集束し、魔法陣の中央部に集まる。

 その光が形作るものが、魔法陣の中からせり出してきた。

 呆気にとられて僕は見ている事しかできなかったが、すぐにその光は人型を描き出し、大きく弾けるように発光すると、光と魔法陣は消えた。

「デラドミニアモ……レデルアン?」

 後に残ったのは何処からともなく現れた…いや、違う。魔法陣から現れたと思しき老人のみ。

 彼は何かを話しているが、何を言っているのかさっぱり理解できない。

 その風体は物語に出てくる魔法使いそのもの。

 僕がゲームだけでなく、現実で召喚してしまったのだろうか?

 違う。そうではないはずだ。

 持っていたコントローラを思わず手放し、立ち上がる。

「誰だ、あんた」

「ダレ……ダ、アン……ティア……?」

 繰り返しているのだろうが、微妙に違ってるな。

「テレビのマジックショーか何かの隠し撮りか?」

 室内や、窓の外を見渡すが、それらしいものは無い。

 いや、そもそも一介の高校生にそんなものを仕掛ける意味が無い。


 僕が悩んでいると、老人は僕の頭に懐から出したサークレットをはめた。

「何するんだ!」

「おう、分かる分かる。流石、ワシの作った逸品」

 先程まで分からなかった老人の言葉が理解できる。

「誰だ、あんた」

「ん、ワシか? 偉大なる大魔法使い。グラディアル・ドリンガー様だ」

「大魔法使い?」

 また胡散臭いのが現れたな。

「うむ、大魔法使いだ」

 自分で偉大とか、大魔法使いとか怪しすぎるだろう。

 頭のおかしいジジイがどういうトリックを使ったか、僕の部屋に現れた訳だ。

 この世界に魔法などという非科学的な物は存在しない。故に決して「おお、魔法? スゲー!」とかならない。

「嘘付け」

「嘘ではない。今もこうやって別世界から転移してきたのだよ」

 胸を張る自称大魔法使いに、僕は疑いの眼差しを向ける。

「いや、現にお主の頭についているソレ、ワシが作った魔法付与道具で、ワシらの言葉を解しておるだろう?」

「いや、そんなのただの演出に決まってる。着けてる間だけ、爺さんが普通に喋ってるんだろ」

 どうだ、隙の無い理論だ(高校生脳だが)。

「疑り深い奴だのう、じゃあ今からワシが魔法を見せてやるわい」

「ほう…」

 爺さんは両手を動かし杖に集中する素振りを見せる。

「デランダ・デランダ・ドットマース、我が求めに応じて出でよ炎の剣!」

 爺さんは何やら唱えた。

「どうだ、これで分かったか?」

「何が?」

「何がって、ここに炎の剣が現れ……ておらんの? なんで?」

 爺さんは足元を見回し、不思議そうに首を傾げる。

「いや、そんな物ある訳ないだろ」

「いやいやいや、そんなはずが。ワシが魔法失敗するなんてありえんよ?」

「現に何もないだろ?」

 何を言っている、このボケ老人は。

「じゃ、じゃあ、他の魔法を見せてやろう!」

「じゃあ、ってなんだ。別に見せてもらわなくてもいい」

 爺さんの挙動が怪しい。もう、うろたえまくっているのが、見ていて分かる。

「ワ……ワランダラ・ウッサークス・レンドリオン、大いなる水の力よ、水流となりて、我が望むものを砕け! 水流波!」

 ………。

「何も起こらんじゃないか。しかも今さらっと物騒な事口走ったな。出来たら何を砕くつもりでいた?」

「その箱……」

 指差したのは僕のゲーム機。

「ふざけんな!」

 怒る僕とは対照的にしょげる爺さん。

「あれー……ワシの魔法が……ワシの……」

 微妙に涙目になっている。

 放っておこう。

「もういいか、僕はゲームの続きをやる。爺さんは出て行ってくれ」

 僕は爺さんに背を向けて座ると、はめられたサークレットを外して床に置き、ゲームのコントローラーを手に取った。

「ガリアンンデトマスニトラ……」

 後ろから声が聞こえるが聞こえないフリをする。

「ガリアンンデトマスニトラ……」

 うるさいな。

 そう思った瞬間、爺さんにサークレットを着けられた。

「話を聞いてくれ」

 爺さんが無理矢理話しかけてくる。

「ワシ、魔法が使えなくなってる、無詠唱で出来るやつも使えない」

「知らないよ、さっさと帰れ」

「魔法が使えないから、転移もできん。帰れないのだ。……どうしよう」

 泣きつく爺さんに、僕はため息をついた。

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