突然現れたのはボケ老人?②

「で、爺さんは何しに来たんだ?」

「ワシか……。最強の魔法使いとして、別の世界でもワシの凄いところを見せてやろうかと思ってな」

 うん、その年で十分な冒険だよ、あんた。

 とはいえ、まだ信じちゃいないけどな。


「で、行く当ても無いボケ老人はどうするんだよ。ウチに居候なんかさせてやれないぞ。食費もかかるしな」

「食事なんか魔法でどどーんと………出せないんだったな、今……」

 そう言って爺はしょげる。もう、アホすぎて爺さんでなくてジジイで十分だ。

 しょうがないから、少しだけ付き合ってやるか。口に出すとつけあがりそうだから言わないが。

「ああ、もう鬱陶しいな! どうすりゃ良いか分かってるのか?」

「なんつーかの、体にみなぎる力、みたいなもんがないようでの…。いつもそんなの気にした事もないのだがのう……」

「なんつったけ、パス……じゃねえや、パワースポットか、ああいうトコに行きゃいいのか?」

 僕が頭を捻っても妙案など出てくるはずも無い。この程度の案を出すのが精一杯だった。

「パワースポット? なんだそれは……」

 聞いた事が無いのか首を傾げる爺。

「気が満ちるとか、幸運が舞い込むとか、なんだか良い所らしいな」

「それは……ワシの世界と似たような場所かの?」

「しらねーよ」

 爺の妄想世界なんか行ったことも無いし、見たことも無い。

 本当に別世界があるのだとしたら、多少は見てみたい気もする。

 いやいや、そんなもの有るはずがない。この爺に毒されてきたかな?


 どうせ休日で暇を持て余していた身。近所にあるというパワースポットに行ってみることにした。

 隣に居るのが可愛い女の子なら良かったのだが、ただの爺。本当にただの爺。

 歩けば遅いし、先程から「疲れた」を連発。しまいには「まだ着かんのか?」とまで言い出した。

 誰の為にやってると思っているんだ。

「だってのう、こんなもの魔法を使えばすぐに飛んでいけるし、何なら瞬間移動だって出来るんだぞ」

「いや、そういう事をやってるから悪いんだろ」

 車に乗ってばっかりだったり、誰かに運んでもらったりしていたら、そりゃあ体力も落ちるってもんだ。

 爺の妄想には付き合ってやらない。

「まったく、可愛い娘だったら腹も立たないのに……」

「ん? ワシの弟子は可愛い娘ばっかりだぞい?」

「弟子? 何の弟子だよ」

「いや、だから魔法の……」

 そこまで言って止めた。

 何やらしょげている。疲れもあるのだろう。

「はいはい、大魔法使いで、可愛い弟子がいっぱいいて、国でも救ったりしたのか?」

「おお! 良く分かっているではないか! ワシはだな……」

 やばい。地雷踏んだ……。

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