パワースポット
長々と、自らの妄想英雄譚を語る爺。鬱陶しいので話は聞き流している。疲れたとか言わないだけマシかもしれない。
得意満面で語る中、爺はふと止まった。
「そういえばお主は魔法を使えんのか?」
「魔法を使える奴なんかいねぇよ」
僕がそう答えると、憐れむような視線で見られた。
いや、あんたにそんな目で見られる覚えは無い。
「それに、お主じゃない。御鷹良明って立派な名前がある」
「ミタカ・ヨシアキ?」
「そう、よしあき」
「よし、ではヨシアキに魔法を教えてやろう!」
だからそれが出来んのだろうが。
と言おうとしたら、魔法を使えない事を思い出したのか、爺は急に凹んだ。まったくもって面倒くさい奴だな。
しかも、ローブを着た怪しい姿の爺は人目につきやすいのか、先程からすれ違う人達からこっちまで奇異の目で見られている。さすがに、ため息のひとつもつきたくなる。
「着いたぞ」
僕と爺は大きな欅の御神木がそそり立つ、小さな稲荷神社の前にやって来た。
階段を一歩一歩上がり、小さな鳥居をいくつもくぐって行く。
「なんだか、今までとは雰囲気というか、空気感というか全く違うな。神の領域に近づいている感じがするぞい」
それは僕も感じる。家の近くにある割には、今まで来たことが無かった場所だが、爺の言っている事は何となく分かる。
階段を上る度に、少しずつ薄暗くなっていく、周囲の木々が陽の光を遮っているせいだろう。階段を上りきると、そこには圧倒されるような大木があり、その横には小さな祠があった。
「おお、立派な木だな、伝説の世界樹とはこういうものなのかのう……」
「セカイジュ……なんだそれ? ……まあ、いいか。で、みなぎる力とやらはどうなんだ?」
「ん? ああ、さっきまでとは大分違うな。これならいけるかもしれん」
爺は何やら機嫌がいい。調子がいいのだろうか。…と思っていたら、呪文を唱えだした。
「オライアスハリマネルダ……集え我が手に光の束を、そして周囲を照らせ! 小光球」
周囲の何かが一瞬動いた気がしたが、やはり何も起こらなかった。その結果を見て一段としょげる爺。最早かける言葉も無い。
かわいそうだとか、がんばれとか、同情なんてするつもりもないが、やはり少し哀れではある。
とりあえず爺は放っておいて、僕は賽銭箱に百円玉を投げ込み、手をあわせる。何を願うわけでもないが、それが礼儀だと思っている。
「何をしておるのだ?」
爺が不思議そうな顔をして僕を見る。
「参拝というやつだ。賽銭……お金を入れて、神様にお祈りするんだ」
「コインで神と対話できるのか? そりゃあ素晴らしい」
何か勘違いしている気がするな。日本語は上手だが、よく見ると外人のようだし、日本の文化を知らないのも無理はないか。そう思っていたら、爺は僕の真似をして、懐から袋を取り出し、中に入っていた金色のコインを一枚賽銭箱に投げ込んだ。
「何だ、今の?」
「ドラスドン金貨だが、知らんのか? ああ、そうか分かるはずもないな……」
「金貨ぁ?」
あまりのことに、僕は大きな声を上げてしまった。
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