心が熱くなり勇気づけられる! 読めば人生が変わる!!
- ★★★ Excellent!!!
「変身!――その一言で、熱くなる。」
このキャッチコピーを見て、『ヒーローもの』あるいは『戦隊もの』だろうなと思った。
そして、私はどちらにも興味がなかった。
ところが、読めば読むほど夢中になった。
文字の奥に広がる世界に、興奮し、感動し、涙した。
寝食も忘れて読みふけった。
これだけは伝えたい。
『この作品は、ぜひ多くの人に読んでもらいたい作品だ』と。
***
物語は、主人公が不思議な夢を見るところから始まる。
それは不思議な少女と契約して力を得るという内容であり、これから彼が辿ることになる運命を示していた。
主人公の新士(しんじ)は、普通の高校生だ。
彼はヒーローに憧れ、自らもヒーローのようになりたいと願っている。
その願いを口にした瞬間、彼は見知らぬ世界へと召喚された。
そこは『神々の玩具箱』と呼ばれる場所。
召喚されたプレイヤーたちは皆それぞれ『願い』を持つ。
戦って相手を蹴落とし、最後に勝ち残った者の願いだけが叶うという。
わけもわからぬまま戦いに巻き込まれる主人公。
危険を顧みず戦うプレイヤーたち。あたりをうろつく恐ろしい化け物。
その世界で、主人公は『ヒーロー』への憧れを胸に、立ち上がる――。
***
『最後に勝ち残った者の願いだけが叶う』というルールの裏に、実はもうひとつのルールが隠されている。
それを知ったとき、愕然とする。
不死の病にかかった妹を助けたいと願う者がいる。
死んだ妻を生き返らせたいと望む者もいる。
奥さんに認めて欲しいと思う者もいる。
友達の幸せを願う者もいる。
家族のために一度は諦めた夢を、ここでなら掴めるかもしれないと信じる者もいる。
それでも、願いが叶うのは、たった一人だけ。
主人公は悩む。
自分の夢を叶えるために戦うことは正しいのか。
あるいは、誰の夢を叶え、誰を犠牲にすべきか。
この世界で『願う』ことは、他人を蹴落とすことでもある。
誰かの夢を踏みつけ、脱落させる行為である。
誰かひとりが退場するたびに、彼は心を痛める。
本当にこれでよかったのか。
そこまでして『ヒーロー』になる覚悟はあるのかと、自問自答する。
ときには自身の行動と『理想のヒーロー』との乖離に悩むこともある。
願うことは、自身を、誰かを、すり減らすことに他ならない
悩みながらも、戦うことをやめるわけにはいかない。
あまりにも熱い展開が繰り広げられる。
ひとつひとつの戦いに意義があるのだと気付かされる。
ときには心が痛む戦いもある。
ときには自分の目指すものに気付く戦いもある。
そして、いつしか『神々の玩具箱』での出来事は現実世界にも影響を及ぼしてゆく。
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キャラクターがたくさん登場するが、どのキャラもそれぞれ魅力的だ。
まずは、主人公。
現実世界ではいじめられっ子だが、読み進めていくと彼がただの『弱虫』などではないということがわかる。
彼は彼なりに戦った結果、引きこもりにならざるを得なかった。
しかし、このゲームを通じて考え、悩み、少しずつ成長してゆく。
少々ストイックなところもあるが、応援したくなる主人公だ。
ヒロインの「かなえ」の存在も尊い。
彼女は、いついかなるときでも主人公のことを「かっこいい」と言う。何度でも「助けてくれて、ありがとう」と言う。
必ず味方でいてくれるし、助けようとしてくれる。『神々の玩具箱』において、それがどれほど心強いことか。
そのぶれない精神が、彼女の真の強さだ。
彼女がいてくれるからこそ、主人公は戦うことができる。
「アマちゃん」も印象深いキャラだ。
彼女は、主人公を何度も叱咤激励し、奮い立たせる。
二人の絆の深さには、涙せずにいられない。
そして、ルシフェル。
彼は主人公をゲームへと誘う天使だ。
最初は「嫌な奴だ」という印象だが、少しずつ主人公との関係性が変化してゆく。そして物語も終盤になると、なぜかちょっと格好良く見えてくるから不思議だ。
主人公も、敵も味方も、おじさんもお姉さんも、そしてわちゃわちゃしている天使たちも、みんなそれぞれキャラが立っていて個性的だ。
どのキャラも特徴的で、それぞれの『役割』をしっかり演じているということが伝わってくる。それでいて意図的なものを感じないのは、作者が本当に好きなものを書いているからだろう。
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面白いのは、タロットカードがモチーフになっているという点である。
この作品には多くのキャラが登場するが、それぞれタロットカードにちなんだ能力が割り振られている。
タロットというと神秘的なイメージがあるが、それをバトルものと組み合わせているところがユニークだ。
そして、「ここでこのカードを出してくるのか!」などと盛り上がる場面もある。
(もちろん、タロットを知らない人でも楽しめる。)
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作品を読んでいて何度も感じたのは、「この作者さん、エンターテイメント小説を書くのがものすごくうまい!」ということだ。
文体は個性的でリズムが独特だが、それでいて読みやすく、夢中になれる文章だと感じる。
また、構成が緻密で、伏線もしっかりしている。それでいながら大胆な展開がある。
読者が見たいものを惜しみなく見せてくれて、さらにその先まで見せてくれる。
隅々まで計算されつくした展開。
隅から隅まで面白い。むしろ、つまらない瞬間などない。
ストーリーが盛り上がってくるごとに、
「あああああ! 応援ボタンはなぜ一回しか押せないのかッ!!!!!」と何度も頭を抱えた。
「連打すれば通知だけでもいっぱい表示されるかな? いや、でも迷惑だよな……。あ、コメント欄にハートをいっぱい書き込む? いやちょっと待て、それただの変な人だと思われる……それに、コメント欄がハートで埋まっちゃうよぉ///」
などと一人でぐるぐる考えたりもした。
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読み終えて、気付いたことがある。
「変身」という言葉は、ただの掛け声ではないということ。
そこには「戦うという選択」「これから他人と争うという意思表示」「負けないぞという強い意志」「自身を奮い立たせる気持ち」などが込められている。
登場人物たちが発する「変身」という言葉に、それぞれどのような思いが込められているのか――それを想像するだけで胸が熱くなる。
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王道。あまりにも王道のど真ん中だ。
だからこその確かな面白さ。
読めば、心が強くなる。
胸の中に意志が生まれる。
困難に立ち向かう勇気をもらえる。
自分が望むように生きようと思うようになる。
読めば、あなたの人生が変わる。
最後にもう一度だけ言おう。
この作品は、ぜひ多くの人に。
一人でも多くの人に、読んで欲しい。
そう思えるほどに素晴らしいエンターテイメント作品だ。