従者の憂鬱

ナスカは自分の部屋の扉を開けた瞬間、言葉を失った。


「な、なんて格好…!!」


目に入ったのは下着だけになったルーシャの姿だった。

従者とはいえ、歳はさほど離れていない。

元々は、遊び相手として集められただけだったが、ルーシャがとてもナスカを気に入ったので従者として仕えることになったのだ。

そのため、男としての経験はゼロ。

経験ゼロのままこの前やっと二十歳になったのだ。



「いくら昔からの従者であっても、俺は男ですよ?!しかも!歳も近い!

 もう少し女性としての自覚を持ってください!

 俺だったからいいものの、もし他の男だったら…」


「私の事が心配?」


「…一応、従者ですから」


ふぅん、とニヤニヤしながらナスカを見るルーシャ。

ナスカはその視線に耐えきれなかったのか、だから、と声を上げた。


「無防備なんですよ!いくら女性としての魅力がないからって…」


そこまで言ってからナスカは自分の口を慌てて押さえた。…が、時すでに遅し。


「へぇ、私に女としての魅力がない。それはとても興味深いわ。どういうことかしら?」


どす黒い空気を纏ったルーシャがじりじりと近づいてくる。


自分より背が低い女で、しかも裸に近い格好なのにここまで恐怖心をあおってくる。血筋もあるだろうし、逆らえない相手ということも関係してくるが、それ以上にルーシャ個人のオーラは半端ないものなのだ。


「申し訳ありませんでしたぁ!」


素早い動きで頭を下げるナスカ。


「あまりにっ…あまりに魅力的なお身体だったために…こうでも言わないと理性を保っていられませんでした」


ナスカはつらつらと嘘を並べていく。

本当は「幼児体形ということは自分がよく分かっているだろう」などと言ってやりたいナスカだが、そんなこと言えるはずもなく、冷や汗を流すだけだった。


「なるほど。そういうことならしょうがないわ」


ルーシャはナスカに合わせているだけで全部わかっている。

ただただナスカの反応を楽しんでいるだけなのだ。


「今回は許してあげる。それより早く着せて」


「はい…」


ナスカは文句を言わずに服を着せ始めた。


従者服は白いシャツに黒いズボン。上から黒に金の装飾が施された意外と洒落たロングコートのようなものを着る。


「ドレスよりこっちの方が動きやすいわ!」


ルーシャはご機嫌に笑う。


「ただ、少し大きいようですね」


ナスカの言うとおり、袖と、ズボンの裾が余っていて、少し不格好だった。


「そうね、私、そんなに小さい方ではないのだけれど」


「姫、俺との身長差を考えてください。

 女性の中では普通でも、男からしたら小さいですよ。特に俺は高いほうですし。」


「そういえば、結構差があるわね…」


ルーシャはそういって背伸びをするがそれでもナスカには届かない。


「何センチあるのっ…?」


「183くらいですね」


「23センチも違うじゃない…!!」


「そんなものですよ」


ナスカは悔しがるルーシャを笑ってなだめた。

それに、とナスカは続ける。


「それくらいの身長の方が可愛らしいと思いますよ」


無意識に出た言葉だった。

ナスカにとって何気ないこの一言が、ルーシャにとっては嬉しかったようだった。

ルーシャは白い頬を桃色に染めた。


「か、可愛ら、しい…?」


(何だろう、この気持ちは)


「顔が赤いですよ、その格好暑いですよね。そろそろ着替えましょうか」


「そ、そうする。」


分からない感情と顔の火照り。

今はまだ…


(暑さのせいにしておこう―――)






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叶うならば君と二人。 常陸院ナギ @saharasabakuo

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