第11話 白菊の花束を
分娩室の前で、俺はずっとソワソワしていた。
「もう、少しは落ち着きなよ。お母さんの記憶がベースなんだから、ちゃんと生まれてくるって」
「そうは言ってもなあ……」
あの後少ししてから、陣痛が始まったと連絡があり、今は出産の真っ最中だ。
「それにしても、自分の出産に立ち会うとか、なんか変な感じするね」
「そりゃそうだ」
楓はそのまま連れてきた。最初は嫌がっていたけど、風夏さんとも話して欲しいと説得したら納得してくれた。
雑談を交わしていたら、分娩室から助産師の方が出てくる。
「北辻さん! 生まれましたよ」
それからの事は、衝撃のせいか、世界が崩壊したせいか分からないけど、覚えていない。
* * *
あの実験から数ヶ月が経った。出産が終わってすぐ、私たちの脳のリンクは切れてしまって、両親は二人とも意識を取り戻すことは無く、実験は失敗に終わった。
臓器移植法の施行日が近づいてきた。私は来る葬式に向けた準備として、花屋で供花の注文をしている。二人の好きだった白菊の花束をありったけ準備しよう。
葬儀の準備をしながらも、私の心は晴れやかだった。私の両親は、貴重すぎる経験と、返し切れないほどの愛をくれたのだから。二人からの誠実な愛を抱えて、これからも私は生きていくのだ。
今日やる予定だった手続きを終えて、病院に戻って来ると、何やら院内が騒がしい。何かあったのだろうか。
「あ、北辻さん! 早く来てください!」
「どうかしたんですか?」
「戻ったんです、二人とも、意識が戻ったんですよ!」
白菊の花束を 隠者の桃 @pincreate
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