極秘依頼
「っ、ててぇ...」
呻き声をあげながら、俺はゆっくりと体を起こす。痛みが走った右肩を掴み、ゆっくりと呼吸を整える。
竜の群れの進行から一夜明けた。戦場となった正門前の大地はあちこちがボコボコになっていて、冒険者と警備兵団中心に朝から復旧作業が行われているそうだ。グレンはその手伝いのため早朝に部屋を後にしている。
また、竜の討伐に対する特別報酬をソフィアが取りに行っている。俺がゲイルドラゴンと戦ったことから少し加算されるらしい。
寝間着から普段着に時間をかけて袖を通す。幾ら魔法を使ったとはいえ、肩の完全修復までは2、3日かかるとソフィアは言っていた。それまでは安静にしていろ、とも。
俺は2人に心の中で謝りながら剣を取り、腰に吊るす。
向かう先は〈アルバン〉の中心地にある、アルバン警備兵団、本部だ。
「し、失礼します...」
そう言いながらそっと大扉を開ける。ほとんどの人が出払っているようで、まったくと言っていいほど人がいない...いや、1人いた。
「あっ、あのぅ」
「...だれ」
声を掛けると、その人が振り返る。その勢いで流れる紫紺のロング。髪と同じく暗いアメジストの無機質な瞳が俺を見据える。
「...何しに来たの」
「え、っと。クリードさんに呼ばれまして...っ」
「…んー?」
彼女が顔をすぐそばまで近づけて俺を見る。仄かな甘い匂いが鼻孔をくすぐり、思わず体が硬直する。
「...嘘じゃなさそう」
「嘘ついてどうするんですか...」
女性が顔を引き呟く。思わず息を吐いた俺に背を向け、彼女がすたすたと歩いて行く。
「えっと...」
「ん。だんちょうのとこ連れてく」
「お願いします...」
この人、とんだマイペースだな...
「だんちょう。お客さん」
「ロゼッタ。ありがとう」
「ん」
ロゼッタさんは、クリードさんの言葉に頷いて返すと、そのまま部屋を後にしていった。
「呼び出してすまなかったな。本来なら私の方から出向くべきだというのに」
「い、いえいえ! 冗談はやめてください。助けられたのは俺ですし、クリードさんは英雄ですし...」
「英雄と呼ばれるほど私は強くないがな」
「...そんなことないですよ」
クリードさんからにじみ出る強者のオーラに怯みながら俺はそう返す。クリードさんは快活に笑うと、俺を席に促し、その反対側に腰かけた。
「それで、話とは...?」
昨日のこと。宿に戻る前にクリードさんから話があると言われたため、俺はここに来た。クリードさんは懐から羊皮紙を取り出すと、俺に差し出した。見ろ、という事だろう。
そこには、〝極秘〟と言う真っ赤な文字が書かれていた。
「これは...?」
「つい最近、〈マレタクル森林〉に遺跡群が見つかってな。私が知人にそこの調査を依頼したんだが...」
「が?」
「彼はその条件として護衛を付けることを要求してきた。それもランクが低く、かつそれなりの腕を持った者を」
「なんでわざわざそんな難しい条件を...」
クリードさんが頭を掻く。
「どうやら前の調査で雇った凄腕冒険者がかなりの脳筋だったらしくてなぁ。そりゃあもう差別発言の嵐。当分の間続くトラウマになっちまったらしい」
「それはまた難儀な...」
クリードさんは苦笑いを引っ込めると俺の眼を見据える。
「ウォロ君。私は君たちのパーティに依頼をしたい。もちろんそれなりの対価を支払う。引き受けてはくれないか?」
俺は少し考え、こう答える。
「...相談します」
「それでいい」
俺は席を立つと、部屋を後にした。
それから4日後。俺達は〈マレタクル森林〉へと赴くことになるのだった。
世界之守護者-world keeper- 土反井木冬 @dohanikifuyu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。世界之守護者-world keeper-の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます