第4話
ホテルで別れて数週間後、彼女から連絡があった。
水族館でデートをしたいという。
大型連休明けの週末、ブランチに悪くない時間だった。
指定のホテルの一室の前に着くと彼女に連絡を入れる。
「時間通りね。入って」
彼女は部屋のドアを開けると、青いワンピースを翻して部屋の奥へと戻っていく。
白いヒールに金のアンクレットが揺れていて、僕はこの足を舐めていたのかと思った。
アキレス腱がハッキリと浮かんだ足首が美しい。
「今日は和服に着替えてほしいの」
ベッドに腰を掛けながら、既に広げてある和服を見せられる。
和服の知識なんて全くなかったので、広げてあるものをどう着れば良いのか解らず立ち尽くしていると、
「着せてあげるから、こちらへいらっしゃい」
手招きされて彼女の前に立つと服を脱ぐように促される。
この前は視界を奪われていたので恥じらいよりも不安の方が大きかったけど、女性が頬杖をついてる前での公開ストリップは流石に恥ずかしい。
「早くして」
とニッコリと笑いながら催促されて、しぶしぶ脱ぎ始めた。
トランクスだけになると、彼女はこれから着せるものの名称を僕に教えながら着付け始める。
襦袢から始まって腰ひも、袷の長着、帯、足袋、履物。
一通り着せられて姿見の前に連れていかれる。
「うん。格好いいよ。君は着物の方が似合うわね。簡単にスタイリングしてあげるから、ベッドに座って」
ミストワックスで髪の毛を纏められる。自分では選ばないようなヘアデザインで違和感が凄い。
香水を首元と手首につけられる。
「うん。いい香り」
僕の頬に手を添わせ、首筋に顔を近づけて深く呼吸を繰り返している。
襟元からするりと手が侵入してきて、一撫でした後に襟元を正された。
「この香水と着物はあげるわ。最初は柑橘系、最後は甘いムスクの香りで扱いやすいの」
そう言いながら僕の喉元に首輪をつけた。
「珍しいでしょう? 組紐の首輪なの」
首輪から手が離れると、リンと鈴の音が響いた。
どうにも自分が猫になった気分だ。
僕に興味を持って彼女に飼われることで、見識が広がりそうだと思う。
知らない世界を無尽蔵に見れると思うと悪い気はしなかった。
あの書店で普通の恋愛から道を踏み外して、彼女の庇護のもと猫のような立ち位置を求められてるんだと思った。
躾け、愛玩され、従順で、着飾らせてもらい、良く出来たらご褒美に少しの快楽を与えられる。
犬でもいいんだけど、犬は吠えるから猫の方が良い。
彼女はぺろりと唇と舐めて、満足げに微笑んでいた。
「ペットみたいですね」
思ったことを口に出すと、彼女は少しばかり驚いてから、
「ううん。ペットではないわ。ビスクドールを私好みに育てたいだけよ」
ふふっと軽い笑みを漏らす。
「ビスクドールってなんですか?」
「着せ替え人形の事。すごく昔、貴族の間で流行ってたんですって」
「なんだ、猫じゃなかった」
「猫の方がいい?」
「どっちでも」
「つれないなあ」
そう言いながら彼女は僕の首輪にリードをつけた。
そのままホテルを出ることが恥ずかしかったけれど、彼女が何の躊躇いもなく僕を引っ張ったので、羞恥心はその場に置き去りになってしまった。
衆目のなか彼女に手綱を任せて水族館に入館する。
手綱が人目に触れないように身を寄せ合い順路を回った。
僕たちの姿はどう見られているんだろう?
少し年の離れた仲の良いカップルに見られているんだとしたら、僕はそれで良かった。
「キョロキョロしないで。コレが日常になるのだから堂々としていて」
その声は凛としていた。
グッと手綱を引かれて額を突き合わせると、彼女の瞳しか見えなかった。
普段はとろんとしているけれど、眉根を寄せてギラギラと輝いている。
彼女が何故そこまで僕を育てることに固執しているのか気になった。
「わかった」
一言返すと、ふわりと笑って頭を撫でられる。
まるで忠犬のように尻尾を振ってる僕がいる。
それでも犬は嫌なので尻尾をピンと立てた猫にしておこう。
最近はリードに繋がれて散歩する猫だって居るんだから。
猫は猫らしく顔を擦りつけて愛情を表現することにした。
彼女の肩に鼻先を擦りつけると喉の下を掻いてくれる。
意図が伝わって嬉しくなる。
それから少し歩いて海月の展示コーナーに差し掛かると人気が無くなった。
月明りを思わせる照明が水の中を漂う海月を照らしていて、当て所なく彷徨う僕たちの関係のように思えた。
厳密にいえば彼女には僕に対しての目的地があるのだろうけど、僕はそれに付き従っているだけで終着点なんて見えやしない。
ふっと、イルカのバブルリングに巻き込まれて、錐揉み状になっている海月の絵が浮かんだ。
リードに引かれ鑑賞スペースのソファに座ると、膝枕の姿勢になるように促される。
彼女の太ももに頭を乗せて横たえると、柔らかな温かさと胸を高揚させる匂いに抱かれる。
水蜜桃から雫が滴った時のような甘い匂いだった。
それからノイズのようなゴーっという音が聞こえ始めて、彼女の血液が流れる音だと気づいた頃、柘榴色をしたネイルが胸元へと侵入してくる。
その手は深海の探査船のように胸部を移動して、ピクリと反応を示すとそこに何があるのかを執拗に調べ始める。
顔を見られるのが恥ずかしくなって、彼女の太ももに顔を埋めた。
「顔を見せなさい」
たおやかに言葉が発せられる。
僕はその命令に顔を紅潮させながら従うと、
「いい子」
と左手で額を撫でられる。
彼女が前かがみになり、僕の顔を包み込むように抱きすくめられた。
控えめな、それでも柔らかな二つの頂がワンピース越しに僕の顔に触れる。
下着の類をつけていない事に驚く。
僕の学校は共学だけど、そんな大胆な格好をした女性を見たことがなかったから。
しばらくしてから解放されると、彼女の目が少し腫れぼったかった。
声も出さずに泣いてたと気づいたけど、何を思って泣いていたのかまでは汲み取れない。
身を起こして襟元を整える。
僕は主を心配する猫のように、彼女の肩に鼻を擦りつけて心配していると伝える。
彼女は僕の肩に頭を押し付けつつ、頬に手を添わせたかと思えば、思いっきり抓られた。
何が彼女の怒りに触れたか解らないまま、リードを思いっきり引っ張られて立ち上がる。
それからの扱いは散々だった。
駄犬を躾ける主のように、僕が半歩でも前に出そうになるとリードを引っ張られ、一歩以上離れればリードを引っ張られ、出口に着くころには首筋に痣が出来るんじゃないかと思えた。
彼女の歩くペースに気を使いながらホテルに戻ると、乱暴に帯を解かれる。
そのまま腰紐も解かれ、長着がはだけるとベッドに押し倒された。
腰ひもで手を結われ、手近にあったバスタオルで視界を塞がれた。
「舐めなさい」
柔らかな茂みを強く押し当てられ窒息しそうになる。
息も絶え絶えにその場所を舐めていると、彼女の腰が前後に動いた。
鼻先に恥部を擦りつけるように、何度も何度も往復する。
水蜜桃から溢れたネットリとした果汁で溺れそうになりながら、僕は必至に舌を動かす。
彼女の腰がビクンと跳ねて暖かな液体が降り注いだ。
荒い息遣いが聞こえて、行為が終わると思っていると、
「何をしているの? まだ止めちゃだめよ」
余韻を掃き捨てるように彼女は僕に命令を下す。
「そう、そこ。舌で……」
硬くなった部分を穿り返し、舌先で左右に転がす。
「吸いながら、噛んで」
突起を吸いながら言われるままに軽く噛んだ。
「いっ……優しく、ね?」
強すぎたらしい。
歯先に当たるか当たらないかぐらい、微妙な力加減で甘噛みする。
ガクガクと痙攣するような腰つきと、噛み殺すような嬌声が漏れた。
吸いながら甘噛みにも満たない力加減を加えつつ、転がすように肉芽を嬲る。
彼女の腰がガクンガクンと大きく揺れて、僕の身体に彼女の重みが預けられた。
「いい子。呑み込みが早いのね。考えて動く子は好きよ」
僕の上で身をよじり向きを変えたらしい彼女は再び水蜜桃を押し付けてくる。
果汁の粘度は下がっていて、岩肌からしっとりと湧水が滲んでいるような舌ざわりだった。
ただ、湧水の冷たさとは真逆で、彼女のクレバスは熱く濡れそぼっている。
彼女の体液で重くなった空気が僕の肺に入ってくる。
噎せ返るほど濃厚なメスのフェロモンが、明確な質量を持って僕の身体を内側から犯していた。
彼女の荒い息遣いが聞こえる。
どこまで深い快楽に潜ったのかが伺い知れないけど、海面に顔を出した彼女を再び水底へ沈めていく。
小さな萌芽を唇で摘み、吸いながら唇で圧迫しつつ磨り潰すように唇を動かした。
堪える様な声は明瞭な輪郭を持った喜悦の声へと形を変える。
不意に陰部を擦られた。
思ってもいなかった刺激に対して凄く情けない声をあげてしまう。
下着越しに彼女の吐息を感じた瞬間、僕は泣きそうな声をあげて果ててしまった。
自涜をした時よりも多く脈打ち下着の中を汚した。
それでも彼女の指先は汚れ切った下着越しに刺激し続ける。
耐え切れず下半身をよじると下着の圧迫感が消えて、代わりに熱くてねっとりとした液体の中に突っ込んでると錯覚する。
蠢く熱い塊が彼女の舌で、僕の物を咥えてると気づいた.とき、胸の奥から言いようもない嬉しさが込み上げてきた。
弄ぶでもない、純水に快楽を与えてやろうという彼女の気持ちに思えて胸が苦しくなる。
鈴口からゆっくりと舐られて種袋に熱が滴る。
僕の体液なのか彼女の唾液なのかはわからないけど、潤滑剤で濡れそぼり、それを指先で軽く撫でられる。
同時に鈴口も指先で擦られて思わず腰が浮いた。
睾丸を口に含まれて飴玉のように転がされる。
もう、僕の陰茎が痛いほどに張り詰めて脈を打っている。
「休んじゃ……ダメよ」
一拍の息継ぎの後、叱られた。
渇きを癒す湧水を貪り飲むように彼女の水蜜桃を吸い、彼女は僕の陰茎を水音を立てながらしごき上げる。
顔に暖かな液体をかけられると同時に、僕も白濁駅を長く長く脈動させた。
荒くなった息を整えていると、不意に口の中に何かを流し込まれる。
栗の花のような匂いのする液体が自分の精液だと気づくと、彼女に口を吸われて、舌を差し込まれる。
お互いの口の中で白濁液を攪拌し、互いの唾液と一緒に交換する。
彼女に液体を全て奪われたあと、こくりと喉が鳴った。
「自分の味って、なかなか知れないものよね」
そう言うやいなや、再び水蜜桃を押し付けられる。
それからの事はぼんやりとしか記憶になかった。
ただ、彼女が僕に温かいものをかける度に、嬌声は輪郭を増してく。
意識が途絶える前に聞こえてきたのは、何かの獣が唸るような音だけだった。
沈丁花 邪悪なうどん屋さん @good_solo
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