第3話

 シャワーの音が止んでドライヤーで髪を乾かす音がする。

 僕はベッドに横たわったまま彼女の到着を待った。

 ベッドがギッと軋んでミルクのような甘い香りと柑橘系の爽やかな香りがする。

「舐めなさい」

 視覚を奪われたまま差し出されたものに舌を這わせた。

 最初、手の指を舐めさせられているのだと思ったけれど、舐め進むうちに足の指だと気づいた。

 丁寧に舌を這わせ、やや隆起した骨っぽい部分にあたる。

 それが踝だと気づいてから、金属のチェーンの感触がした。

「細いアンクレットだから千切らないでね。白いシーツに金色が映えて素敵なのだけれど、それを見せるのは今度ね。いい子にしてたらちゃんと見せてあげるから」

 クスクスと彼女の笑い声が弾む。

 女性の足を舐めた同級生がどれほど居るだろうと思った。

 僕は多分、学校の中で誰よりも早くやらしい事を経験してる。

 それと同時に、今度という言葉が嬉しかった。

 いい子にしていたらという条件はあるけど、暗に二回目があるんだと示されたんだから。

 彼女の足がふやけてしまうんじゃないかと思えるころ、足を口元から離して首筋をゆっくりと伝い、鎖骨を折りてシャツのボタンを外し始めた。

 流れる様な一連の動作と、足先の器用さに驚きながら、

「どうして僕だったんですか?」

 質問を投げる。

「匂いが良かったもの」

「匂い?」

「ええ、若いオスの未熟な匂い」

「それじゃ、僕以外でも良かったんじゃ?」

「そうね。それだけなら候補はいくつもあるわ。でもね、その年で万年筆を買うセンス、私というメスにハマる匂いの二つを持ってる男はなかなか居ないもの。だから私ね──」

 そう大きくない柔らかなものが顔に当たる。

「──君を狙ったのよ。女としての手段を使って君の気持ちを揺さぶって、こうしてやらしいことをしてる。嫌かしら?」

 胸から解放されると、彼女の足が僕の会陰に伸びた。

 救い上げるように陰部をこねられ、怒張し濡れた陰茎を足先で弄ばれた。

 くちゅりと水音がした。

 自分で弄る時とは違った心地よさだったし、女性に身をゆだねる快楽というのも新鮮だった。

 ぬるぬるとした先端を擦られる度に、臀部からゆるく弱い電気が流れているようで、時折声をあげてしまった。

 マンガに出てくる女の子みたいで恥ずかしかったけど、止めて欲しいとは感じなかった。

「くるしい?」

 悪戯っぽく彼女が囁いた。

「口をあけなさい」

 言われるがままに口を開けると、僕のもので汚れた足先を突っ込まれた。

「自分の味はどう?」

 その質問に答える代わりに丹念に親指を掃除する。

 彼女は満足したのか足先を抜き取り、シャツの裾をつかんで口元に持ってくる。

 はだけたシャツの裾を左右で二度咥えると、

「声をだしてはダメよ。いい子に出来たら、ご褒美をあげるわ」

 唾液で濡れた足先が胸板にある突起を捏ねるように刺激する。

 はさんで、つぶして、爪でこすり、緩急をつけながら刺激され、それでも声をあげなかった。

「いい子。まだ声を出してはダメだからね」

 カチャカチャとベルトを外されて、ジッパーを下す音が聞こえると下着を脱がされた。

 硬くなったそれが自分の腹をたく。

「本当に犬みたいね。お預けされて、涎を垂らしてるんですもの」

 足先で挟まれて、上下にゆっくりとストロークされる。

 堪らず腰が引けて快楽から逃げようとすると、強い力でがっちりと挟まれる。

「逃げないの」

 釘を刺されて腰を止めると、再びゆるいストロークが続く。

 にちゅりと水音が響いて呼吸が荒くなると、ぱっと指を離された。

「まだ果ててはだめ。もっと楽しませてくれなきゃ」

 そうやって何度も何度も絶頂を迎えそうになっては快楽から解放され、下半身にしずくが滴り指で掴むのが困難になると、

「よく最後まで我慢できたね。ちゃんとご褒美あげなきゃね」

 彼女は僕の頭を柔らかな肉の壁で圧迫した。

 それが太ももだと気づいたのは、鼻先に彼女の茂みが触れてからだった。

 僕は圧迫されたまま、彼女の自涜を聞いていた。

 水音が響く度に万年筆を握っていた手が彼女の中をかき回しているのだと想像する。

 水蜜桃のような甘い匂いと、ヨーグルトのような匂いがする。

「これがメスの匂いよ。ちゃんと覚えなさい」

 そう説明されながら彼女の堪える様な喘ぎ声が混じって、どんな顔をして自分を慰めているのかを想像してしまう。

 眉根を寄せて切なそうにしているのか、すました顔でかき回しているのか、それとも──

 太ももの圧迫感が強まり、暖かな液体を浴びると僕たちの行為は終わりを迎えた。

 幸い、服は下着以外目立った汚れもなかったので僕は帰らされることになった。

 ワッフル地の部屋着姿の彼女と連絡先を交換して部屋をでる。

 家に帰ってお風呂に入るまで、僕の鼻腔には甘い香りがこびりついていた。

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