オフィーリアと少年

雨宮翔

第1話

この世界の悪魔は北の大陸の果てにある魔界樹から生まれます。魔界樹から生まれた悪魔たちは人間を誘惑し、破滅させてその魂生きる糧にしていました。魔界樹から生まれた魔女もその例外ではなく、自ら作り出した結界に人間たちを誘い込み、その魂を奪って生きています。

しかしオフィーリアは魔女としてこの世界に生まれて以来、人間と関る事もなく、自らの結界の中で使い魔たちと静かに暮していました。彼女は人間の魂の代りとして薔薇の花を生きる糧にしていたので、彼女の存在を知る者たちからは薔薇の魔女と呼ばれていました。

そんな彼女がある朝、いつもの様に庭へ薔薇を摘みに行くと、垣根の中に一人の少年が倒れていました。

それは朝露に濡れた白銀の髪が美しい少年でした。

年の頃は14、5才くらいでしょうか。

それにしても、彼女の結界の中に入れるのは、法カの強い術師くらい。

一体どうやって入って来たのでしょう。

オフィーリアは使い魔に命じて、少年を使っていない部屋のベッドへ運ばせました。

そうして、すやすやと眠っている少年を使い魔に任せ、オフィーリアがキッチンで歌を口ずさみながら、薔薇の蜜を使ったプティングを作りはじめました。

あの少年は何処の誰なのだろう。

もし、目を覚ましたら何を話せばいいのかしら。

そんなことを考えながらボウルでメレンゲを作っていると、小一時間くらいたった頃突然ドタドタと慌ただしい音がして、眠っていたはずの少年が彼女の目の前に現れました。

「きゃあ」

オフィーリアは驚いて手にしていたボウルを床に落としてしまいました。

「驚かせてごめんなさい」

少年は慌ててオフィーリアの落したボウルを拾い上げました。

「いえ、いいの。大丈夫。」

オフィーリアは戸惑いながら少年からボウルを受け取ります。

何しろオフィーリアは生まれはじめて人間の年を目の当たりにしたものだから、

緊張で手が震えているのが自分でも良く分かりました。

それを少年は、オフィーリアが怯えているものだと勘違いしたらしく、

申し訳なさそうに眉根を寄せ、慇懃に頭を下ました。

「僕は別に怪しい者ではないので、そんなに怖がらないでください。それよりもここは一体何処なんでしょう。どうにも記憶が曖昧で……」

「ここは北の大陸にある私のお屋敷よ。ほら、左手の窓から薔薇の垣根が見えるでしょう?今朝方あそこに貴方が倒れているのを見つけたの。ここはそう簡単に入れる場所ではないのに、貴方はどうやってきたの?」

「それが不思議なことに自分が今まで何をして来た者なのか、どこに住んでいたのか全くもって思い出せないのです。頭の中が霧でもかかったようにもやもやしていて、自分でもどうしたらいいのか……」

「本当に何も思い出せないの?例えば自分の名前とか……」

「名前はたぶんアルトだと思います。それ以外は本当に何も思い出せません」

魔女は困り果ててしまいました。

確かに自分の結界は中に入った者の記憶を奪う性質がありました。

しかし、少年の記憶を奪っているのは、自分の魔術でない事は、オフィーリアが自身が一番よく分かっていました。

だとすれば、他の要因で記憶を失ったとしか考えられません。

自分の魔術が関係しているなら、すぐにでも記憶を返すことが出来ますが、そうでないとすればオフィーリアの力では手の打ちようがありません。オフィーリアは魔女とはいえ、そこまで強い魔力を持っている訳ではなかったのです。

「あの……」

しばらく黙り込んでいたオフィーリアに少年が。おずおずと声を掛けてきました。

「ご迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。体の具合は何ともないようなので、これで失礼いたします」

再び頭を下げてキッチンを出ていこうとする少年のシャツの袖をオフィーリアは慌てて掴みました。すると少年がオフィーリアを振り返りました。

近くで改めてみると少年はまるで透き通った湖のようなまっすぐで美しい瞳をしてしました。

人間の少年とはみんなこの様に純真な瞳をしているものなのかしら?とオフィーリアはぼんやりと考えていました。

「あの、何か?

少年に問われて、オフィーリアははっと我に返りました。

自分が何をしようとしていたのか、分からないまま掴んだ袖をそっと放し、テーブルへ移動すると、ハーブティを二人分用意しました。

「そう急ぐことはないわ。こちらに来て、少しお話をしましょう。」

オフィーリアがそう促すと、少年は素直にテーブルの側へやってきて、オフィーリアが用意した椅子に腰かけました。

「貴方をここから追い出すのは簡単だし、それでも私は構わないけれど」

自分これから何を言うとしているのか分からないままオフィーリアは話し始めました。

「記憶のないままここを出て行って貴方はどうするつもりなの?」

そう尋ねると少年は少し黙り込んで、ハーブティが表面が僅かに揺れるのを眺めていました。

「言っておくけれど、この北の大陸に警察署はないし、港もないわ」

すると少年が不思議そうに首を傾げました。

「貴女はなぜこんな不便な場所に住んでいるんですか?」

そう問われて、オフィーリアは一瞬怯みました。

自分が魔女である事は知られるわけにいきません。

何故なら魔女は人間にとって忌むべき存在だからです。

その証拠に世界中で何百年に渡って幾度も魔女狩りが行われていました。

オフィーリアは平静を装いながらハーブティを一口飲むと

「私はここの番人なのよ」

といいました。

オフィーリアはそう思わず口走って、これはいい名目だとおもいました。

「そう私はここの番人なの。けれど一人では手が回らなくて……もし良かったら、貴方にお伝いをしてもらいたいのよ」

「僕が、貴方の手伝いを?」

「そう。手伝いといってもこのお屋敷の管理と周辺の見回りだけでいいのよ。もちろん記憶が戻る間だけでいいわ。どうかしら?悪い話じゃないと思うけど」

少年は少し戸惑っていましたが、今はそれしか手がないと思ったのかすぐに

「よろしくお願いします」

と勢いよく頭を下げました。


オフィーリアの使い魔はみんな小さく黒くてこコロコロとしていました。

彼らの事を少年は最初訝しんでいましたが、この大陸の精霊だとオフィーリアが説明すると少年はあっさりと納得して、一日も経たないうちに仲良くなっていました。

しかし、今まで屋敷の管理を任されていた使い魔たちの頭を悩ませる事が翌日から起こります。

それは少年が屋敷の管理に関わる仕事が一切出来ない事でした。

掃除を頼めば家具を壊しまくり余計に汚れる、食事の支度を頼めば、炭のようなパンが出来上がり、庭仕事を頼めば、そこら中が荒野のように荒れ果ててしまいました。

その後始末みんな使い魔がしなくてはならないのです。

少年はきっと育ちがよく、雑用などした事がないのでしょう。

それとも何も記憶がないせいなのでしょうか。

とにかく不器用な少年で在る事は確かでした。

少年は結局、しばらくの間オフィーリア専門のお茶係になりました。

他の雑用はめっきり駄目な少年でしたが、不思議な事にお茶を入れる腕だけは素晴らしいものがありました。少年が淹れたお茶を飲むととてもリラックスして、まるで夢の中にいるようなふわふわした心地になるのでした。

それから、少年は物語を読み聞かせるのがとても上手でした。

ある時は一国の王に、ある時は身寄りのない乞食に。

それはそれは上手になりきって見せるので、オフィーリアはまるで少女のように少年が話す物語の虜になってしまうのでした。

自分でも何度も読んだ物語のはずなのに、少年の語るお伽話や冒険譚はまるで生きて呼吸をしているかの様でした。

この世界に生まれてからずっと、もの言わぬ使い魔たちと暮らしていたオフィーリアは、少年と出会い始めて心から笑い、時には喧嘩をしたりもしました。

始めこそ遠慮をしていた少年でしたが、もともとは明朗闊達な性格らしく、オフィーリアが使い魔たちに頼んで用意させカーテンの模様について、半日口論した挙句。オフィーリアが自室に籠城し、結局二人の趣味の間をとった柄に落ち着きました。

そうかと思えば、少年らしい純真無垢な面もあり、着替え中のオフィーリアの部屋に入ってきたときなどは顔を真っ赤にして走り去って行った事もありました。


そんな日々を繰り返しているうちに、オフィーリアの中に今まで感じたことのない感情が沸き上がってくるのでした。

それは時に暖かく、時に鋭く胸を刺すような物でした。

オフィーリアはその感情を何と呼ぶのか、沢山の本を読んで知っていました。

しかし、それは魔女が人間に対して抱いてはいけない感情の一つでありました。


その感情を自覚してからオフィーリアは少年と距離を置くようになりました。

部屋に閉じこもりがちになり、薔薇の庭に立つ少年を部屋の窓からじっと見つめる日々が続きました。

そんなある日の早朝。

キッチンの方からけたたましい物音がして、オフィーリアが慌てて様子を見に行くと、そこには凄惨な光景が広がっていました。

保冷庫に入れてあった卵がいくつも割れ、バターが床に散乱し、その中に白い小麦粉にまみれた少年が転がっていました。

「何をしているの?」

オフィーリアは思わず叫びました。

すると少年は情けない顔をして

「最近オフィーリアの元気が無いようだったから、君の好きな薔薇のパイを作ろうとおもったんだ」

それを聞いてオフィーリアは沸き上がる胸の痛みと、暖かい感情から目を逸らすことなどできないのだと思いました。

後片づけを手伝い、少年と二人でパイを作ります。

「バターは溶かさないように生地に包んで、何度も練りこむのよ。」

凍えるような寒さの中二人は黙々と作業を続けました。

そんな時ふと少年が呟きました。

「ごめん」

「どうして謝るの?」

「どうしてかな?だけど色々と迷惑を掛けているから。だから、君の負担になっているんじゃないかと思ったんだ」

オフィーリアは胸が詰まる思いがして少年を振り返りました。

すると少年もフィーリアをまっすぐに見つめていました。

一瞬だけ二人の時が止まります。

「そうじゃないのよ。そうじゃ……」

「じゃあどうしてこの数日、僕を避けていたんだい」

「いけない事だからだわ」

「何がいけないの?」

オフィーリアは次の言葉を紡ぐのを躊躇いました。

言ってしまえばどんな形であれ、もう今までの二人ではいられない。

その事が怖かったのです。

「なら僕から言おうか。君は……」

その時、チンとオーブンが焼ける音が少年の言葉を遮りました。

オフィーリアはミトンを持ってオーブンを開けました。

パイ生地の焼けた香ばしい匂いがキッチンを包みます。

「今夜はワルプルギスの夜ね。年に一度魔女たちが集まるお祭りよ。この近くの離島で花火が上がるわ」

「それはいいね。それじゃあ花火でも見ながら薔薇のパイを食べようか」


その夜、二人は庭のテラスに出て花火を見る準備をしました。

テーブルにはもちろん早朝に作った薔薇のパイ。

そして、少年の淹れた紅茶を用意して。

そんな中ふと少年が思い出したかのように言いました。

「今朝の話の続きだけれど……」

オフィーリアは息を飲みました。

「その話はもう終わりにしましょう」

「駄目だよ。ちゃんと言って置きたいし、ちゃんと聞いておいたいんだ」

「話すことは何もないわ」

「君にはなくても僕にはある」

その時遠くで花火が上がる音がしました。

「やめて!」

オフィーリアは叫びましたが、少年は続けます。

「僕は君が好きだ、オフィーリア」

少年が告げると同時に空に大輪の花が咲きました。

パラパラと光の余韻が二人を包みます。

「それはいけない事なのよ、アルト」

「どうして?僕が子供だから?」

「いいえ、違うわ」

オフィーリアは言葉を区切り、深呼吸を一つしました。

「私が魔女だからよ」


そぼ降る雨の庭にオフィーリアは佇んでいました。

少年は昨夜のうちに屋敷を出て行った様でした。

これで良いのだとオフィーリアは自分に言い聞かせました。

いえ、最初から少年と深く関わり合いにならなければ、お互いにこんな思いをする事もなかったのです。

こんな胸が引き裂かれるような思いをする事は……

何より魔女が人間に本気で恋をする事は許されないのです。

何故なら魔女にとって人間は食料の様な物であり、それ以上でもそれ以下の存在でもないはずなのです。

それなのに何故、オフィーリアは少年に恋してしまったのでしょうか。

それはオフィーリア自身にも分かりませんでした。

最初は人間に対する好奇心から、少年を側に置いていたに過ぎなかったはずなのに。

そんなことを考えながら、庭の薔薇を摘んでいると、ふと後方に人の気配を感じました。

そちらに近づいて、恐る恐る薔薇の垣根を分けて見ますと、そこにはお屋敷を出て行ったはずの少年が咲きかけている真珠色の薔薇を摘もうとして屈んでいました。

「アルト」

オフィーリアは思わず叫びました。

「わあ」

オフィーリアの声に驚いて少年が振り返ります。

「どうしてここにいるの?出て行ったんじゃなかったの?」

すると少年は戸惑いながら、一輪の薔薇を差し出しました。

「それより見てよこれ。とても綺麗だろう」

「ええ、本当に。こんな薔薇この庭にあったかしら」

「みんなに教えてもらって僕が品種改良したんだ。やっと少しだけ咲いてくれた。」

少年がみんな呼ぶのはオフィーリアの使い魔の事でした。

「そうだったのね。品種改良なんてすごいわ」

オフィーリアがそういうと、少年は得意そうに笑いました。

「オフィーリアをイメージして作ったんだ。名前は『魔女の涙』何だかオフィーリアを見ているとそんな名前が良いような気がして。それが嬉しくて流す涙なのか、悲しくて流す涙なのかは分からないけれど」

オフィーリアはじっと薔薇の花を見つめました。

純白の薔薇はまるでシルクのごとく滑らかで、花弁に含んだ朝露がまるで真珠のように涙のように輝いているのでした。

「オフィーリア」

少年は呼びかけました。

「君は一体どちらの涙を流すの」

そう問われてオフィーリアは決意したように顔を上げました。

「きっとどちらもだわ」

と囁くと、少年の唇にキスをしました。

それは朝露のように柔らかく優しいキスでした。


そうして少年とオフィーリアは恋人同士になりました。

少年は庭園の一角に咲き乱れる『魔女の涙』を花束にしてオフィーリアにプレゼントしました。

そうして自分が大人になった時、オフィーリアと婚姻の契りを交わすと約束しました。

やがて死が二人を別つまでオフィーリアの側にいると……




それから一年ほど経ったある日の事でした。

西の大陸にある国のとある森がその中に佇んでいた寄宿学校もろとも火の海になったという噂が飛び込んできました。

しかもそれが魔女の仕業で在るとして、世界中で魔女狩りが行われるようになったのです。

その火の粉は北の大陸に住むオフィーリアの元まで飛んできたのでした。

使い魔がその情報をオフィーリアの元まで運んで来た頃には、時はすでに遅く、術師を引き連れた西の大陸の村人たちが何百人もオフィーリアの屋敷を取り囲んでいました。

「君の事はきっと僕が守るよ」

少年はそう言ってオフィーリアの手を握りました。

しかし、それは無理な事だとオフィーリアは分かっていました。

ひとまず二人は一階の応接室の暖炉の裏にある隠し通路から外に出ました。

そこから薔薇の咲き誇る裏庭を抜けて海岸にでます。

そこには一艘のボートが繋いでありました。

「これに乗って、ひとまず孤島に逃れましょう」

オフィーリアの提案に少年は頷きました。


孤島に着いて海岸の側の森を抜けると、そこには古く廃れた教会がありました。

二人は教会に入り、一息つく事にしました。

長椅子に座り、七色に美しく輝くステンドグラスを見ていると、自分たちがまさに今村人たちに追われている事など、すっかり忘れてしまいそうになります。

「僕たちが挙式を上げるのはこの教会にしよう。」

祭壇に掲げられた十字架を眺めながら、少年が呟きました。

「魔女が神に貴方への愛を誓うの?」

「そうだよ、きっと祝福してくれる。だってオフィーリアは何も悪いことなんてしていないんだから」

「そうね。だったらもう少し外壁を修理したいわ」

「そうだね、それから内装を整備しよう。二人でやればきっとできる。」

「仕上がるまでに私たちは一体何度喧嘩するかしら。だって、貴方と私って好みが全然違うんだもの」

「それは君が頑固だからだよ」

「貴女だってそうだわ」

そこまで言って二人は小声で笑い出しました。

こんな状況で明るい未来の話をする。

そんな少年を好きになって良かったとオフィーリアは思いました。

しかし、そんな幸せな未来を壊そうとする足音が外から聞こえてきました。

オフィーリアと少年は息を殺して祭壇の後ろに隠れます。

しばらくして、数人の男たちがドカドカと教会の中に入ってきました。

男たちは何事かを話しながら、教会の中を見回ります。

オフィーリアと少年はその間、生きた心地がしませんでした。

男たちはオフィーリア達の姿がないのを確認すると教会から出ていこうとしました。

その気配を感じた二人はほっとしましたが、その瞬間オフィーリアのドレスの裾がさいだんの側にあった燭台に引っ掛かりそれが勢いよく倒れてしまいした。

大きな音がして男たちが教会に引き返してきます。

もう逃げきれないと悟ったオフィーリアは、少年の襟首を掴むと立ち上がり、隠し持っていたナイフを少年の首元に突きつけました。

「動くんじゃないよ」

オフィーリアは男たちに向かってすごみます。

「オフィーリア?」

少年は驚いてオフィーリアを見つめます。

「いいから、黙っていて」

そう少年に囁くとオフィーリアは男たちと向き合います。

男たちは戸惑いオフィーリアと距離をとります。

「これ以上追ってくるとこの少年の命はないよ」

オフィーリアが低い声でそう叫ぶと男たちはまた何事かを相談し始めました。

しばらくしてリーダーと思われる男がオフィーリア達の方にゆっくりと歩いてきました。

「動くなと言っただろう」

オフィーリアが叫ぶと、男は立ち止まりました。

「分かった。その少年を解放するなら、お前をこれ以上追わないと約束しよう」

「本当だな」

「ああ、約束する」

その言葉を聞いてオフィーリアは少年を男たちの方へ突き飛ばしました。

「オフィーリア何故」

少年が叫びます。

オフィーリアが少年を手放した理由は簡単でした。

もし、少年が魔女に魅入られていると判断されれば少年は神の加護から外れた存在としてオフィーリアと共に処刑されてしまうからです。

少年の声に振り返ったオフィーリアの涙を見て、少年はすべてを悟りました。

「オフィーリア」

男たちに遮られながら、少年が叫びました。

「必ず迎えに行くから、だから……」

祭壇の下の隠し通路に降りる階段のなかで、オフィーリアは少年の声を聞きます。

「だから、待っていて欲しい」

それがオフィーリアと少年の最後の別れとなりました。


その後、オフィーリアは教会の裏で村人たちに捕まり、その場で火あぶりとなり、その灰はオフィーリアが捕まった教会の墓地にまかれ、オフィーリアの魂はそこに縛られる事となりました。

少年は村人に保護された後、一週間ほど高熱を出し、その後術師によって体中を覆っていたオフィーリアの魔力を取り払う事によって回復しましたが、目を覚ました後はオフィーリアとの日々をすっかり忘れてしまっていました。その代わり、オフィーリアと出会う以前の記憶を取り戻し、無事に両親との再会を果たしました。

そうして少年は何気ない平穏な日々へと帰って行きました。

その心に大きな蟠りを残しながら……




「どうして、あの人は迎えに来てくれないの?どうして……」

今でも少年を待つ魔女の慟哭が孤島の教会から響いてくると噂されています。

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オフィーリアと少年 雨宮翔 @mairudo8011

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