第10話 腿太郎、最終回
「それでは、私が審判を勤めさせていただきます。猿山です」
挨拶をすれば一斉にブーイングが飛び交いますが、猿山の「だまらっしゃい!!!!」の一言で静まり返りました。
鬼巡りツアー中、ずっと腿太郎と鬼達の審判をしていたのです。伊達ではありません。
「ルールの確認をします。ゲーム名は耐久勝負、互いに得意技の蹴りを交互に相手に叩きこみ、最後まで膝を着かず、立っていられた者が勝利です。それでは、クジを引いてください」
犬塚が二本の枝が入った筒を持って二人の間に歩いていきます。
「枝を引き、赤い印がついている方が先攻です」
猿山がそういえば、腿太郎はこう言いました。
「ここは鬼ヶ島だ。なので鬼ヶ島の主が先に引くべきだ」
その提案に大鬼はほう?と感心した顔をしました。
「人の癖に鬼を同じように扱うか。気に入った。俺の事を鬼凱(キガイ)と呼ぶことを許そう」
「鬼凱か。そうさせてもらおう」
まず大鬼、改め鬼凱が引き、腿太郎が引きました。
「俺が、先攻だ」
いうや攻撃の構えをとります。
周りの鬼達はニヤニヤとしておりました。きっとこの一撃で腿太郎は再起不能になると考えているのです。
「一撃で終わってくれるなよ…。フンッッ!!!!」
鬼凱の蹴りが防御の構えを取った腿太郎の太ももに炸裂しました。
衝撃波が発生し、余裕ぶっていた周りの鬼達がふっ飛びました。
そんなことは想定内の猿山はとっくのとうにスパイクに履き替え、雉尾の掘った塹壕に犬塚と共に避難しておりました。
「ははは!やりおる!」
しかし腿太郎はびくともしません。
「さぁ、次は私の番です」
足を振り上げ、鬼凱の太ももにタイキックを叩きこみました。
こちらも衝撃波が発生し、鬼達の上にある崖に盛大にヒビが入り、弾け飛びました。
落ちてくる破片を鬼達は必死で逃げて回避します。
双方本気の蹴りなのが分かりました。
「結構な威力だ」
満足そうに鬼凱は言います。
「次は俺だ。どこまで持つかな?」
二人の戦いは、なんと三日三晩続きました。
手を抜かない全力の攻撃を受け続けた足は限界なようで、ガクガクと震えていました。
「はぁ、はぁ、いい加減に倒れろ!!!!」
鬼凱の渾身の蹴りが腿太郎を襲います。
衝撃波は威力が落ちておりましたが、並の人間ならば凄い勢いで飛ばされるほどの威力はありました。
しかし、それでも積み重なった疲労は腿太郎の体を蝕んでいました。ぐらりと、初めて腿太郎が体勢を崩したのです。
勝った。
と、鬼凱は思いました。
ようやくこのゲームを終わらせられると喜びました。
「まだ、まだ、だ」
ですが、腿太郎は持ちこたえました。
二人の繰り返し与えられた衝撃波によってひび割れた地面を踏み締め、膝を着くことなく堪えたのです。
鬼凱は生まれて初めて絶望を感じました。
まだ。続くのか、と。
「いくぞ」
大きく踏み込んだタイキックが鬼凱に打ち込まれました。
その時です。
「あ」
一瞬気を抜いてしまったツケか、それとも限界だったのか、鬼凱の膝から力が抜けてしまいました。
巨体が傾き、とうとう鬼凱は膝をついてしまいました。
一瞬の静寂の後、猿山が穴から飛び出し確認をします。
そして宣言しました。
「この勝負!!腿太郎の勝利です!!」
歓声が響き渡ります。
なんと鬼の方からも歓声が上がっておりました。
そうです。
この三日三晩の戦いを見て、鬼達は腿太郎を同格の存在と受け入れ、ただ純粋にその強さを讃えたのです。
信じられないという顔でその場で項垂れたままの鬼凱の目の前に手が差し出されました。
顔を上げると、腿太郎でした。
その顔は見下した表情などなく、同胞を見つめる目をしておりました。
「鬼凱。とてもいい勝負だった」
なんという人間でしょうか。
どこまでもバカな、それでいて気持ちのよい人間でした。
「はは」
鬼凱は笑いました。
「まったく。腿太郎、お前は強いな。完敗だ」
笑いながら腿太郎の手を取り、立ち上がりました。
そこにはもう敵ではなく、互いの力を認めあった友がいるだけでした。
こうして、腿太郎と鬼の大将の一騎討ちにより鬼達は敗けを認め、もう二度と人間に嫌がらせをする事はなくなりました。
鬼達は腿太郎の提案した人間と出来る楽しい遊びを考案し、鬼達も人間も大いに喜び、姿の違う友と認めるようになりました。
器用な仕事は人間が請け負い、力の使う仕事は鬼が請け負う。
互いに手を取りあって、人間と鬼達は仲良く暮らしましたとさ。
「めでたし、めでたし」
と、ある老婆が楽しげに呟くと、戸がガラリと開いて大きな鬼が家の中に入ってきました。
「クミテばーさん。上着が裂けた。直してくれ」
「あんれまぁ、まーた鬼凱は腿太郎と力試しをしたのかい。しょうがないねぇ。修行はちゃんとしているのかい?」
「しとる。コブシじじいは容赦ない。珍しく腿太郎が滝壺に落とされた」
「あらあらあらあら。まったくもうじーさんは…」
あのあと鬼凱は腿太郎に抱いていた誤解を解かれ、おじーさんとおばーさんに会いに来ました。そしてなんやかんやありまして、二人の弟子になったのです。
こうして、たまに友達と一緒に帰ってくる腿太郎と遊んでは服を破ってしまいますが、それを直すおばーさんは楽しそうでした。
「はい。できた」
縫い合わせた服を鬼凱が着ます。
もうすっかり馴染んでいました。
「皆に伝えておくれ。今日は熊鍋パーティーだよ、ってね」
それいけ腿(モモ)太郎ッッ!!!~超絶タイキック伝説~ 古嶺こいし @furumine
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