第七章 天使のララバイ 悪魔の鎮魂歌
「リク、大事なことって?」
早倉が不思議そうにリク(がいる辺りの空間)を見つめている。
リクが覚悟を決め、口を開こうとした瞬間、涼介の方も覚悟を決めたらしい。ナイフを持って早倉に襲いかかろうとした。
とっさにリクは早倉を突き飛ばし、ナイフを受けた。
「なんで…?」
早倉はナイフと涼介を交互に見ながら、そう呟いた
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「リクはどうなったの!?」
ひなが慌てて聞いた。
「忘れたのかい?リクは悪魔だよ。ナイフなんかで死ぬもんか」
「良かった…」
たくとひなは顔を見合わせ安堵の息をついた。
「それから、リクは涼介を気絶させたあと、早倉に電話の内容や彼を覆う負のオーラのことを伝えた。彼女は涼介を軽蔑の目で見たあと、リクに礼を伝えようとしたが、彼はそこにはいなかった」
「え、それって…」
「消えたんじゃないよ。そのとき彼は生まれて初めて悪魔としての役目を果たしていた」
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「あいっつつつ…、ここどこだ?」
涼介は気がつくと暗闇のなかにいた。遠くからゆっくり近付いてくる影が一つ。
「だ、誰だお前!」
影は涼介の質問には答えず、続けた
「我が名はリク。お前の望みを言え。どんな望みでも叶える力を我は持っている。」
望みを叶えるというワードに欲深い涼介は反応した。リクの作戦通りだ。
「なんだなんだぁ?望みを叶える?マジかよ、えー、そうだなぁ…。金だ!金がありゃ手に入らないものなんかない!使いきれないほどの金をくれ!」
リクが指を弾くと空から札が降り始めた
「うぉぉぉ!スゲー!」
「お前の払う代償はたった一つ」
その言葉はもはや涼介の耳には届いていなかった。お札の山に埋もれ、身動きのとれなくなった涼介を一人残し、リクは早倉の元に戻った。
「リクなの?」
リクが戻ったと気付いたらしく、早倉がよってきた。
「もう、毎回毎回急にいなくならないでよ」
「すみません…」
そういうと、二人で笑いあった。
「ねえ、リク」
「はい?」
「助けてくれて、ありがとう」
リクは照れたように笑って「いやぁ、そんな大したことしてないですよ」と言った。
そのとき、シューっと風船が萎むような音がして、リクの体が輝き出した。
「な、なに!?なんの音!?」
「もう少し持つと思ったんですが…どうやら、そろそろお別れみたいです」
リクは自分の体が消えかかっているのを感じた。
「どうしたの!大丈夫!?リク!」
「あの、早倉さん。最期に一つだけ言わせてください」
「最期だなんて言わないでよ…!」
リクは涙を浮かべた早倉の手を握り言った。
「友達だと言ってくれて、ありがt――」
「リク!リク…?リクー!」
リクの姿が完全に消え去ってしまうほんの一瞬前、早倉の目に僅かにリクの顔が映った。初めて見るはずなのにどこか懐かしいその顔は、少し寂しそうに彼女に向かって微笑んでいた。
「リクー!!!」
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「これで、私の聞いた話はおしまいだよ。」
「リクは…消えちゃったの?」
ひなが悲しそうな顔で呟いた。
「さあ、どうだろうかね。あたしの聞いたのはここまでだから。じゃあ、たくちゃんもひなちゃんも…たくちゃんはもう寝ちゃったみたいね。ひなちゃんもそろそろ寝なさい」
「はーい、お休み。おばあちゃん」
ひなもそういって布団をかぶってしばらくすると小さく寝息をたて始めた。
おばあちゃんが二人を起こさないようにそっと子どもたちの部屋から出ると、おじいちゃんが待っていた。
「子どもたちは、もう寝た?」
「ええ、もうぐっすり。私たちもそろそろ寝ますか?」
「そうだね、…ところで子どもたちからお話をせがまれていたようだが、なんの話をしてたんだい?」
「内緒ですよ」
「気になるなー、教えてよー」
「ダメでーす。おしえませーん」
「ケチー」
「ケチで結構」
するとおじいちゃんは諦めたかのように寝室に向かうかと思いきや、くるっと振り向き、イタズラっぽく笑った。
「じゃあ、お休み。…さ・く・ら・さん」
「なによ、結局聞いてたんじゃないですか」
おばあちゃんは呆れたように呟いて、吹き出した。
釣られておじいちゃんも笑う。
「おやすみ、リク」
[完]
天使のララバイ 悪魔の鎮魂歌 帽子少年 @mikikun_engeki
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