第六章 友情と約束

シュバっと破裂音のような音がして、リクが空中に現れる。

しかし、バランスを崩し尻餅をついてしまった。


「あいっててて…」


リクが軽く周りを見回すと、そこは間違いなく早倉の屋敷であった。初めて狙った場所にちゃんとテレポート出来たことに喜ぶリクだったが、早倉を待たせてることを思いだし、急ぎ足で部屋から出た。

あと一つ角を曲がれば早倉の部屋にたどり着くというときだった。リクは廊下の突き当たりに奇妙な人影を見た。

身体中から負の黒いオーラをまとい、リクの。いや、悪魔の目からすると、見ただけでなにか良からぬことを考えていることは明らかだった。


「わかってるって。上手く奴を始末しちまえば、遺産の相続人は俺になるんだ。あとはあのタヌキおやじがコロリするまでのんびり待つだけさ。…億だぜ億!何としてでも手に入れてやるよ!」


そういうと、その人影は下品に笑った。リクはその声をどこかで聞いたことのある気がしたが、思い出せなかった。

この屋敷でそのような話をしているということは十中八九、早倉のことだろう。リクは慌てて早倉のいる部屋に駆け込んだ。




部屋に入ると、早倉はぐっすり眠っていた。なんとか揺さぶって起こすと、早倉は眠そうに目を擦りながらリクに「どこに行ってたのよ!」と文句を言った。


「その説明はあとでしますから!それより大変なことが!」


リクはなんとかさっき見た怪しい男について説明しようとするが、気が動転して上手く話せない。そうこうしているうちに、さっきの怪しい男が部屋に入ってきてしまった。


「涼介、どこまでトイレ行ってたのよ、遅かったじゃない」


その言葉を聞いて、リクは固まった。早倉を殺そうとしていたのは従兄弟の涼介だったのだ。


「わりぃわりぃ、ちょっと迷っちまってよ」


その声でリクははっと我に返り、早倉の肩をつかんで


「こころして聞いてください!今から凄く大事なことを言いますから!」


と固く目をつぶりながら言った。早倉は一瞬不思議そうな顔をしたが、リクの必死な声色を聞いたからかなにも言わなかった。


「彼は…彼はあなたを殺そうとしています!」


リクはそう叫ぶのとほぼ同時に周りから音が消えるのを感じた。

そっと目を開くと、目の前には真剣な表情でリクの方を見つめた状態で動かない早倉がいた。


「さ、早倉さん!?どうしたんですか!返事をしてください!」


そのとき


「落ち着け、リク。俺が一時的に時間を止めただけだ」


破裂音と共に先輩が宙に現れリクの前に降り立った。


「先輩!」


リクは、突然の来客に驚くも、先輩がここに来た理由は分かっていた。


「止めに来たんですね、私を…」


先輩は無言で頷いた。


「ここで、私が早倉さんにあの男のことを伝えてしまうと、私のために彼女は死を回避してしまう。そうしたら、私は消滅してしまうかもしれないと」

「そこまでわかっているならなぜ!?たった一人の人間。それも出会ったばかりの。それを救うためだけに、お前は!自分の命を投げ出すというのか!?よく考えろ!消えるのが怖くないのか!?」

「そんなもの…」


リクはぎゅっと口を閉じ、うつむいた。


「そんなもの…怖いに決まってるじゃないですか…。消えたくないですよ!私だって生きていたい!今すぐ逃げ出せたらどんなに楽か!」


そこまで叫ぶと、リクは体の力を抜いて微笑んだ。


「でも、だとしても彼女を守りたいんです。確かに彼女とは今日あったばかりですけど、でも…彼女は……早倉さんは、私が悪魔だからと言って目を背けたり、嫌な目で見てきたりはしなかった。それに、…私のことを友達だと言ってくれました。初めてできたたった一人の友達…。彼女を守るために私の命が必要なんだって言うのなら、それを投げ出すくらいの覚悟はあります!」


先輩は、諦めたようにふっと笑うと、


「覚悟はある…か…。それなら私から言うことはもうなにもないな。そこまで言い切ったんだ。絶対彼女のこと守ってやれ」


そう言って、リクのスーツの襟を整えた。


「それと…消えるなよ、絶対無事に帰ってこい!」


先輩はリクを力強く抱き締めた。


「大丈夫ですよ、先輩が教えてくれたんでしょ?光があれば影は存在するって。彼女がいる限り、私はきっと消えません」


冗談めかしてリクがそういうと、先輩はリクから手を離し、


「そうだったな、…お前は本当に強いよ。いい部下を持てて、私は幸せだ」


と涙を拭った。


「…じゃあ、時間をもう一度動かすぞ。準備はいいか?」

「はい!」

「それじゃあ、頑張れよ。リク…」


時間は再び動き出す。

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