最終話 初恋よさようなら

 遠ざかる。

 君の気配は消えていく。

 僕の隣りにずっといた君はもうそばにはいない。

 お互いの心は遠くなって君はもう僕の元には戻らない。


 僕はアパートに戻り、ゴミ袋にどんどん【思い出たち】を詰め込んだ。

 茉優花との五年間でたまった写真やプレゼントやペアの物を躊躇いなく捨てていく。

 袋は三つにもなって最後にハリネズミのクッションを押し込んだ。


 ソファベッドもお揃いの枕も粗大ゴミに出そう。部屋のなかの物は茉優花と選んだ物ばかりだった。

 茉優花との思い出を捨てたら部屋にはほとんど〈物〉がなくなるんだろう。


 僕はあのアヤって子に幼い頃の自分を重ねて、自分自身も助けたんだ。

 そう……思うことにした。

 茉優花とマサヒロって奴とアヤって子。

 家族のようだった。

 僕の方が邪魔者だ。


「ふーっ」

 片付けは八割済んだ。


 ここも、いずれ新居にと茉優花と二人で選んだんだ部屋だったな。

 引っ越そう。

 未練は僕にはもう必要ない。

 初恋の痛みを持ち続けたって、彼女は戻らない。


 僕は新しい生活を求めて、歩いて街に出た。

 とりあえずは新しい棲み家を手に入れよう。蓄えは茉優花に渡した分の他にもあるし、また働けばいいさ。

 足は不動産屋さんに向かう。

「さっむ……」

 ダッフルコートの前をしっかり止めて北風を受け止める。


 僕の初恋よ――

 さようなら。


 心は痛むが、清々しい気分だ。

 肌を刺すほどの冷たい冬の風が心地良い。

 

 空には色のうすーい幻みたいな虹がかかっていた。




           【了】





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初恋はサヨナラ 天雪桃那花 @MOMOMOCHIHARE

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