「あーちゃん、今日もいつもの公園でいい?」艶のある少し猫っ毛な僕と同い年の女のコ。やらかい髪が揺れると共に、うん。と温かい声が鼓膜を叩いた。朧気な表情を浮かべた横顔はこの世のなによりも儚なかった。好きだと強く意識すればするほど遠くに行ってしまう気がした。ああ、好きだ。離れてゆくのではないかと思うが気持ちに嘘をつくことは出来ない。彼女の甘い匂いはまるで大麻だ。一度吸ってしまえばダウナーとなり気持ちは安定し、しばらくするとまた欲しくなる。中毒性は異常だ。一緒にいるだけで全ての細胞が再生されるように、同じ空気を吸っていると全身麻酔のよう彼女に全てを支配される感覚になる。全てを捧げても構わない、彼女は真っ直ぐ僕を見つめると目の前は砂嵐となり夢は覚めた。醒め際に「さようなら」とだけ残して彼女は砂嵐に呑まれた。夢現な状態でゆっくりと夢の続きに入ろうと時間と空間に溶け込む気で呼吸をしたが、無念。諦めて身体を起こしクーラーの温度を下げた。彼女の時間は半年前から動いてない。自殺したのだ。遺書も残さずODの末、一酸化炭素中毒でこの世を去った。奇妙なことに身の回りの貴重品類は既に炭となっていた。他殺の節も考えられたのだが呆気なく揉み消されてしまった。最近若い子の自殺が耐えなくてね、と。

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擦れ違い 樗木 なた @Natalie00

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