第4話 Aランクの火竜を討伐

 俺は火竜の谷に向かうため、駆けていた。

 前世の記憶が戻り、魔力を鍛えること4ヶ月。

 今では常人の10倍の魔力量がある。

 なので身体強化の出力を上げ、かなりのスピードで走行している。

 到着する頃には魔力は空になるだろう。

 魔力回復のポーションがあるため、魔力の消費は気にしていない。

 だから、わざわざ馬車を使う必要もない。


 俺の荷物は武器となる剣とポーションの入ったバッグだけ。

 あれだけ準備が大事だと言っていた割には少ないように思えるだろう。

 だが、問題ない。

 なにごとも量より質だ。


「見えてきたな」


 火竜の谷。

 上空に黒い霧が立ち込める山々に挟まれた谷は、見るものを恐怖させる。

 本能的に、ここは危険だ、ということを知らせてくれるだろう。


「さて、じゃあ始めるか」



 まず、バッグからポーションを魔力回復のポーションを取り出す。

 これを飲み、移動に使った魔力を回復する。

 魔力量が多くなったというのに、ポーション4つで魔力が全快した。


「薬草の品質に加え、錬金術の腕も上がってきているようだな。良い傾向だ」


 無属性魔法は前世の自分を超える才能を持っている。

 そのおかげで錬金術の上達速度は、かなり早い。



 そして次に取り出したのは、耐火のポーションだ。


 火竜の必殺技は、禍々しい口から吐き出す燃えさかる火炎。

 その火炎に数多の冒険者が焼かれたという。

 非常に厄介だが、錬金術師ならば事前に情報さえあれば、いくらでも対策が出来る。


 この耐火のポーションなら火炎を無効化できる。


 まず1つ目のポーションの蓋を開け、頭からぶっかける。


「くさっ! めっちゃ臭い! かけてみたら大惨事になってしまった!」


 何事も失敗は、つきものだ。

 成功より失敗からの方が学べることは多いのだ。


 ……まぁ臭いがキツイ分、効果は非常に良い。

 耐火のポーションを身体にかけることによって、皮膚や髪、衣服が燃えることは無くなった。

 だが、これだけではダメージまで防ぐことは出来ない。


「次だ」


 もう1つ耐火のポーションを取り出し、飲みほす。


 これで外側と内側、どちらも守っているので、火炎の攻撃を無効化出来る。


 効果時間は1時間程度だが、予備は何個かある。

 時間がかかった場合は、余裕を持って次の耐火のポーションを飲んでいくとしよう。


 ──バサッ、バサッと遠くで翼を打つ音が聞こえてきた。


「どうやら相手の方から来てくれたほうだ」


 黒い霧に赤色の飛行物体が見える。

 それは段々と大きさを増していく。

 既に俺を捉えているようで、こちら目掛けて加速を始めた。

 あの長距離からよく俺を見つけたな。

 流石、火竜の谷。絶対に近づいてはいけないと言われている場所なだけはある。


 バサッ、バサッ。


 頭上にやってきた火竜は、鋭い爪を操り、俺に攻撃を仕掛けてきた。


 身体強化の出力を最大にする。

 この調子なら魔力は3分間で底をつくだろう。

 だから早いうちに終わらせる。


 攻撃してきた爪を剣で受け止める。


「──うん。剣は刃こぼれ一つしていないな。錬成した甲斐があった」


 この剣は元々、騎士団で使われている鉄の剣だ。

 鉄の剣ではAランクの火竜相手の攻撃に耐え切れず、破損してしまうだろうと思っていた。

 だから俺は材質変化で炭素の割合を増やし、鋼に変えた。

 現状作れる武器で最強なものが鋼の剣。

 これがダメそうなら、すぐに逃げ帰るつもりだった。


「上出来だ。これなら火竜を倒せる」


 火竜の攻撃は爪の攻撃が通じないと判断したのか、尻尾をこちらに振ってきた。

 それを避け、火竜の翼に一撃を入れる。


「ウギャアアオン」


 怯んだが、まともなダメージを与えられている気がしない。

 だが、その隙にもう一発脚に攻撃。

 すると、口から火が漏れ出し、咆哮をあげて怒りを露わにした。


「ギャアアアオン」


 火竜は大きく息を吸い込んで、火炎を吐き出した。


 ──これを待っていた。


 俺は火炎をものともせず、走り出した。

 もちろん、火炎は俺に直撃。

 耐火ポーションのおかげで少し熱を感じるだけだ。

 完全に火竜の切り札を無効化している。


 そして、この火炎は厄介な分、隙は大きく、弱点が出来る。

 火竜の前まで走り、口のところまで跳躍。


 火炎を吐き出しているときは、口の中に魔力が集中する。

 つまり、ここで魔力を火炎に変換させているのだ。

 だから、このデリケートなところに衝撃を与えれやれば──。


 右の肩を後ろに下げ、火竜の口目掛け、そのまま剣を突き出す。


 グサッとした感触を手に感じた。

 火竜の口の中に魔力が異常なまでに集まっていく。

 魔力の暴走だ。

 まずい。

 そう思った俺は剣から手を離し、後ろに下がった。


 その瞬間、大きな音をたてて、火竜の口は爆発した。

 衝撃が伝わってくる。

 堪えなければ飛ばされてしまいそうだった。


 爆破がおさまると、頭の無くなった火竜が地に伏していた。


「討伐完了だな。……ふぅ、余裕だと思っていたが、結構危なかったもんだ……」


 伊達にAランクに指定はされていない。

 舐めてかかると痛い目を見る。

 もう少し万全を期した方が良かったな。

 最近成功続きで天狗になっていたのかもしれない。

 だが、もう大丈夫だ。

 今日は2回も失敗を経験出来たのだから。


「とっとと必要なもの剥ぎ取って、帰るとしよう」


 メアリーには火竜を討伐すると伝えていたのだ。

 ひどく心配しているようで、何度も止められた。

 早く帰って安心させてあげたい。


 鱗、尻尾、翼膜を剥ぎ取る。

 目は──なんとか使えそうか。


 用を終えた俺は、来るときよりも急いで屋敷に帰った。

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